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ようやく王都までたどり着き、自分の部屋に戻ることができた
「あぁ...疲れた」
「僕も動きたくない...」
2人でベッドに寝っ転がり、ゴロゴロとする
「ペリドット、これからよ!王城にも魔法塔にも
入らなきゃいけないんだから!」
「へいへい、わかってるよ」
夜にでもソラニエの部屋に行こう
私の部屋に来てもらってばかりだと悪いし
「でもどうやって王城に行こう...聖女としての謁見とか?」
「王様に会えたとしても王城を自由には見て回れないだろ」
「そうだよね〜聖女だったらいるだけで目立つだろうし...あっ、そうだ!バルファ様に相談しようよ!
あの人、王城警備担当でしょ?」
「僕はオススメしないな」
「なんで?」
「バルファ様に頼み事なんて嫌な予感しかしない」
「大丈夫よ、私可愛い聖女様だから」
「いや、無理だろ」
「ほら、行くわよ!」
「待てって、休ませろよ!」
ペリドットの腕を引き、私たちはバルファのもとへ
向かった
赤騎士団の建物についた、黒騎士団のものよりも
かなり派手でキラキラしている
遠慮することなく、私たちは中に入っていった
驚かれたが聖女様だと分かれば、あちらから
挨拶をしてくれる、やっぱり聖女って便利!
バルファの居場所を聞くと、団長室にいるとのことで
そこまで案内してもらった
コンコンコン
「ホノカです、入ってもいいですか?」
「...どうぞ」
扉を開けると豪奢な造りの部屋の奥に、不満気な
表情のバルファがいた
「こんにちは!」
「...こんにちは、聖女様
聖女様ともあろうお方がなんでこんなところまで?」
「お願いがありまして」
「お願い?」
本当のことを言うわけにはいかないから
どう誤魔化そうかと来る途中にペリドットと考えた
「王城を見学させてもらいたくて」
「...それなら聖女様が直接王様に頼んだ方がいいんじゃない?」
「それだとダメなんです、だって聖女として行っちゃうと目立っちゃうでしょ?私、目立つの嫌いなので」
「それで?俺に何してもらいたいの?」
「私を王城警備の騎士として中にいれてもらいたいの!」
「嫌に決まってるよね、なんで俺がわざわざそんなことを?」
「聖女様のお願いだから!」
「あいにく俺は聖女様を信仰しちゃいないよ」
「えぇ...ならどうしたらお願い叶えてくれますか?」
「そうだな、もしやってあげるって言うんなら
1日ソラニエを俺のもとへ連れてきてくれる?」
「そ、ソラニエを?なんで?!」
意味がわからない提案に私とペリドットは顔を見合わせた
「それは言えないな、1日ソラニエを貸して欲しいんだよ、仲良いんでしょ?君たち」
「...な、何をするかによる
変なことするってんなら絶対嫌よ!」
「そんなことしないよ、俺はゼロンと違って紳士だから」
「ゼロン様がどうしてここで出てくるのよ」
「知らないの、もしかして?まぁいいや
彼女には絶対触らない、ただ聞きたいことがある
だけなんだ」
「信用できない!」
「ふーん、ならソラニエと一緒に聖女様もついてきていいよ、もちろんペリドット君も」
「えっ...」
「それならどうかな?」
「...ソラニエに聞いてみる」
「いい返事待ってるよ」
私たちはバルファの部屋を出てすぐに部屋に戻った
「なんでソラニエに会いたいなんて...」
「ソラニエにアプローチしたいとかか?」
「それなら私たちがついていってもいいなんて
言わないでしょ」
「とりあえずソラニエに聞くしかねぇよ
嫌って言うなら断ろう」
「そうだね、そうしよっか」
その日の夜、ソラニエの部屋をノックすると
部屋の中から大きな音がした
布団が落ちる音や、クローゼットのハンガーがけたたましく落ちる音、ドタドタとした足音が響く
「ソラニエ、大丈夫?」
心配で声をかけると彼女の慌てた声が返ってきた
「だ、大丈夫だからもう少しそこで待って」
「う、うん...」
1分ほど待つと部屋の扉が開いた
髪は乱れ、服を着崩したソラニエが荒い息で現れた
「ど、どうした2人とも」
「それよりソラニエ大丈夫?息が荒いし...体調悪いの?なら部屋で寝てて大丈夫だよ」
「問題ない、全く」
「ならいいけど...ソラニエの部屋に入ってもいい?
