序章 村雨
こんにちは。からりんごと申します。
棚から御萩というのはまあ……グループ名ですね。
喧騒に包まれた江戸の街は、暖かな桜の匂いで満たされていた。
「あいよぉ! 寿司が美味いよぉ!」
「水は要らんかねー」
濁った土を草履で走り回る音があちこちから聞こえてくる。
その街から少し外れた路地裏には、刀鍛冶の店があった。
平和が訪れ、刀の需要が減った後も、この刀鍛冶は細々と刀を造っていた。
「これだ……! これが私が求めていた刀……」
刀鍛冶は静かな声で、しかしどこか嬉しそうにそう言った。
「これで真打は三本目だが……これだけの力があれば……」
刀鍛冶は誰にも見せぬ笑みを浮かべた。
「あの醜い妖怪共を根絶やしに出来るであろう……」
その声には怨念が篭っていた。
「この刀こそが……妖刀・村雨である……!」
刀身の真っ赤な刀からは、不自然な輝きを感じられた。
刀鍛冶は、その輝きを鞘の中にゆっくりとしまった。
「大切な刀だ……傷をつけてはいけない」
カタン、と刀を置く乾いた音がした。
僅かしか開いていない窓からは、冷たい風が音を立てて吹き抜けていた。
「では、こちらの刀は四十五貫文となります。非常に高額ですね……お客さん、相当お金あるんでしょう?」
店番の青年が発する元気な声が作業部屋に響いてきた。
「……」
刀鍛冶はじっと出来た刀を見つめていた。
その瞬間、吹いていた冷たい風が勢いを増し、建物がガタガタと揺れた。
「さっきの風、すごかったですね。銀太さん、大丈夫ですか?」
店番の青年が後ろを向いて呼びかけると、その者が『銀太さん』と呼ぶ刀鍛冶は、そこから忽然と姿を消していた。
「……銀太さん?」
呼んでも返事は返ってこなかった。そこにあるのは、ポツンと置かれた二本の刀。
「……」
店番の青年は黙り込んでしまった。
春に似つかわしくない冷たく強い風は止み、江戸はいつものように賑やかな声で満たされていた。




