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【第二話 見知らぬ家族との対面】

10年ぶりの実家に我が物顔で住んでいた見知らぬ子どもたち。

彼らの正体は??

直子さんは家の主のように、馴染みのあるダイニングテーブルに向き合って座らせた。…その椅子がまた妙に作りが甘く、脚がガタガタしてイライラさせる。


「母さん、この椅子まだ買い換えてなかったのか…」


さっきまでの日差しは影を潜め、空はゴロゴロと不穏な雷鳴を轟かせた。




直子が切り出す。


「みんなは初めて会うんだよね?改めまして、こちらが…」


「渥美彩花です。中学3年生です。そしてこっちが弟の健人」


「どうも。渥美健人。小6」


「…渥美宏樹、42歳です。渥美真理の“長男”です」


一人っ子だが、状況が読めないのでとりあえず“長男”と言っておく。


「宏樹くんはロサンゼルス在住。仕事は…なんだっけ?」


「日本のゲームを現地版にするローカライズの仕事をしています」


「へぇ、ゲームの仕事?すげぇじゃん」


少年はクリッとした目を輝かせてマセた笑みを浮かべた。


「はい!そして私は鈴木直子。渥美真理の友達です。って、みんな知ってるか?ハハハ」


直子さんの冗談そっちのけで彩花という名の少女がいきなり本題に入る。


「単刀直入に申します。私たちはあなたの母親・渥美真理さんの子供です」


「え?…えぇ!ちょっと待って、母さんの子ども?…だって年齢的におかしいでしょ?」


「はい。もちろん真理さんと血は繋がっていません」


「…じゃあ?」


すると直子さんが咳払いして話し始めた。


「特別養子縁組。真理ちゃんは9年前にこちらの彩花ちゃんと健人くんと法律の手続きを経て、正真正銘の親子になったの」


「母が…君たちと養子縁組を?なぜ?そんな話、一切聞いてないけど…」


「聞いてないのは自業自得でしょう」相変わらず敵意をむき出しにする彩花。


「…は?」


「じゃあ伺いますが?あなた、この9年間に一度でも真理さんに会いに来ましたか?せめて自分から連絡とって近況を訪ねるとかしました?」


「いや…それは…でも仕送りはしてたし」


「仕送りすれば親子の関係は繋がれていると?」


「…そんなつもりないけど。って言うか論点ずれてるって…フツーに考えておかしいよ。だって自分の家に知らない家族がいるなんて」


僕の目の前に座るセーラー服の女の子は涼しげな目をスッと細めた。


「自分の家?違います、ココは私たちの家です」


「…」


「あなたが一度として姿を現さなかった9年間、私たちは真理さんとこの屋根の下で一緒に暮らしてきました。本当の母として慕ってきました。心の繋がりは…血の繋がったあなた以上だと思います!私たちから見たら、あなたの方こそよそ者ですよ」


「ちょっと!血の繋がらない他人になんでそこまで言われなきゃいけないんだよ!」


「彩花ちゃん、そのへんに。…宏樹くんも忙しかったのよ。理解してあげて」


「…だって…この人は何も知らないのに。私たちが真理さんと過ごした9年間のこと何も知らないくせに…なんで何もかも知ったような顔で家に入ってくるの…?血が繋がってるってそんなに偉い?」


「…」


「帰って下さい」


そういうと彩花は元“僕の部屋”へとズカズカとわざとらしい足音を立て、扉をバタンと閉めた。その衝撃で家のそこかしこがミシリと呻いた。


「彩花ちゃん!」


――僕だって、好きで血が繋がってるワケじゃない。でもそれを否定されたら立つ瀬がない。


「そう言われても、ココは僕の家でもあるわけだし…」


すると、フッ!と背後から鼻で笑う声が聞こえた。


「僕の家って。おじさん、どうせアメリカ帰るんでしょ?」


弟の健人はスマホのゲームをしながらノールックで囁く。その言葉にふと母のある言葉を思い出した…


――アメリカに行ったら、戻って来ちゃダメよ。


留学が決まり日本を発つ日、母からかけられた言葉。そうだ、僕はとっくの昔からこの家にとって “よそ者”だったのだ。そんな失敗作だった僕にかわって母がもう一度ちゃんとした家族を持とうとした…そして遺影を見る限り少しの間でも安らぎと幸せの時を過ごせた。子供たちに感謝こそすれ怒るなど筋違いかもしれない。僕には帰るべき場所があるのだから素直に帰ろう…今夜の帰国便で。