話したいことがあって」
そういうとソラニエは困ったように首を振った
「へ、部屋が汚いからホノカの部屋でお願いできないだろうか」
「別にいいけど...部屋が散らかってるようには見えないよ」
「ちょっと、奥が...奥が酷いんだ」
「...わかった、なら部屋に行こ!」
「うん」
ソラニエを私の部屋まで連れてきた
「なんでソラニエの服と髪はそんなに乱れてるの?」
「あぁ...さっきまで訓練をしていたんだ」
「そっかぁ、遅くまで大変だね」
3人で机を囲み、いつものように話を始める
「...王城に潜入する条件が私と会うことだと」
「そうなの、嫌なら断ってくれて大丈夫だよ
なんか怪しかったしさ」
バルファとの提案をソラニエに説明すると、少しの間彼女は悩み、ゆっくりと頷いた
「問題ない、引き受けよう」
「えっ、いいの?!」
「提案しといてなんだが本当に大丈夫か?ソラニエ」
「2人も来てくれるんだろう?なら構わない」
「ありがとう、ソラニエ!絶対に守るから」
「僕もできるかぎり守るが期待はしないでくれ」
「あぁ、頼む」
次の日、バルファにそのことを報告すると男は何かを企んでいるかのように笑った
「なら王城に行くのは明日でどうかな?」
「私とペリドットは大丈夫だけど...ソラニエは?」
「...厳しいかもしれないが、任せて」
「飼い主君は厳しいみたいだね、ソラニエ」
「……」
ソラニエがジロリとバルファを睨む
「よし、なら明日ここに集合してね」
部屋を出るとソラニエの顔は暗く曇っていた
「ソラニエ...大丈夫?」
「あっ...うん大丈夫」
「飼い主ってどういうこと?ソラニエに飼い主なんていないよね」
「...うん、いない、いるわけない」
「じゃあバルファ様は何を勘違いしてたんだろうね」
「さぁ...戻ろうホノカ」
「うん!」
「...まさかな」
「うん、いい朝だねペリドット!」
「毎朝毎朝うるせぇよ...」
今日は王城潜入の日!私はやる気に満ち溢れている
ソラニエを迎えに行こうとドアをノックすると
バスローブを身にまとうゼロンが姿を現した
髪からは水が滴り、バスローブの間から
見事なまでの筋肉が覗いている
「「ひゃあぁぁあ...」」
あまりの色気に私とペリドットは悲鳴をあげた
「いきなり叫ぶなよ」
「そ、ソラニエのへ、部屋になぜゼロン様が?」
「ソラニエはどこですか」
「ソラは今寝てる」
「なら起こして...」
「ソラは疲れてるんだ、寝かせてやらないとね」
「...そっか」
疲れてるんならしょうがない、ソラニエは騎士
きっと仕事に追われているんだろう
「安心しな、ソラに聞いたよ
今日王城に行く予定だってな」
「知ってるんですか?!」
「あぁ、いいと思うよ
聖女ちゃんも騎士団以外見てみたいだろうしね」
ソラニエそうやって説明したのか
「そ、そうなんです!見学してみたくて...」
「ソラなら後で僕が連れていく
僕なら王城に入り放題だからね」
「ならお願いします!でもソラニエには無理しないように伝えてください」
「あぁわかったよ、また後でね」
男は笑顔で手を振り、扉を閉めた
「あれ?結局なんでソラニエの部屋にいたの?」
「...さぁ、ペアだからか?」
「えっ?!騎士団って男と女が同じ部屋で過ごすの?!」
「分かんねぇよ、だって騎士団に女はソラニエだけなんだ」
「...えっ、他にいないの?」
「あぁ、ソラニエが初めての女騎士だったんだ」
「ねぇ、ソラニエはなんで騎士になったの?
