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「それで何か見つかったのか?」
ソラニエが本を捲りながら尋ねる
「そういえばさっき、ペリドットが何か言いかけてたような...」
「あぁ、さっき面白いものを見つけてな
これ、見てみろよ」
彼が開いたのは後光がさしている、いわゆる神と言われる者のイラストと文字が書かれているページだった
「全く読めないね、ソラ」
「...そうですね、見当もつきません」
「ここに書いてあるのは、神力についてだ」
ソラニエは目を見開き、ゼロンをチラリと見る
ゼロンはソラニエに笑みだけを返し、彼女は
また本の方に目をやった
「神力ってあれだよね?ユリサス帝国にいたっていう」
「あぁ、その神力についてここには書いてある」
「読んで読んで!」
ペリドットは咳払いを一つして、ゆっくりと読み始めた
「神力を与えられし者、それは神に愛されし者である。
神力は魂に宿り、血筋、家柄は関係しない。ユリサス帝国にて、生を授かりしとき、その力に目覚める」
「血筋じゃないのね」
「神に愛されし者...か」
「ソラニエ?」
ソラニエの表情が一瞬暗くなるが、すぐに戻る
「どうした、ホノカ」
「...なんでもない、続き読んで!」
「神力は我ら人間には到底不可能な事象を可能にする
神力について不明なことが多いが、現時点で
判明している事実をここに記す
1つ、神力を持つ者は魔法が使えない
神は魔法を酷く嫌っている、そのせいか彼らは魔法を全く使うことができない。また魔法が効きにくい」
「そうなんだ、魔法使えないんだ!」
「...そうみたいだ、でも大半の人間は魔法が使えない
大した情報には見えないな」
「まだ書いてあるぞ、2つ、神力にも強さがある
より強い神力を持つものに弱い神力のものが
力を使おうにも大きな効果は出ない」
「神力に強さがあるの?」
「そうらしいな、神力の強さを知る方法は書いてない、分かってないんだろうな」
「へぇ〜」
ソラニエは1人で何かを考え込んでいるようだった
「この後は大したこと書いてねぇな、神への賛辞が
つらつらと書かれてる」
「なるほどね〜、神力か...なんか重要そう!」
きっとトゥルーエンドに関係があるはずだ
「他にも探ってみるか、ユリサス帝国とこの国の
歴史なんてねぇかな、ありそうだけど...これとかどうだ?表紙に〈ユリサス帝国と我が国について〉って書いてある」
ペリドットが本を開くが、彼は素っ頓狂な声をあげた
「どうしたの、ペリドット」
「見てみろよ...これ」
彼が見せてくれたページは全て黒で塗りつぶされていた
本を受け取り、全てのページを見てみるが
全て読めないように黒に塗られている
「えぇ?!全然読めないじゃん!」
「これは酷い、誰がやったんだ」
「明らかに何かを隠してる、知られたくない何かをな」
ユリサス帝国について書いてありそうな本は
他にも全て塗りつぶされており、全く読めなかった
「...ダメだ、気になる本は全部塗られてる」
「こんな簡単に情報は開示されないわけね」
ある本は全て目を通したが、得られた情報はなかった
「あれ?そういえばソラニエとゼロン様は?」
いつの間にか姿を消している2人
階段がのぼり、元の部屋に行くと
2人で何か話し込んでいるようだった
「......ですか?...は通じないと...でしょ?」
「......ないよ、......だろ」
はっきりとは聞こえないが、2人の話し声がする
「ソラニエ...?」
「あっ、あぁ...ホノカ...調べものは終わったのか?」
「うん、2人で何話してたの?」
「...なんでもない、仕事のことだ」
ソラニエは何かを誤魔化すように笑った
「そっか...」
