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コンコンコン
「んにゃ?」
朝、テントの外から音が聞こえ目が覚めた
目を擦りながら、テントをあけるとソラニエが立っていた
「おはよう、ホノカ...起こしてしまったか?」
「ソラニエ!おはよう!中入って」
隣で寝ていたペリドットも起こし、ソラニエが
持ってきてくれた朝ご飯とペリドットがいれてくれたお茶を机に並べた
「昨日は会いに行けなくて悪かった」
「いいよいいよ、仕方ないよ!だって怪我で...あれ?」
よく見るとソラニエの怪我はどこにもなかった
「怪我、治ってる...」
「あぁ、そうだな...心配してくれてありがとう」
「いや、えっ、なんで治ってるの?そんなすぐに
治るものなの?」
「そういえばソラニエは昔から怪我してもすぐに
治ってたよな」
「回復力が高いみたいだ」
「そうなんだ、凄いねソラニエ、」
「...まぁ、騎士としては便利な力だな」
「ソラニエ、聞いてよ!昨日ゼロン様にソラニエの
場所を教えて欲しいって言ったのに教えてくれなかったんだよ!ソラニエ昨日はどこにいたの?テントにはいなかったし...」
「あっあぁ...その、い、医務室用のテントにいたんだ」
ソラニエは笑いながら目を逸らす、なんか怪しいな
「ソラニエ、嘘ついてない?」
「つ、ついてない」
「...はぁ、まぁいいや
怪我が治ってるんならよかったよ」
「...うん、ありがとうホノカ」
それから楽しく3人で話していた
「ソラニエ、お前仕事はいいのか?ここまで
僕たちが引き止めといてなんだけど」
「あぁ、大丈夫だ
リラルと少し仕事を代わってもらえた」
「ゼロン様は怒ってないの?」
「怒る…かもしれないな、勝手に行動しているし」
「ゼロン様に言ってないの?」
「言ってないな、あの人は朝が弱いから
まだ起きていないはずだし…バレたらやはり
怒られてしまうかもしれないな…私がホノカに近づいているから」
「えっ…それってどういう…」
突然、テントの外から獣の咆哮が聞こえてきた
ソラニエが急いでテントの外に出る
私達も続いて外に出ると、そこには10メートル近くもありそうな巨大な魔獣が牙を剥き出し、唸っていた
「ま、まじゅう?!」
初めて見た、討伐なんて来たことなかったし
こんなに恐ろしいものだったなんて考えもしなかった
私は腰を抜かし、どうしても動くことができなかった
「ホノカ、落ち着け!」
ペリドットが私の手を握り、立たせようとする
しかし、私の身体は鉛のように重く、全く動かない
「ペリー、ホノカを抱えて逃げられるか?」
「逃げられるとは思うが、速くは走れねぇ」
「それでいい、私が2人を守るからよろしく頼むよ」
「...わかった、ソラニエも気をつけろよ」
「あぁ、分かってる」
私はペリドットに抱き上げられる
そしてそれと同時にソラニエは魔獣に剣で立ち向かった
「ソラニエ...!!」
ペリドットは騎士団員が集まる方へと走る
ソラニエが魔獣の首に剣を刺すところが見える
しかし力が足りないようで、仕留めきれず
彼女は魔獣に弾き飛ばされた
「ペリドット、戻って!ソラニエが死んじゃう!!」
「ダメだ、戻っても邪魔になるに決まってんだろ」
「でも、でも!!!」
このままじゃ...このままじゃソラニエが!