男好きだから騎士団に入ったなんて嘘くさいし」
「僕にも分からないんだ、突然知らされたからな」
「...今度、聞いてみようかな」
赤騎士団の拠点に着くと、バルファが待っていた
「今日は時間通りに来たね、できるならいつもして欲しいものだよ」
「私たち2人で行くわ」
「...ソラニエはもしかしてゼロンに捕まってるのかな?あの子も大変だね」
「えっ?」
「いや、こっちの話だよ
さぁ行こうか、君たちはこれを着な」
渡されたのは重そうな甲冑だった
「えっ、これ着るの?!」
「騎士として入るんならこれしかないでしょ?
君たち騎士じゃないんだから誤魔化さないと」
渋々、甲冑を身につけるがあまりの重さに
身体が全く動かない
「こんなの動けないよ!」
「頑張りな、王城まで歩かないといけないんだからね」
「む、むりぃ!!」
「はぁ...はぁ...はぁ...ようやく着いた...」
「こんなに動いたの久しぶりだ...」
「ほらほら早く、入城するよ」
バルファに先導され、私達は王城へと踏み入れた
美しく輝くステンドグラス、真上には宝石を散りばめた大きなシャンデリアが煌めいている
入るたびにあまりの光量に目がチカチカする
やっぱり私は王城が好きじゃない
重い身体をギシギシと言わせながら、バルファの後を追うと目の前にいかにも王子様というような風貌の男が現れた
「ニコラ殿下、おはようございます」
「あぁ、バルファか」
甲冑のせいでよく聞こえないが、バルファの言葉に
ニコラが気を良くしているようだ
「...それで、あの件は進んでいるのか?」
「滞りなく進めております」
「なら良い、警備頼んだぞ」
高笑いしながらニコラは去っていった
「チッ...あの能無しが」
「「??!!」」
今、聞いてはならない声が聞こえたような気がする
聞き間違いだよね?バルファが王子を罵倒するわけないよね?それも王城で
「もしかして聞こえた?なら忘れた方が身のためだよ」
「「......」」
私達は無言で激しく頷いたのだった
「ぷはぁ...ようやく脱げた」
誰もいない物置小屋に着き、やっと甲冑をとることができた
「ここまで連れてきてあげたんだ、後は自分たちでどうにかしな」
「はい、ありがとうございました!」
そのままバルファはやることがあるといなくなった
「よし、やるよペリドット!」
「へいへい...どこから探す?」
「ん〜やっぱり秘密の資料は秘密の部屋にあるんじゃない?」
「秘密の部屋なんてどこにあるんだよ」
そりゃあ普通は見つけられないよ、でも私は聖女
そしてヒロイン!ヒロインパワーをもってすれば
秘密の部屋なんて簡単に見つかるのよ!
「とりあえず思うがままに動くわよ、ついてきて
ペリドット!」
「ちょっ、待て!」
誰かに見つからないように注意しながらも
心が動く方へと走り回った
「...ここが気になるよ、ペリドット!」
ひっそりと目立たない場所にたてつけられた扉
怪しい匂いがプンプンする
ドアノブに手をかけるが、扉は微動だにしない
鍵がかかっているようだ
「ペリドット、これ開けれない?」
「そうだな...頑張ればいけないこともないか」
どこからか針金を取り出し、カチャカチャと弄り出すと、1分ほどでガチャと音が聞こえた
「すごい、ペリドット!」
「まぁ、これくらいはできる」
中には入ると、そこにはたくさんの本があった
本棚に敷き詰められた資料を1つずつ見ていくが
大したことは何も書いてない
「何にもないね、ここならあると思ったのに」
「...いや、ホノカこれは明らかにおかしいぞ」
「なんで?」
「わざわざ鍵をかけて、保管していたくせに
この本棚にある本は全て国の図書館にもあるような
ものじゃねぇか」
「それが...?」
「それに本に関連性がない、まるで何かを隠すために
適当に本を並べているようにしか見えねぇ」
「ならもしかして隠し部屋が!」
「かもな、でもどこにあるかは全然分かんねぇ」
「...よし、なんか触ってみよ!」
ペタペタとそこにある本や置物を触ってみると
カチッ
ある本を後ろに押すとスイッチが入るような音がした
後ろから大きな音が鳴り、驚いて振り向くと
さっきまで暖炉があった場所に地下への階段が出現していた
「やったぁ!見つけた!」
「これが...聖女の力なのか?」
「よし!行くよペリドット!」
「あぁ」
石造りのせいか足音が不気味に響く
どこからか水が漏れているのか雫の音も聞こえてくる
「ね、ねぇペリドット...お化けとか出ないよね?」
「お化けより人間のが怖ぇよ、僕は見つからないかが不安だ...」
「だ、大丈夫よ...多分...」
怯えながら一段一段慎重に降りていくと
そこにはさっきの何倍もの数の本があった
「これはすげぇな」
「やっぱり隠されてたんだ!見ていこ!」
本を開いて読んでみるが...
