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数日後、街が何やら騒がしいと思ったらお祭りが始まったようだった
年に一度のお祭りに街中の人達が浮き足立ち、それは騎士団の皆も例外ではなかった
「ソラニエ!一緒にお祭り行こ!」
部屋に押しかけると、ソラニエはまた慌てた様子で
扉から姿を覗かせた
「あぁ、行こう…少しだけ待っていてくれ」
どうにかソラニエを連れ出し、3人で街へと遊びに行った
「ソラニエ、連れ出したが仕事は大丈夫なのか?」
「あぁ、ペリー大丈夫だ
ホノカの護衛として外出の許可をもらった」
「ならいいけど」
「2人とも、あれ食べよ!ねぇ、食べよ!」
2人の腕を引っ張り、いろんなお店をまわった
このお祭りはゲームの中では重要なイベントだった
好感度が高いキャラクターと祭りを巡ることができ
キュンキュンポイントはたくさんあったが
「これは美味しいな、ホノカ」
「なぁホノカ!あのゲームしてみようぜ」
「んふふ」
今が一番楽しい!
3人で楽しく祭りを楽しんでいると
「あれ?もしかして聖女様?」
「クルト!そしてリラルじゃない!」
薬草屋を見物しているクルトとリラルに遭遇した
「そっちも3人でお祭り楽しんでるの?」
「うん!2人は仕事大丈夫なの?」
「サボっちゃった!バレたら怒られるかも」
「こいつに付き合わされているんですよ」
リラルは疲れた顔をしていた
「そういえば騎士団のみんなはいつが休みなの?
ソラニエだっていっつも仕事してるじゃん」
「……あぁ、ホノカは知らないのか」
「聖女様、あのね〜騎士団は休みなんてないよ」
「えっ、休みがない?」
「大怪我とかしたら流石に休ませてもらえるけど
毎日寝る時間以外は働かされてるよ」
「そんなのブラックじゃない?!えっ、なんでみんな
そんなところで働いてるの?!」
「それはね、聖女様〜僕たちがぁっ……」
「それ以上言ったら殴るぞ、クルト」
「もう怖いなぁ、リラルは!分かったよ、言わない」
「え?教えてよ、クルト」
「だぁめ!リラルが怖いもん!」
「えぇ…ならソラニエ教えてよ」
「言えないな、すまない」
「もう!みんな私に隠し事ばっかり!」
ソラニエは困ったように笑った
リラルも申し訳なさそうに眉尻を下げた
しかしクルトはそんな話などすぐに忘れたようで
薬草屋の商品に視線を移した
「ねぇ、リラル!これ欲しい」
「自分の金で買え」
「リラル知ってるでしょ、僕がお金ないってこと」
「お前がすぐに変なものを買うからだろうが」
「買って買って買って!いい子にするから」
「ダメだ」
「クルト、何が欲しいの?」
「これだよ、この薬草」
クルトが見せてくれたのは、赤色の草のようなツルのような植物だった
「これは何の薬草なの?」
「これ単体だと、止血剤として使われるの
でもねこれとこれとこの薬草を一緒に混ぜて飲むと
猛毒に変わるんだよ!」
「……えっ」
あまりにキラキラとした可愛い笑顔で語るものだから流してしまいそうになるが、この男
猛毒を手に入れようとしているの?!
「ちょっとこの毒がついた刃で肌を刺すだけで
みんなコロッと逝っちゃうよ〜苦しむ間もなくね
死体だって寝てるみたいに綺麗なんだから!」
「クルト…怖いんだけど」
「えぇ〜クルトはいっつも可愛いよ」
「…聖女様、こいつが得意なのは暗殺術なんです
だからどうか大目に見てやってください」
「へ、へぇ…知らなかったなぁ」
「クルトは力が弱いから仕方ないの!こういうのに
頼らないと死んじゃうの」
クルトが泣きながらリラルをペシペシと叩く
「そんなことないだろう、クルトの力の強さは
騎士団の中でもかなり上の方だ」
ソラニエがそう言うと、クルトは涙をすぐに引っ込め
えへへと笑った
「もうソラニエったら!褒めても何も出ないよ」
「…リラル、大変そうだな」
「大変だ、変わってくれソラニエ」
「嫌だ」
「…はぁ」
リラルとクルトと別れ、そろそろ魔法使いのショーが始まるということで3人で広場にむかった
「あれ?ニスラ様?」
大勢の人が広場に集まっている中に、大柄の男が
立っていた
「聖女様ですか…来ていたのですね」
「はい!ニスラ様は?」
「警備です、祭りではよく問題が起こりますので
その対処に」
「お疲れ様です!」
「聖女様、どうか楽しんでくださいね」
ニスラさん、疲れているだろうに優しいな
「そういえばソラニエさん、ゼロンくんは
どうしたんです?」
「ゼロンさんは…今は騎士団の訓練場かと」
「珍しいですね、君たちが離れているなんて」
「そうなんですか、ニスラ様」
「はい、四六時中共にいますよね?君たちが離れて
いる時間は寝ている時間くらいかと思うほどに」
