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人間失格~仁義なき復讐~  作者: 猫塚ルイ


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85/100

第85話

「────ッ!!!」

 

左手から脳髄へと直接突き抜ける、凄まじい衝撃。


それは単なる電気的な痛みではない。


三十年前の親父の怒号、大河内の冷徹な殺意、神崎が積み上げた数式


そして『黒い百合』が葬ってきた数多の犠牲者たちの無念


――そのすべてが、一滴の混じり気もない「情報の濁流」となって俺の意識を蹂躙する。


「兄貴!!」


駆け寄ろうとする山城を、源蔵が必死に羽交い締めで止めている。


「やめろ、山城!今の和貴に触れたら、お前の脳まで焼き切れるぞ!」


視界が明滅する。


赤、青、白。現実の洞窟の景色が消え、俺の脳内には「新宿」という街のグリッドが浮かび上がっていた。


志摩の声が、遠い海の底から聞こえるような感覚で響く。


『……黒嵜、聞こえるか!繋がったぞ、お前の意識が公安のメインフレームに食い込んだ!今、ドローンの照準コードが見えるはずだ。それを…それを書き換えろ!』


「……どれだ…どれが、新宿のコードだ……!」


膨大な文字列の中、赤く点滅する『SHINJUKU-00』の文字。


その背後には、街を焼き払う「焼却」という文字が無機質に並んでいる。


俺は情報の海を掻き分け、その赤い文字を無理やり掴み取ろうとした。


だが、組織の防衛プログラムが「黒い刺」となって俺の意識を刺し貫く。


『警告。未承認のアクセスを検知。精神防壁を強制起動します』


「…がはっ……!」


現実の俺の口から、どす黒い血が溢れ出す。


鼻からも耳からも熱い液体が滴り落ちるが、俺はタンクから手を抜かなかった。


「……舐めるなよ…!俺の街を……俺の生きた証を…勝手にゴミみたいに燃やすんじゃねえ!!」


俺は脳内の「新宿」に、親父が守り、俺が駆け抜けてきたあの汚くて熱い路地裏の記憶を叩きつけた。


計算式にはない人間の情、理屈を超えた意地。


すると、無機質なデジタル空間に、一瞬だけ亀裂が入った。


『照準変更、受付。…代替目標を入力してください』


「志摩……!どこに、どこに逃がせばいい!」


『……洋上だ! 伊豆諸島のさらに先、誰もいない廃島…「X-03地点」へ書き換えろ!』


俺は残った全精神力を指先に込め、架空の座標を打ち込んだ。

 

【目標変更:新宿全域 ⇒ X-03地点】

 

カチリ、と脳内で何かが噛み合う音がした。


と同時に、俺の意識は深い闇へと突き落とされた。


「……和貴!!」


源蔵の叫び声が最後に聞こえ、俺の体はタンクから弾き飛ばされた。


残された時間は、あと30分。


空から降る死神の矛先は逸らしたが、俺の命の火が、今にも消えようとしていた。


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