「あれ?全然読めない、何この文字」
知らない記号の羅列で私には全く読めなかった
「どうしようペリドット...これじゃあ何も分からな...」
「安心しろ、僕は読める」
「...えっ、なんで」
ペリドットはスラスラと本をめくっていき、
ニヤッと笑った
「これは王家の暗号なんだよ、代々受け継がれてきた
王家にしか読めない文字なんだ」
「えっ、ならなんでペリドットが読めるのよ」
「昔は王族しか読めなかった、けどな今の王族は馬鹿ばっかだろ?だからアイツらが書いたり読まなきゃいけない文書を僕らが担当してんだよ」
「えっ?!なんでそんなことするの?!王族しか
分からないように暗号を作ったはずなのに...」
「あの馬鹿共は自分たちの身を危険に晒してでも
仕事をしたくないんだろうよ」
「...うっそ、ダメダメじゃん」
「それは同意」
ペリドットが本に目を通していく
「おい、ホノカ...これを見てみろよ」
「どうしたどうした?」
「ここに……って、誰か来たぞ」
「えっ?!」
たしかに耳を澄ますと上の方から誰かが階段を降りてくる音が聞こえる
「やばいやばいどうしよう!」
「バレたら殺されるぞ...」
咄嗟に本棚の後ろに隠れると、誰かが中に入ってきた
足音を聞くかぎり2人だろうか?
気づかれないことを必死に祈る
「「……」」
そんな願いも虚しく、2人の足音はこちらに
近づいてきた
どうしよう、私は殺されはしないだろうけど
ペリドットは?ペリドットが捕まってしまうかも
あぁ...どうしよう、私が無理を言ったから
足音はすぐ傍まで迫っている
諦めて謝ろうとしたとき...
「何をしている、2人とも」
「...ソラニエ?!?!」
「ソラニエだったのか...」
私たちがソラニエに抱きつくと、彼女は驚き
混乱していた
「どうした?」
「ここに入ったの見つかって殺されるかと思ったぁ」
「そろそろ僕も処刑されるって覚悟した...」
「大丈夫だ
バレそうになってたけど誤魔化しといたから」
「えっ、バレそうになってたの?」
「あぁ、鍵が開いていたからな
怪しんでいる城の者がいたが、なんとかな」
「ありがとう...ソラニエ」
「助かった、ソラニエ」
「お礼ならゼロンさんに言ってくれ」
「えっ?」
ソラニエに気を取られていたが、後ろに機嫌が悪そうなゼロンがこちらを睨んでいた
「無駄話はそれくらいに早く調べたらどうかな?」
「ゼロン様が助けてくれたの...?」
「あぁ、ゼロンさんが城の者を言いくるめてくれた」
「助かりました、ありがとうございました」
「言葉より先に手を動かしてくれるかな?」
ゼロンは笑顔で言い放ち、ソラニエが窘めるように
「ゼロンさん」
と男の袖を強く引いた