表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間失格~仁義なき復讐~  作者: 猫塚ルイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/100

第64話

山あいの静かな宿舎を後にし、俺は夜行バスを乗り継いで、かつての戦場――新宿へと戻ってきた。


一年ぶりに踏む歌舞伎町の土は、以前よりもどこか冷たく


無機質な高層ビルの群れが俺を睥睨しているように感じられた。


「……変わらねえな、この街の匂いだけは」


俺は、写真の裏に記された暗号を頼りに


ゴールデン街の隅にある一軒の古びたバー『リリィ』へと向かった。


看板も出ていないその店は、街の再開発から取り残されたようにひっそりと佇んでいた。


扉を開けると、カビ臭い空気と安ウィスキーの匂いが鼻を突く。


カウンターの奥でグラスを拭いていたのは、白髪混じりの、だが眼光だけは鋭い老女だった。


「……『黒い百合』を探している」


俺がそう告げると、老女の手が止まった。


彼女は俺の顔をじっと見つめ、やがて深くため息をついた。


「……あんた、榊原の息子かい?似てるね、あの馬鹿正直な眼差しが」


「…知ってるって顔だな。詳しく聞かせてくれるか」


「……いいだろう。座りな」


彼女はカウンターの下から、埃を被った一冊の台帳を取り出した。


「『黒い百合』……それはかつて三和会が台頭する以前、この国の中枢を裏から支配していた秘密結社。あんたの親父、榊原と、あの三和会の大河内は、もともとその組織の『掃除屋』だったんだよ」


衝撃が走る。


親父と大河内。


宿敵同士だった二人が、かつては同じ根を持つ同胞だったというのか。


「連中は、国の汚点となる人間を消し、その資産を吸い上げてきた。だが三十年前、あんたの親父は組織を裏切り、その秘密の一部を持ち出した。それが、榊原組を興すための『血の資金』になったのさ」


老女が語る真実は、俺が知る「義理と人情の親父」のイメージを根底から覆すものだった。


親父が俺を極道から遠ざけようとしたのは、ただの親心ではない。


いつか『黒い百合』が、その裏切りの報いを取りに来ることを知っていたからだ。


「……志摩や山城はどうなった。この件に触れたはずだろ」


「刑事は一週間前から行方不明。山城って小僧は、今、横浜の地下刑務所にぶち込まれているよ。……『黒い百合』の息がかかった連中の手によってね」


俺は拳を握りしめた。


終わったと思っていた戦いは、まだその入り口にすら立っていなかったのだ。


「……場所を教えろ。山城を助けに行く」


「やめときな。死にに行くようなもんだよ、和貴」


「……っ」


老女の制止を振り切り、俺は店を出た。


腰に差した脇差が、夜風を吸って鳴った気がした。


親父の過去、組織の正体。


そして、消えた仲間たち。


すべての謎は、黒い百合が咲き誇る「深淵」に眠っているはずだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