聞きたいけどきっとソラニエは聞いたら困った顔をするだろう、彼女を困らせたくない
今回のソラニエと私は仲がいいと思う
でも心の中にはずっと、彼女に殺されそうになった記憶がこべりつく
信じたいけど信じられない
でもそれは相手だって同じだ
ソラニエは私のせいで何度も何度も死んだんだから
「ならそろそろ帰ろうか、ホノカ」
「...うん、帰ろ!」
開いた階段を閉じ、私達は部屋をあとにした
物置に戻り、脱ぎ捨てた甲冑を再び身につけた
「お、重い…」
「これで帰るのか」
「頑張れ、2人とも」
4人で王城の長い廊下を歩いていると
前からまた吐き気がするほど煌びやかなあの男が現れた
「ゼロンか、お前も来ていたのか」
「…ニコラ殿下にご挨拶申し上げます」
ゼロンは笑顔で彼に頭をさげる
「…ソラニエ?」
隣にいたソラニエが顔を青ざめ、ゼロンの後ろに隠れようとする
何があったんだろうと私は小さく話しかけるが
彼女は声を震わせ
「…見つかりたくない」
とだけ呟いた、しかし彼女の願いは虚しく
ニコラはソラニエに近づいてきた
「ソラニエ、わざわざ俺に会いに来てくれたのか
可愛らしいな」
ニコラは彼女の頬に手を伸ばそうとし
彼女は咄嗟に彼の手を避けた
「いえ、今日は仕事で…」
「緊張しているのか?安心しろ、俺は女には優しいんだ、特に美しい女にはな」
「……」
もしかしてソラニエの顔色が悪いのってこの男に
言い寄られているからだったのか
気持ち悪いな、今までかっこいいなんて思ってた
自分が恥ずかしい、こんなに嫌がってるのが
分からないのか?
「…ニコラ殿下、ソラは仕事中ですので
お戯れはそれくらいにしていただきたい」
「俺以上に大事な仕事などないだろう」
ニコラは馬鹿にしたように私たちを見た
腹が立つ、聖女として会っていたときは
こんな顔はしなかった、私たちが自分よりも下な
騎士だから見下しているんだ
怒鳴りたくて甲冑を取ろうとするが
私の行動に気づいたペリドットが私を止めた
「…やめろ、ホノカ」
「ペリドットは悔しくないの?ソラニエがこんな目にあってて」
「…悔しくねぇわけねぇだろ、でも今はダメだ」
ペリドットの拳は震えていた
ペリドットだって耐えてるんだ、友人を馬鹿にされて
怒らない人なんていない
早くこの場から去らないと、ソラニエを逃がすために
「ソラニエ、俺の部屋に来い、可愛がってやるから」
「そ、それは…」
ニコラの汚い手がソラニエの身体に近づいた瞬間
私は大きな声で叫んだ
「申し訳ございません、ニコラ殿下!聖女のホノカ様が私達をお呼びなのです!今すぐ、向かわなければ
聖女様のご機嫌を損ねてしまいます」
「はぁ?聖女が呼んでいるだと?ソラニエ以外が
行けばいいだろう」
「ホノカ様はソラニエを気に入っているのです
ソラニエが今すぐ来なければ、聖女の務めを
果たさないと脅されておりまして」
「なんだと…?面倒な女だな、それなら仕方がない
行け」
「ありがとうございます!」
私はソラニエの腕を掴み、すぐに逃げ出した
「はぁ…はぁ…甲冑で走るのはやめた方がよかった」
王城を飛び出し、私たちはソラニエ達が乗ってきた
馬車に飛び乗った
私と同じく甲冑を着ていたペリドットも息を切らし
辛そうだった
「よかった…逃げ出せて…」
「ホノカ…助けてくれたのか…」
ソラニエが泣きそうに揺れる瞳でこちらをのぞく
「うん!だってソラニエが嫌そうだったから」
「…あんな危険なことをして、それも自分のせいにして、なんで私のためにそんなことを」
「だって友達じゃん!」
「……っ!!」
ソラニエが私から目を逸らした
「ソラニエ?大丈夫?」
「なんでこんな私のために…友達だからって…」
「ソラニエ、こっち見て!」
私はソラニエの肩を掴んだ
「ソラニエ、私はソラニエが大好きよ
過去のことは置いといて、今のソラニエはほんとに