「…そ、そうですね…いることが多いです」
ソラニエは気まずそうに目を逸らした
「…では、ソラニエさん
1つ頼めませんか?」
「なんでしょうか」
ニスラはお腹の奥から吐き出したような声を出した
「お願いですからあのゼロンを止めてください
私はゼロンくんに毎日毎日仕事を押しつけられていて、今朝だって執務室に行ったら彼の分の書類が机に置いてありました…私だって暇じゃないんです
ソラニエさん、どうかゼロンくんに仕事を真面目にするよう言ってください」
「あは…は…言ってはみますね…意味は無いと思いますが」
「お願いします」
大変そうだな、こういう大人になったら損だな
私は可哀想なニスラさんの口に甘いお菓子を突っ込んでおいた
すると、魔法使いのショーが開演したようで
観衆から歓声があがる
魔法使いはステージの上で火の玉や水の玉を出し
観客の上を飛んでいく
「うわぁ…綺麗ね!」
「…そうだな」
「魔法って使えたら便利そうだよな」
魔法がなかった世界から来た私にとって
魔法はとても不思議なものだ、でもそれ以上に
未知であるという神力、この世界は謎ばかりだ
ソラニエのこともまだまだ全然知らない
でもこの世界と同じように知っていけたらと思う
「ソラニエ、私とお話を…って…あれ?」
「どうした、ホノカ」
「ソラニエがいない」
「はぁ?!なんで」
横にいたはずのソラニエが忽然と姿を消してしまったのだった
王城から帰り、ホノカとペリドットと別れたあと
私とゼロンは仕事場に戻らず、ゼロンの部屋に向かった
2人で部屋に入り、扉が閉まった瞬間
男は私の肩を掴み、キスをした
あまりの勢いに逃げようにも背中は扉につき
後ずさることができない
「ゼロンさん…落ち着いて」
「あのクソガキ、殺してやればよかった…」
止めようとしても、キスは激しくなるばかりで
男の手は私の服の中に入ってくる
こうなるとは思っていた
ニコラ殿下に会ってから、ゼロンの機嫌は明らかに悪かった
笑顔で喋ってはいたが、私を握る手は怒りで震えていた、この人はニコラ殿下に会うといつもこうだ
たしかに私だって嫌いだが、そこまで怒ることではないと思う
私は男を落ち着かせることを諦め、男の方へ一歩
踏み出した
数時間後、男の腕の中だった
身体はずっしりと痛むが、この程度で終わってよかったと安心する
男は私にことあるごとにキスをした
「ゼロンさん?」
「ソラ、悪かった…止められなくて」
「そんなの大丈夫ですよ、王族に私達が逆らえるわけがありません」
生きて帰れてよかった、みんなで帰れてよかった
それだけで私は幸せだ
するとゼロンは私を強く強く抱き締めた
「ゼロンさん、苦しいです」
「ソラ……………から」
「えっ?なんて言って…」
「……」
話す気はないらしい、隠し事ばかりのこの男に呆れるが、私も全てを話しているわけでは無い
だって私たちは恋人じゃない、友人じゃない
ただの上司と部下だから
あれから数日後、朝起きると窓の外から騒がしい音が聞こえてきた
ベッドから起き上がり、外を見ると街は祭りで賑わっていた
「ゼロンさん、今日はお祭りがあっているみたいですよ」
「……んっ」
「えっ、てっ…うわぁ」
ゼロンを起こそうと身体を揺らすと、男は私の腕を
掴み、ベッドの中に引き込んだ
「まだ眠いんだ、寝させろ」
「ゼロンさんが寝るのはいいですが、私はいらないでしょ」
ほのかに暗いシーツの中で私たちの目が合う
「お、起きてるじゃないですか…」
「お前のせいで起きたんだ」
私の長い銀の髪を男は手に絡ませ、妖艶に笑う
顔が一気に熱くなり、私は男から目を逸らし
後ろを向いた
「なに逃げてんだ、まだ食われ足りねぇの?」
「もう十分です」
シーツの中から出ようとするが、男は私の腕を掴み
私の身体を簡単に押さえつけた
「そんな生意気言うなら朝からやるか?」
「や、やりませんよ」
「残念だな」
笑いながら私から手を離し、私の身体を起こしてくれた
それからベッドの上に座り、私は男の胸に背中を預けた
すると窓から美味しそうなお肉の焼ける匂いが漂ってきた
「いいですね、祭りは」
「うるせぇだけだろ」
「その騒がしさがいいんですよ」
男の顔を見て、笑うと男は私の首元にまたキスをした
「行きてぇならつきあって…」
コンコンコン
「ソラニエ!お祭り行こ!行こうよ、ソラニエ」
部屋の外から声が聞こえ、
急いで私はシーツを身体に巻き付け、扉を開けた
ホノカが祭りに行きたいとのことで、すぐに外に出る準備を始める
するとベッドから男の低い声が聞こえてきた
「おい、行くのかよ」
「はい、行ってきます
ホノカの護衛としての申請をしておきますね」
「おい、待てよソラ」
急がないと部屋にゼロンがいることがバレる
私は適当に身支度を整え、部屋を出た