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【第二十八話 実家はなぜ狙われたのか】


直子さんの携帯に連絡が入る。


「もしもし…うん、そう…わかった。捜査を続けて」


「どうしました?」


「家の周り、一通り捜索したけど不審な人物は一切、見つからなかったと…」


警察は事件を受けてスグこの一帯を検問封鎖し、周囲の森や藪までローラー作戦で捜索した。だが家の中で負傷していた人物をやったヤツはいっこうに見つかる気配がないという…僕はふとある事を思い出した。


「真理さん、ちなみに負傷者の中に手の甲をケガしている人いました?」


「手の甲にケガ…?いや、聞いてないけど。なんで?」


――少なくとも一人は、健人が噛みつかれた際に手にけがを負っているはずなのに。…となると逃げているのは、ガラス扉を破って入ろうとしてきた侵入者。


「もう遠くに逃げたんじゃ?」


「それが…事件の前後に渡って、一帯の人や車の出入りは全て調べつくしたんだけどそういう気配すらないの」


「まるで多摩丘陵の神隠しじゃない…」


神隠し…僕はその言葉に聞き覚えがある。


「神隠し……なるほど、そういう事か。潜伏場所、一箇所だけ心当たりがあります…!!」


僕は家の外に駆けだした…


「宏樹くん?」


辺りはすっかり夜が明けている。さっきまでたくさんいた警察の姿もまばらだ…すれ違う警官は疲れ切ったように顔を伏せ、うつむき気味に歩いている。すると、後ろから直子さんが追いついてきた。


「ちょっと宏樹くん…?」


「直子さん…子どもたちは?」


「美咲さんが家で見てる…」


僕は犯罪者がまだ潜伏しているのに女性と子どもだけにして大丈夫かと不安がよぎる。それを察したのか直子さんがすぐに続ける。


「心配しなくても大丈夫よ。近くの警察官に警備お願いしておいたから」


「…それならよかった」


「で、何よ?さっき言ってた潜伏場所の心当たりって」


「それは…ココです」


指さす方には地下壕の入り口が。


「一度、健人が家出した事があって。その時も、どれだけ探しても全然見つからなくて…まるで神隠しみたいに。その時に隠れてたのがこの地下壕だったんです」


がっちりハマった鉄格子の扉をグラグラと振動させると、経年劣化した岩と鉄柵の間に隙間ができる。その間に手を突っ込んで裏から手前に引っ張ると、それはあっさりと外れた。その奥をスマホのライトで照らすと、点々と血痕が続いている。


「…!!」


直子さんはすぐに警察の応援を呼ぶが、僕はそれを待たず奥へ進んだ。


「ちょっと宏樹くん!危ない!!」


僕の予想通りなら、この奥には既に…


「宏樹くん!?」


そこには脱ぎ捨てられた黒服が。


「血はまだ乾ききっていない…それほど遠くにいないはず…」


すると応援の警察官たちが雪崩れ込んでくると、直子さんの指示ですぐに地下壕内の捜索が行われる。だが彼の姿はいっこうに見つからない。


「既にどこかへ…?」


「それはムリよ。この辺りは警察だらけ、すぐに見つかるわ」


その服にほんの少しガソリンのような揮発性物質特有の香りを感じる。この香り、覚えがある


「にしてもこんな地下壕のこと知ってるなんて、相当この辺の地理に明るいに違いないわね」


――この辺に詳しいとなると…アイツに間違いない。だとして、警察に見つからず地下壕からどうやって逃亡した?そして、どこへ向かった?いや、もっと大事な事がある。そもそも北朝鮮も、公安も、アイツも…なぜ僕らの家を狙ったのか…?


