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悪役のトゥルーエンド  作者: シス
第一章『ヒロインのトゥルーエンド』
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9

ホノカ達と店をまわるのはとても楽しかった

美味しいものを食べたり、ゲームで遊んだり

ホノカがいなければ、こんなことはできなかった

売っていた綿菓子を頬張っていると、隣の2人が

屋台のゲームを始めた、玩具の銃で商品を落とすというものらしい

「ねぇ、ペリドット!あれとって」

「無理だっての、僕はこういうの下手なんだよ」

「できるわよ、早く早く!」

2人はとても仲がいい、なんというか信頼し合い

互いをさらけ出しているような…そんな関係だ

「羨ましい…な」

街中のカップル達も楽しそうに微笑み合い

祭りをまわっている

……期待なんてしちゃいけない

人は人、私は私なんだ

「ソラニエ!とれたとれた!」

「どんだけ金を遣わせるんだよ…ホノカ」

ホノカは嬉しそうに可愛らしい白のぬいぐるみを腕に抱えていた

「ペリドット、ありがとう!さすがね、ペリドット」

「まぁな…」

「2人は仲がいいな、ほんとうに」

2人の微笑ましい姿に笑みが溢れる

「何言ってるのよ、ソラニエ、3人ね、3人!」

「そうか、ありがとうホノカ」

「ほら、次の店行きましょ!」

私たちの腕を引き、ホノカは街を歩き回った







リラルとクルトに出会い、広場の方へ行けば

ニスラ団長とも遭遇した

魔法使いのショーが始まり、ホノカとペリドットの

後ろで楽しんでいると

「ソラ、お前はこっちだ」

「えっ……」

後ろから誰かに身体を引かれ、私は2人の前から

姿を消したのだった






「ようやく捕まえた」

「ぜ、ゼロンさん?!」

なんでこんなところに…?私が驚いていると

男は私の身体を抱き上げ、ショーに集まる人混みから抜け出した

「あ、あの下ろしてください!」

「お前逃げるだろ、ダメだ」

「逃げませんから、は、恥ずかしいです!」

仕方がないとでも言うようにため息をつき、私を下ろしてくれた

「それでどうしてここに…?何か緊急の仕事でも

ありましたか?」

「…違う」

「えっ…?」

男は気まずそうに目を逸らす

「あの、ほんとにどうして…」

理由が気になり、問い詰めるように視線を合わせに行くと、男はゆっくりと口を開いた

「…毎年、行ってただろ」

「えっ…?」

「毎年、僕と祭りに行ってただろ

だから今年も行ってやろうと思って来てやったんだ」

「!!!」

不器用にそう告げる姿を見ていると、あまりの可愛さに笑みがこぼれる

知らなかった、まさかゼロンも私と同じように

祭りを楽しみにしていたなんて

「笑うな、早く行くよ

ここにいたらアイツらに見つかる」

「はい!」

ホノカ達には後で謝ろう

私は差し出された彼の手を握り返した






お菓子を食べたり、お肉の串を買ったり

剣を見に行ったり……楽しく過ごしていると

「なぁ、そこの兄ちゃん!やってみないか

可愛い彼女にいいとこ見せたいだろ?」

突然、話しかけられ振り向くと

気さくそうな男が私たちに話しかけてきた

話を聞くと、そろそろ剣術大会が始まるんだとか

優勝者には豪華景品と聞き、私の興味がそそられる

「ゼロンさん…」

「お前、やる気か」

「はい」

やりたいのだと目で訴えると

「…仕方ねぇな、2人やらせてくれ」

渋々了承してくれた

「えっ、彼女ちゃんもやるのか?」

「はい、やらせてください」

「…大丈夫なのか?まぁ怪我しないようにな」

男は私たちに番号の書かれたタスキをくれた

「賞品なんでしょうね?」

「もらってから見ればいい」

「勝ってやりましょう」

私たちは与えられた木製の剣を持って、闘技場に

向かった






まぁ、2人とも難なく試合を勝ち進んでいき

準決勝をむかえた

相手は私より、ふたまわりも大きい男だった

下卑た笑みを浮かべ、私を嘲笑する

「お嬢ちゃん、素早い動きでここまで勝ち残ったようだが、俺には効かねぇぜ…それにしても可愛いな

俺の女にしてやるよ」

「……お断りする」

「つれねぇな、まぁ痛めつければその口も可愛くなるかもな」

おかしいな、私の後ろから強い殺気を感じる

後ろを振り向くと笑顔のゼロンが私に一言言い放った

「ソラ、殺せ」

「……えっ、流石にそれは」

「僕が許可する、殺せ」

「……」

本気だ、この男