好き!だからさ、助けた時は一言言ってくれるだけでいいの!」
「…ありがとう、ホノカ」
「うん!ソラニエを助けられてよかった!」
私がソラニエを強く抱き締めると
ソラニエは緊張が緩んだようで、優しく抱き返してくれた
「ありがとう、本当にありがとう」
「いいよ!友達じゃん!」
2人で顔を見合わせ、笑いあっていると
ゼロンがソラニエの肩に手を置いた
「聖女ちゃん、僕からも礼を言うよ」
「いいんですよ、あんなやつ嫌がって当然です!」
「ほんとそうだよね、あのクソガキとっとと
消えればいいのにね〜聖女ちゃんが言ってくれなきゃ切ってたよ」
ゼロンは満面の笑みで言い放つ
冗談だと思いたいが、剣を握っているのを見ると
本気だったんじゃないかって思えてくる
「あはは…ソラニエ、いつからアイツに言い寄られてるの?」
「…騎士団に入った頃からだ、断っているが
全く分かってくれず、この有様だよ」
「ほんと勘違いナルシスト男ね!」
頬を膨らませ、怒りを顕にすると
ソラニエはクスクスと笑った
やっぱりソラニエの笑っている顔は綺麗だ
あんな青ざめた顔、二度と見たくない
私は決意し、ソラニエの手を強く握ったのだった
黒騎士団の方に戻り、私たちはベッドに飛び込んだ
「疲れた…絶対明日は筋肉痛だよ!」
「僕もそうだ…身体がギシギシ痛む」
「甲冑は厳しかったか」
私たちの様子を見て、ソラニエは小さく笑った
「2人は休むといい、私達は仕事に戻るよ」
「休まないの?2人とも」
「お前達に付き合ったせいで、仕事が溜まってるんだよ」
「そうなんですか?!ごめんなさい…」
「ゼロンさん、そんなこと言わないでください
仕事はいつものことだ、気にしないでくれ」
そう言って2人は部屋を出ていった
「ふぅ…やっぱりあの2人ってなんか変だよね」
「ホノカもそう思うのか?」
「うん、最初はゼロン様の方が圧倒的に上でソラニエが従ってるって思ってたけど、よく見るとそんなことなさそうだなって」
「僕には2人で何か隠しているように見えるけどな」
「…2人は恋人なんじゃないの?」
私がそう言うとペリドットは首を勢いよく横に振った
「それはない!絶対ないだろ」
「なんでよ、前だってソラニエの部屋にゼロン様がいたじゃない!」
「それはない、絶対ない!」
「なんでそう言えるのよ」
「理由は…分かんないけどそれはないんだよ」
「意味わかんない、ペリドット」
「この話は終わりだ、僕たちが話し合って
分かることじゃねぇよ」
「それもそうね、寝ましょ
早く部屋に戻りなさいよ、ペリドット」
「分かってるよ、おやすみ」
ペリドットと私の部屋はすぐ隣だ
互いの部屋にドア1つでいけるようになっている
鍵はついているが、お互い面倒だからつけていない
「…そういえばペリドット」
「なんだよ」
「ペリドットは私のこと、好きじゃないの?」
「はぁ?いきなりなんだよ」
「だって私ってこんなに可愛いじゃない?
惚れない男の子なんているのかなぁって」
「自分で言うかよ、それ」
ペリドットは私の方を見て、笑い
いたずらっ子のように口角をあげた
「僕の好みはもっと妖艶な年上だ
子供は好きじゃねぇよ」
「はぁ?同い年じゃないの、私だってアンタみたいな
ガキには興味ないっての!」
私が枕を投げると、ペリドットの顔面にヒットした
「いってぇな…早く寝ろ、僕も疲れた」
「ペリドットなんて知らない、ばーか!」
ペリドットはすぐに私の部屋を出ていった
「ったく!あの男、攻略対象にならなかったのは
これが原因ね!」
私はベッドをポスポスと叩いた
もう1つの枕を抱き締め、天井を見上げる
「…妖艶、ね
なってやろうじゃないの!!」
絶対ペリドットにタイプだって言わせてみせるんだから!私はとりあえずウエストを細くしようと、ベッドの上で腹筋を始めた