「…まさか、手記を?」


「え?」


「…まずい!!」


「どうしたの?」


「直子さん、家を出る時、警察官に家の警備を任せたって…どんな顔してました」


「どんな顔って…ちゃんと見てないけど。年配のベテランって感じの人だった気が…」


「おそらくそいつです!そいつが犯人です!」


「なんですって!?」


僕は全力で地下壕を飛び出し、家へ向かう。…彩花!…健人!…美咲さん!無事でいてくれ。




そして、駆けつけた実家の玄関先には…夜明けの青い空の下、ちょうどガソリンを撒き終わりライターに火を灯そうとする男がいた。


――それは警察官の制服に身を包んだ……“緑のおじいちゃん”だった。


直子さんが目を丸くして呟く。


「あなた、まさか……生きていたの?」


「…直子さん、こいつ見おぼえありますよね」


「えぇ、こいつが高橋よ…工作船爆発事故で日本海の藻屑になったはずの、高橋」


「緑のおじいちゃんが、高橋…!?」


扉の向こうから彩花らの声が聞こえた。家の中にいるのか…?


「どうも。高橋……その名で呼ばれるのは40年以上ぶりです」


――そう、彼こそが母の元上司であった高橋。改めて考えると彼ほど疑わしい人物はいなかった。犯人は、植木鉢の合鍵の存在を知り、停電中の暗闇でも家の中を自由に行き来できた。相当、内部に精通している人物だ。その中で緑のおじいちゃんはずっと怪しかった。母が亡くなってすぐ彩花と健人の前に姿を現すようになった。そして、家が留守になるタイミングになると決まって玄関先におすそ分けと称して訪れるし、その割に警察官である直子さんがいる時は一切姿を見せなかった。




――ガンガン!


ガラス扉を叩く音が…「出して!」「子どもたちだけでも助けてください!」奥からは美咲や子どもたちらの声が聞こえる。よく見ると玄関は外に出られないように外から施錠されている。


「庭の方に回れ!」


「そっちも全部雨戸で締め切られてるの!!」


周囲に漂うガソリンの臭気…このまま放火されれば…


「馬鹿なことはやめなさい!真理も死んだのよ、今さら用なんて無いでしょ。スグ彼らを解放して」


直子さんは銃口を向ける。


「…撃てばいい。だが、弾が外れれば彼らに当たる」


「くっ…」


高橋は悠々とライターに火を灯す。いつも見慣れた緑のおじいちゃんとは別人の、鋭い眼光を向ける。


「なぜこんな事をするんですか?」


「…」


「もしかして目的は、母の手記ですか?それとも裏金の入った通帳?」


「手記や通帳の存在までご存じでしたか……さすが明華の息子。頭がいい」


「あなたはその鉢植えのスペアキーを使って、家に頻繁に出入りしていた。それは…あなたの悪事が記された手記を消し去り、通帳を回収したいからだったんですね?」


そう、母は僕が渡米した後、警察から引退。日本中を周りながらある調査をしていた。それはおそらく…北朝鮮が知られたくない何かしらの事実。


「高橋さん。残念だが、あなたが探している通帳なんて家を探してもどこにもない」


「そのようですね…非常に残念です」


「それに、あの手記にもあなたが知って得するような記述はなかった。ただの母の懺悔の言葉です」


「ほぉ…明華が懺悔?今さら懺悔して何にするつもりでしょう!?起きたことは変わらないのに…相変わらず不合理ですね」


「家を燃やしてもあなたが得るものはないとわかったでしょう…もうこんなことはやめてください」


「いえ。もうこの家が空っぽだと分かった以上、消し去らないと…」


「…?」


「明華の全てを消し去るんですよ。彼女が築いたこの家…家族…記憶…存在全てを消し去ろうと…なのに、北朝鮮のやつらもニュースを見て慌てて駆け付けるし、警察も押し掛けるしで計画が狂ってしまいました。君らを一人一人殺す時間はなさそうなので…この炎で、過去も、未来も、罪も、この人生も、全てをまとめてこの世から消し去ることにします」


――玄関の向こうも静まりかえっている。彼らも静かに高橋の言葉に耳を傾けているようだ。


「なぜ母にそこまで執着する?」


「あなたたちは想像出来ますか?自分が誰かを信頼したがために大切な家族の命が奪われてしまう苦しみを…?」


「…」


「私は、ただ祖国の発展と繁栄を願い、窮乏する市民に食と医療を届けただけなのに…独裁者の“正義”でなく自分の“信念”のために闘っただけなのに…祖国は私を切り捨てた。見せしめのために私の家族を皆殺しにした」