何がそんなに気に触ったのか分からないが

まぁ殺しはしない、ただしゼロンが納得するほど

痛めつけはしなければ

私は剣を構え、試合開始の声が響いた

男は私に突進してくるが、軽く避け後ろにまわる

どうしようか、力強く頭を叩いてもいいが

私はあまり力が強いわけではない

思いっきりやるなら…

私は背中を向けた敵の頭、首、背中、足の4点の

弱いところを勢いよく突いた

「ぐはぁぁっ!」

醜い悲鳴をあげ、男は倒れ込む

急所を正確に突いておいた、1週間は立てないだろう

ゼロンのもとに戻ると、ポンっと私の頭に男の手が置かれた

「甘いな、お前は」

「十分でしょう、私だってあんなこと言われて

いい気はしません」

「後は僕がやっておく、決勝の準備でもしてろ」

ゼロンはそう言って剣を持ち、どこかへ行ってしまった、ゼロンの準決勝はこれからなのかな?

しばらく待っていると、再びゼロンが現れた

「ほら、決勝だ」

「行きます」

2人で闘技場にあがる

周りからは歓声が聞こえ、私の剣を握る手に力が籠る

「見せてみなよソラ、今までの成長をな」

「望むところです」

私はゼロンに剣を勢いよく振り下ろした






「優勝おめでとうございます、ゼロンさん

流石に勝てませんでした」

「まぁ、僕には勝てねぇよ」

負けてしまったが、悪い気はしない

今まで全く届いていなかった剣が、少しずつ

近づいてきた気がする

「いつか勝ってみせますよ」

「やってみろ」

自信たっぷりに笑うゼロン

そういえば…

「ゼロンさん、優勝賞品はなんだったんですか?」

「あぁ、これだ」

手渡されたのは港町への旅行券だった

「旅行券ですか?珍しいですね」

ここから馬で数時間ほどの距離にある港町の

宿に泊まるというものだった

「2人分…か」

「行ってらしてはどうですか?港町の方へ見回りに行くと申請すれば可能だと思いますし」

騎士団には確かに休みは無い、しかし見回りだの

警備だの申請を出せば誤魔化せる

王族は私たちを強く縛り、こき使うことを覚えたが

管理が杜撰だからこのようなことが可能なのだ

「…1人で行くのか」

「それでもいいと思いますが、2人分ありますし

誰か誘ってはいかがですか?」

「…誰を?」

男は私の手を握り、小さな声で呟いた

「えっと…友人でも、女性でも…誰でもいいと思いますが…ゼロンさんの好きな方と行けばいいと思いますよ」

ゼロンは私の言葉を聞いて、少しだけ表情を暗くした

「誰もいねぇよ」

「えっ…でもゼロンさんはみんなに好かれていますよ」

「…分かってるだろ、そんなの分からないこと」

「……」

男の手にいっそう力が籠る

何かを言ってあげたいのに、私は何も言えなかった

男は私が困っているのに気がついたのか

暗い声を一気に明るくし、私に旅行券2枚を手渡した

「お前にやるよ、勝手に使え」

「えっ…でもゼロンさんの賞品ですし…」

「僕は行く相手がいないからもういいんだよ

聖女ちゃんとでも行けばいいだろ」

男は私から手を離し、そろそろ戻ると騎士団の方へ

歩きだした

「……ゼロンさん」

私は彼を追いかけ、袖を掴んだ

「なんだよ」

「行きましょう、一緒に」

「……えっ」

「私はゼロンさんと行きたいです」

「……」

言えた、よかった

私なんかが行きたいなんて言ってはいけなかったかも

しれない

でも伝えたかった、貴方を心から尊敬し、一緒に

いさせて欲しいと思う者がいることを

断られてもいい、でもそれだけは言いたかった

ゼロンは私の言葉に目を見開き、歩みを止めた

何かを言いたそうに口を開けるが、声は出ていない

どうしたんだろう、私なんかが誘うなって

怒るのかな

それとも断るのは可哀想だと言葉を考えてくれているんだろうか

「あ、あの…断っていただいても大丈夫で…」

「行く」

「…えっ」

「行くんだろ、一緒に」

「…いいんですか?」

「お前に誘われたら断るわけにはいかねぇよ」

ゼロンは笑っていた

いつもの妖艶な笑みではなく、少年のような

あどけない笑顔で

「……あ、ありがとう、ございます…」

あまりの衝撃に心臓が大きく跳ねた

その笑顔はすぐに奥に消えてしまったが

私の瞳に、脳裏に深く焼き付いた

「もう日が落ちそうだな、ソラ

夕食でも食べて帰るか、どうせ騎士団の飯は

美味くないしな」

「は、はい…!」

ゼロンは私の手を取り、街一番のレストランに2人で

むかった

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