表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第一章 少年

 あれから三百年程の年月が過ぎた、ある春の日。東京(とうきょう)八王子(はちおうじ)市。一人の少年がこう呟いた。

「ここで間違いない」

 少年は大きい建物の前に立っていた。その建物にはこう書いてあった。

妖怪研究所ようかいけんきゅうじょ 八王子本部(はちおうじほんぶ)

 六年程前、日本に突如妖怪が現れ始めた。二十一世紀と殆ど変わらぬ科学力を持つ二十二世紀の人類は、なす(すべ)もなく、ただ妖怪に葬り去られてしまうばかり。この少年の親もまた、そうであった。

 少年の名は仲田(なかた) (じん)といった。妖怪に親を殺されたため、親を殺害されてから五年の時を経て、妖怪を研究、及び殺害する妖怪研究所にやってきたというわけだ。

 妖怪研究所は下級、中級、上級、特別、機密の五つの階級があり、級により戦う妖怪のレベルが違ってくる。また、上級までは飛び級が認められる。

 一番下の下級は、ほぼ虫を駆除する業者みたいな仕事が殆どなので、真面(まとも)な妖怪を倒したかったら、中級になる必要がある。

「やあ、仲田くん」

 そう言って、研究所の門を開けてくれたのはこの研究所の所長。彼は、仲田を研究所に連れていった。

「久しぶりだね、仲田くん。怪我はもう治ったかい?」

 と所長が尋ねると、仲田は、

「あ、はい。おかげさまで。ありがとうございました」

 と言った。そして付け足すかのように、

()()()はごめんなさい、酷いことを言ってしまって……」

 と仲田が謝った。すると、所長は、

「いいんだ。気にしなくて。あの時は君も混乱していただろうしね」

 と笑ってくれた。

 暫くして、所長はこう言った。

「んじゃ、君は妖怪退治屋になりたいんだね」

 仲田は大きく頷いた。

「だがな、いきなり妖怪倒しに行け、と言われてもさ、君、ほぼ確実に死ぬでしょ」

「確かに……」

 と仲田は呟いた。

「だからね、まずは訓練なんだよ。まずは、君の今の実力を試すために、体力テストをしたいと思う」

 所長がこう言うと、所長は仲田の手首を掴んで門から建物までの間にある庭みたいな所へ連れて行った。

 庭みたいなところは練習場で、中学校の運動場の三倍はあるであろう広さだった。誰もいなかった。

「ここで体力テストをするんですか?」

 仲田が尋ねると、所長は、

「ああ、そうだ。とりあえず、早速やってみよう」

 と言った。仲田は、

「分かりました、やってみます……」

 と、何故か嫌そうな顔で言った。


 ピッという音と共に、所長はこう言った。

「十二秒八ニ」

 ストップウォッチを見た所長は一瞬目を疑った。

「……お前十六だろ? 小学生でももっと速く走れるぞ……」

 仲田がやっていたのは、五十㍍走である。十六歳だと、通常はどんなに遅くとも九秒台になるはずだ。だが、仲田は違った。

「これは相当な訓練を受けないと中級隊員はおろか、下級隊員にすらなれないぞ。」

 所長がそう言うと、仲田は、

「所長が俺に訓練を受けさせるのか」

 と尋ねた。

「私は無理だ。そんなに優れていない。教えて貰うのは副所長だな」

 と所長が笑いながら言うと、やっと息が整ってきた仲田を副所長の所へ案内した。


 副所長が最初に言った一言がこれだ。

「新人か」

「よく分かってるじゃないか」

 と所長は笑いながら言った。

「こいつの名は仲田 陣だ。こいつ……」

「運動神経がゴミなんだろ」

 副所長が察して所長の言葉を遮った。

「相変わらずだね。人の話は最後まで聞けよ」

 と所長が言うと、副所長は初めてフッと笑みを浮かべ、

「別に内容が当たってたらいいじゃないか」

 と言った。

 その笑いは、長年人生を共にした友への温かな笑みだった。


 今度は、仲田と副所長が二人で練習場へ向かった。

「とりあえず自己紹介だ」

 副所長は続けた。

「俺は素打(そだ) (つよし)という者だ。仲田といったか、お前、金を稼ぐために妖怪研究所へ入ったんじゃないんだろうな」

 仲田は頷いた。

「ならいい。もし違ったら、今すぐにでもここを追い出しているところだった。それと……」

 副所長がさらに続けた。

「お前の親だか友達だか知らないが、お前の(かたき)を討つ前に死ぬ可能性があることも分かっているな」

「ああ」

 仲田は即答した。

「この世から妖怪(アイツら)が一匹でも多く消え去ってくれるのなら、俺はなんでもする」

 仲田が険しい口調で言うと、

「よし、分かった」

 と、副所長が言ってくれた。だが、副所長は念を押しているのだろうか。もう一度仲田へ確認をした。

「最後に再確認だ。『妖怪を倒してみたい』などという浅はかな気持ちで入ったんなら今すぐ八王子(ここ)を出ろ。必ず死ぬ」

 そう副所長が言うと、仲田は、

「そんな気持ちで入る馬鹿はいない。死んだっていい。俺の意思は先ほど話した通り。変わるわけがない」

 と断言した。

「もう後戻りは出来ないぞ、仲田陣。やってみろ」

 副所長がようやく承知した。

 練習場には畳が敷き詰められており、学校の教室二つ分ほどの大きさだった。

「普段は様々な隊員が自主練をしているんだが、今日は誰もいないようだな。思う存分やってくれ」

 副所長がフッと笑って言った。


 夜になった。

「調子はどうだい」

 所長が仲田に対し尋ねた。

「何も初日からそこまでしなくても……」

 と仲田は疲れきった声で言った。

 手にはマメが出来て、血が滲んでいた。

「ハハ……副所長から色々聞かれてるときはあんなに威勢が良かったのに、いざやってみるとやっぱりこれか。まあな、あれは、お前を死なせない為の副所長の優しさの内でもあるんだ」

 と所長は笑いながら言った。

 仲田はなんだか馬鹿にされているようで悔しかった。

「さて、君の生活する部屋を案内しよう」

 所長に連れて行かれて仲田が行った先には、こんな文字があった。

『一〇五号室』

「あの……」

 仲田が何か言おうとすると、所長は、

「はい、鍵。開けてみてくれ」

 と鍵を渡され、仲田は、鍵を開けて部屋の中へ入った。(あかり)がついていなかったので、所長が照明のスイッチを探していた。

「ええと、あ、これかな?」

 カチッと音がして、部屋が明るくなった。

「どうだ、すごいだろう」

 所長はドヤ顔で言った。

 部屋には、ベッドと小さな箪笥(たんす)、便所の入り口、洗面台があった。床には灰色のカーペットが敷いてあった。

「とにかく、ここがお前の家だ。食堂は一階、銭湯が七階にあるから是非使ってみてくれ」

 所長はそういうと部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