「それは、あなたとあなたの祖国の話ですよね。なぜ僕らを巻き込む…?」


「わかってないですね。その引き金を弾いたのはあなたの母親です。…彼女が素直に通帳と裏帳簿を処分していれば…警察に出頭するなどと余計な考えに走らなければ…こんな事にならなかった。家族は無事だった。自分の家族を守るために、私の家族を犠牲にしたのです」


「…それとこれは違う」


「いいえ。同じです。…今さら懺悔の手記などと笑わせてくれます。だったらまず私に詫びるべきだ……なぜ私だけが全てを失ったままなんでしょう?地獄に取り残されなきゃならないんでしょう?…明華…アイツの家族は今こうやって再び集まって、赦し合って、“新しい家族”を築こうとしているのに。彼女は死後にして本当の意味で救われようとしている。それだけは絶対に許せない!」


「あなたに許してもらう必要なんてない…それ以前に」


僕は腹の底から叫んだ。


「自分も、母の行いを許してなんかいません」


「…!?」


警察を誘導していた直子さんも驚いたように僕の方を見る。


「母が犯した罪は死んだからといって消えるわけではないです。現に今もまだ北朝鮮と日本の間で引き裂かれたままの家族がいます。たしかに母やあなたは被害者の一面があるかも知れない、だけど実際はその手でもっと多くの人の人生を狂わせた。圧倒的な加害者です。だから…少なくとも僕はこの母が遺した家で、母が償いきれないでいる罪に向き合うつもりです」


「宏樹くん…」


「僕が、本当の意味で母を許せるようになるために…」


――そして、何より僕が許せないのは、僕自身だ。母の苦しみに目をつむり、勝手に憎んで生きてきた。自己都合で。だから…そんな自分も認められるように…


「そのために…僕は、この家を、家族を守り抜くつもりです」


すると扉の奥で「おじさん…」とすすり泣く彩花と健人の声が聞こえた。


「…」


「あなたもあなたの犯した罪に、そしてそうした”正義”を押し付けた祖国に、家族を手にかけた独裁者に向き合うべきだ。怒りの炎を向ける相手が違う!」


「違う…明華のせいだ…」


「違わない!お前はただ手が届く人間を恨みのはけ口にしているだけだ!でもそんな事では心は救われない」


「違う!」


――扉の向こうから声が聞こえる。


「緑のおじいちゃん」


高橋の目に迷いが見え始めた。仮にも触れ合ってきた半年の時間が彼の復讐心に疑問を抱かせている。


「そこにいるのは…明華の家族じゃない、一人ひとり名前を持った人間だ」


「違う…」


「違わない!正面を見ろ!!俺を見ろ!!…俺は渥美宏樹、渥美真理の長男だ!」


呆然と立ち尽くす高橋…その瞬間、「確保!」というかけ声と共に高橋は警察官たちに地べたに押さえつけられた。


「私は悪くない!!」


だがその拍子に、手に持っていたライターは地面に転がる。


「しまった!!」


その一筋の火はボッと一瞬で一面に燃え広がった。待ち構えていた消防車から一斉放水されるが、炎の勢いは止まらない。




「…彩花!…健人!…美咲さん!!」


見慣れたその家は突然、明け方の中で光を放ち、ゆらゆらとした閃光が柱を屋根を基礎にまとわりつき、それとは思えない黒い蒸気と焦げた臭いを発する。僕は必死で火が回っていない所から家の中への侵入を試みた。恐ろしいほどの放射熱で体が燃えるように熱い…だけど庭に落ちた大工道具でなんとか突破口を作ろうとする。だが、どこも頑丈に封鎖されており近づくことができない。炎の向こうから声が聞こえる…


「おじさん!!!」


「今、行く!!助けるから待ってろ!!」


「ダメだ!!おじさんまで死んじゃうよ」


「死ぬもんか!!」


水をかぶって突進を続ける。だが扉はビクともしない。


「なんで!ボロボロでガタガタの家のくせに!!こんな時ばっかり頑丈なんだよ!!」


何度も、何度もぶつかるけど響かない。クソ…


「おじさん…ありがとう…」


「ありがとう…会えてよかった…」


「宏樹くん…幸せに…」


「なんだよ!別れなんて言うなよ!!…消防は何してんだよ!!」




――それからどれだけの時間が経っただろう…家はほぼ全焼した。焦げた匂い、炭となり形を失った黒い柱、灰となり地面に打ち捨てられた床板…そして、そこに彩花も健人も美咲の姿もなかった…まさか皆は…僕はただ泣いた。泣き続けた。