「直子さん、用件はコレだけですか?話も済んだので僕はそろそろ…」


「ちょっと待って!最後にもう一つだけ話しておかないといけないことがあるの」


「…?」




直子さんは、僕を駅前の寂れた喫茶店へと連れ出した。


「あの子たちも真理を亡くしたショックであんな言い方になっちゃったんだと思う。許してあげて」


「もちろんです。それに直子さんにはココまで色々手配してもらって感謝しかありません。…で、その。何ですか?話したい事って?」


「あぁ、それはね…」


直子が送った目線の先、喫茶店の入り口にスーツ姿の男が立っていた。彼はこちらの目線に気づくとウヤウヤしく頭を垂れながら近づいてきた。


「私、多摩住宅サービス営業部の阿久沢と申します」


キョトンとしていると直子が話を進める。


「ごめんね、部外者がしゃしゃり出ることじゃないんだけど。例の家と土地、相続する以上どうするか決めておかないと」


「それって、つまり家を売るってこと?」


「うん、もちろん急かすつもりはないけど。手続きはアメリカでも出来るとして、その前に直接話だけでも聞いといた方が…」


不思議だ。10年間も顔を見せなかった自分でも、いざ家を売る話には身じろぎしてしまう。


「亡くなったばかりだし、売却の話は少し性急かなと…」


すると阿久沢はなぜか直子さんの顔色を読むように目線を送る。


「…」


直子はその視線を無視して無言を貫く。すると慌てて阿久沢は僕の方を向き直り、空気を読み間違えたかのような甲高い声で話し始める。


「皆さん、最初はそういった反応されます、はい。なにせお家には大切な思い出が詰まってますからね。なのでとりあえず査定の結果だけでも聞いてもらって。この場でお伝え出来ますので」


「まぁそれなら…」


というと、目を光らせてここぞとばかりに謎のグラフだらけのタブレットを見せる。


「渥美さまの物件を調べさせて頂いたところ、やはり建物には資産価値ございません、はい」


「資産価値はない…」


「はい!築50年近く経ってますので価値ゼロですね。あ、いえ、もちろん思い出はプライスレスでございますよ、はい」


価値ゼロ…そりゃそうだろうが、妙に腹が立つ言葉選びだ。


「ただご安心ください。土地はあれだけの広さでございますと分割して宅地開発できるので、私どもなら相場以上の価格で取引出来るかと、はい」


「…それで具体的にいくら?」


突然、目をキラキラ輝かせる直子さん。すると指を7本あげた。


「加えて、解体費はこちら持ちでございます」


「なるほど」


相場などよく知らないので、高くても安くてもいけそうなリアクションをしておく。だが直子さんはその反応に不満げだ。


「日野市で7000万円って破格よ?あ、アメリカの物価から見たらまだ安い?」


「渥美様の土地は形がいいですので、真ん中にズガンと私道をぶち抜いて、両サイドにボンボンと2軒ずつ、4等分でいけるので相場の倍の値段です」


「…」


「何か変なこと言いましたでしょうか?」


「いや…独特な表現されるなと…」


するとここまで妙に大人しかった直子さんが口を挟む。


「それに空き家問題もあるでしょ?」


「?」


「あぁ!はい。相続したものの売るのを躊躇した結果、家や庭が荒れ放題になって倒壊したり害虫害獣の住処になって訴えられる例が増えているんでございますね、はい。なのでアメリカにお住まいということでございましたら、早急に売却を検討すべきです」


「どう?」


「たしかに僕は住む予定ないけど、あの子たちは?」


「彩花と健人のこと?」


「彼らにも相続権があるわけだし意思を確認しないと。住む場所なくなると困るだろうし」


「それについては、2人はちゃんとした施設に預けようと思ってる。だって真理が亡くなって保護者もいないままだし…もちろん私も引き取りたい気持ちはあるけど、この歳だしね」


土地が高く売れればあの子たちの教育資金に回せてみんなハッピーかもしれない。だけど、やはり心に引っかかる。


「本当に売っちゃっていいんでしょうか…」


「気は進まないだろうけど考えてみて」


「何卒、よい返事お待ちしております!」


にしても、なぜ阿久沢はこの辺鄙な土地の買収にこれほど前のめりなのか?違和感を覚えつつ前向きに検討すると告げる。そして直子さんとは個別に、遺産の処理や子どもたちのその後に関する手続きなど司法書士を通して行うことを約束した。




喫茶店を出るとポツリポツリと雨粒が頬を打つ。空を見上げると低く垂れ込めた雲が恐ろしい速さで流れていた。多摩川の近くは風を防ぐ物がないので風雨が強くなりやすい、夕立に降られる前に百草園駅に駆け込もうとキャリーケースを握る手に力を入れた。


「直子さん、何から何までありがとうございました。では、僕はこれで」


「あら?今日はどこに泊まるつもり?」


「今夜の便でアメリカに帰ります」


「…え?飛行機なんて飛ばないわよ!」


「は?」

令和最大級の台風が襲来!主人公は、子どもたちと力を合わせて実家を守る大作戦へ

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