「僕がこの家に帰って来なければこんな事にならなかったんだ…母さんの言う通りだ」


――自分という存在が誰かを不幸にする。母が手記に書き記してきた言葉を反芻した。


「くそっ!くそっ!」


隣に佇む直子もまた目を真っ赤に腫らしている。


「こんなの…真理に、顔向けできない…真理…」


「…」


里山に風が吹き込み、葉音だけが響く。


「………ぅ…」


「…!?」


――その時、よく家で聞いたようなうなり声を聞いた気がした。


「…七不思議!?」


「ちょっと宏樹くん?」


「しっ!」


「……ぅ…」


――また、声がする。どこだ?地べたに耳をつける。


「どうしたの…?」


「……いる!この下にいます」


「は?」


僕は瓦礫をどける。


「ちょっと、宏樹くん!?」


そして、ちょうど恐怖の押し入れがあった辺りを掘り起こしていく。ちょうど僕らが犯人に襲われた時に姿を隠した窪みのような場所を見つける。そこは燃え尽きているように見えるが、小さな穴が開いているの気づく。そこを丁寧に掘っていくと…なんと地下壕はさらに奥へと続いているのを見つける。


「直子さん!」


直子さんは強く頷き、二人で必死に瓦礫を丁寧にどけていく……


「…ぅう」


「人の声だ!間違いない!!」


――必死で掘って掘って掘り続けた。そして30分…そこに彩花、健人、美咲がいた。


「…おじさん!」


「宏樹くん!!」


「なんだよ!!なんで恐怖の押し入れ逃げ込むなんてアイデア思いつくなんて凄すぎんだろ」


僕らはただひたすら抱き合った。


「へへ…必死すぎて全然覚えてねぇけど…とっさに」


「彩花…健人…美咲さん…ありがとう…生きていてくれてありがとう!」


すると彩花は大事に抱えた一冊の手記を渡す。


「おじさん、コレしか守れなかった…ごめん」


それは真理が残した手記の一部であった。硬い台紙で出来ていた表紙は一部破けている…その中には破損したCD-Rのようなものが見えた。


「これって…」


「もしかして真理さんがおじさんが渡米してから“調べてた事”の答えかもしれない?」


「直子さん!」


直子さんは頷くとすぐに大切にそのCD-Rの破片をクリアボックスにいれて、すぐさま警察に運んだ。




――あれから三ヶ月。僕はアメリカへ帰らず日本に残ることにした。母の罪に、そして僕の罪に向き合うという誓いを果たすために……彩花、健人、美咲、は予定通り百草園駅前のアパートへ引っ越した。僕は、家の近くに仮の住まいを借りて今、同じ土地に家を建てようとしている。




幸いだったのは、引っ越しする予定だったので実家の思い出の品はほとんど家から運び出されていた事だ。だから僕の仮住まいには、あのスピーチコンテストの表彰状も飾ってあるし、父のギターのピックも、森鴎外も、8ミリフィルムも棚に並んでいる。そして居間に置いてあったピアノ、母と作った思い出の脚がガタガタする椅子は…処分するつもりだったのになぜか無傷だった。


――もう一つ、発見があった。一枚も残っていないと思っていた僕と母の写真が見つかったのだ。それは使われなくなったまま残してあった母のガラケーに残っていた。いつ撮ったのか覚えてもいない僕と母の長野旅行の2ショット写真。


「おじさん、若い」


「意外とイケメン」


「は?バカにすんな。今もイケメンだろ」


「ハハハ…どちらかと言うとフケメンでしよ」


「お前らもいずれそうなるんだからな」


「何年後!?」


「にしても…すっごい、仲良しだよね!この写真」


たしかに…写真の中の母と僕は、すごく顔を寄せ合って、こんなに仲良しだったんだなって…記憶とはいかに曖昧なもののだろう。だから今自分に都合の良い思い込みで簡単に塗り替えられてしまう。だけどそれがかけがえのないほど大事なものだった時、とても慎重に扱わなければいけないのだろう。




――瓦礫は全て撤去され、実家があった土地は広い原っぱになった。


「こんなに広かったんだな」


真ん中に立つ燃えずに残ったキンモクセイを頼りに、庭に開いた地下壕の穴を見つけると、そこに体をねじこんだ。この穴は、家を建て替える際に埋めることにした。入れるのはこれが最後だ。




すると、その後ろから彩花と健人も潜り込んできた。


「ちょっとなんでお前らも入ってくんだよ!狭いだろ!」


「えぇ?おじさんがもうちょっとそっち寄ればいいんだよ」


「そうそう、あの日は入れたんだから」


すると、美咲も上から顔を覗かせる。


「みんな何してんの?」


「ヘヘヘ…恐怖の押し入れに潜ってるの」


「あれだけ怖かったのに慣れてみれば、居心地がいいんだよね、これが…」


「えぇ?じゃあ私も入れてもらおうかしら?」


なんと美咲まで中に入ってきた。


「あ~!ダメダメ!入んないって」


だが、意外とすっぽりおさまり狭い空間にぴったり4人が一緒になる。


「あら?ほんと、居心地いいじゃん」


「…不思議だね?」


「ん?」


「だってつい前まで私たち赤の他人だったのに、なぜかこんな穴の中に一緒にいるんだもん」


「ハハハ…たしかに。でも赤の他人じゃないよ。知らなかっただけで、僕らはずっと繋がってた」




――そう、僕らはお互い知らずともずっと昔から繋がっていたんだ。


…そんなことを考えていると、ふと僕の中に眠っていたあの立川駅の記憶が蘇ってきた…なんでこんな時に思い出したんだろう?


「宏樹くん、どうしたの?」


「あ、いや…些細な事なんですけど…でもずっと引っかかってる記憶があって」


「…記憶?」


「この家に引っ越す直前、小1か小2かそこらだと思うんですけど。一度、母の手にひかれて立川駅のホームにじっと立たされていたことがあったんです。それで何度も何度も通り過ぎる特急を見守って…」


「…」


「結局、何もなかったけど、あれは母が僕を道連れにして死のうとしたんじゃないかって思い込んでたんです。だけど、今そうじゃないと確信がもてるようになって…だとしたらあれは何だったんだろうって?」


「…私も」


「え?」


「似た記憶ある。父に連れられて立川駅に…私の場合は新宿行きのホームだったけど。小学3か4年の頃だったか…たしか何回かあったと思う。一度、桜が咲く頃なのに、雪が降って」


「そうです!あれ…って事は、もしかしてあの時、父と母は同じ場にいたって事?」


「じゃあ、おじさんはお父さんと会えてたって事だね!」


彩花が驚く!


――でも、なぜ新宿行きと甲府行きのホームに別れる必要が?




そうか、そういうことか…母と父は二度と再会できなかったと思っていた。だが、実際は再会していたのだ。それは母らしい方法で。ふと健人が呟く。


「でもどうやって?警察は勝手に連絡をとりあわないようにしていたんでしょ?」


「たしかに、渥美真理って名前すら知らされてないはずなのに…当時なんてSNSも携帯もないんだよ」


「…愛のチカラってやつかな!テレパシー的な」


「健人のくせに何ロマンチストみたいな事言ってんのよ…」




そんな会話を聞きながら考えていた…愛のチカラ…テレパシー…たしかにあの時代に、離ればなれになった家族が、名前も住所も分からず再会できるとしたらそういう超常的なチカラがないとムリだが…?そう言えばずっと感じていた違和感…


――父は母と別れ際に、工作員である事をすんなり受け入れたと言っていた。それってまるで元から知っていたかのようでないか?それってまさか…




「もし父が知っていたとしたら…可能かも知れない?」


「…え?何が?」


「だから!奇跡の再会だよ!!一つだけ、父と母だから出来る連絡手段があったんだよ」

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