「はぁ...ほんと痛いな」
魔獣に飛ばされ、近くの木に身体を強くぶつけた
口の中は鉄の味がする、内臓に傷でも入ったのか
立ち上がり、また剣を構えた
深さが足りなかった、もっと急所を正確に
鋭く刺さなくては
ホノカの声が聞こえる、心配なんてしなくていいのに
どうせ騎士なんて消耗品でしかないんだから
魔獣が私に襲いかかってくる
次こそは...私は強く踏み出し剣を真っ直ぐに構えた
魔獣が口を開くと同時に、首を一気に刺した
「ささっ...た...」
急所を完壁に刺された魔獣は、苦しみ最後は力なく倒れた
「...はぁ、できた」
私も身体に力が入らず、地面に倒れ込む
今回は生き残ったが、騎士なんていつ死ぬか分からない
ギッ...ギギっ...ギギギギ
「えっ...」
なんの音かと思えば、魔獣が倒れた衝撃で
隣の木が傾き出していた、それも私の方に
まさかこんな風に死ぬなんて、思ってなかったな
身体を動かすこともできず、私は死を受け入れた
「おい、何諦めた顔してんだよ」
「ぜ、ゼロンさん?」
目を開くと片手で木を支えるゼロンの姿があった
彼はそれを軽く投げ、手を払った
「おい、こんな弱い敵で苦戦してんじゃねぇよ」
「す、すみません」
男は私の顔についた汚れを拭い、身体を抱き上げた
「お前に言うことがたくさんある」
「は、はい」
ゼロンは怒っているようで、私を抱く手に力が入っている
男は軽く私を睨み、呆れたように息を吐いた
「でも説教は怪我が治ってからだ、寝とけ」
「えっ...」
男の手が私の目を塞ぐ、あれ...なんだか...意識が
私の身体の力は一気に抜けてしまった
「ソラニエ...ソラニエ...!!」
騎士が集まるテントに連れてこられ、私はソラニエの
無事を祈っていた
「ホノカ、大丈夫だ...ソラニエは強い」
「で、でもさっきソラニエが...」
死んじゃったらどうしよう...私がついていくなんて
言ったせいで死んじゃったら...
「ねぇ、ソラニエを助けてよ!騎士なんでしょ!
お願い助けて...!」
キャルとグダに泣きつくが2人は笑いながら言った
「聖女様落ち着いてください、ソラニエが死んだら
また別の騎士を友人にすればいいんですから」
「...それ本気で言ってるの?」
「騎士なんてたくさんいるだろ、俺もいるし」
「ねぇ、なんでこのテントにほとんどの騎士が集まってるの...行かないの?魔獣を倒しにきたんでしょ?
なんで魔獣を倒しに行かないの?」
「だって死ぬかもしれないじゃないですか」
「...は?」
おかしい、この騎士団は何かが...
「ソラニエを助けに行かないの?仲間でしょ?」
「なんであんなやつのために行かなきゃなんねぇんだよ?」
「...騎士ってそんなに弱虫だったの?騎士って
魔獣が怖いから逃げるようなやつだったの?!」
「いやぁ、聖女様が俺たちに何を思ってるか
知らねぇけど、この国の騎士ってのはな...」
「それ以上は言ってはいけませんよ、グダ..」
「おっと、これ以上は言えねぇな
リラルが行ってたし、運が良かったら生きてるんじゃね?まぁ、死んでくれてかまわねぇけど」
「......」
「終わってるな、こいつら」
「ペリドット、私は行くわ
こんなやつらと一緒にいたくないし、守ってもらいたくもない!」
私は、テントの外に出た
ソラニエ、無事でいて
私はペリドットに止められながらも、さっきの場所へ
走った
「聖女様、なぜここへ?」
さっきの場所へ向かうとリラルが立っていた
「ソラニエは無事なの?魔獣は...」
「安心してください、ソラニエは無事です
それに魔獣はソラニエが倒しました」
「よ、よかったぁ...」
「あそこにいますよ、ゼロン団長と」
「えっ、ゼロン様と?」
そっちに向かうとゼロンがソラニエを抱き上げていた
ソラニエは気を失い、身体は傷だらけだ
「聖女ちゃん、来たんだね」
「ソラニエ...生きているんですよね?!」
「もちろん、生きてるよ」
「よかったぁ...今すぐ私が治癒して...」
「ダメだよ、それだけはダメだ」
「なんでですか?!重傷なんでしょ?!早く治さなきゃ...」
ゼロンは私を軽く睨む、怖くて怯むが
私は私なりにソラニエを助けたい
私は足を1歩前に踏み出した
それを見た男は諦めたようにため息をついた
「はぁ...聖女ちゃんに教えとくね、ソラは聖女ちゃんの魔法と相性が悪いんだ」
「えっ、そんなの聞いたこと...」
「誰にも言っちゃダメだよ、これは僕と聖女ちゃん
そして君の従者くんとだけの秘密だ」
「なんで秘密なんですか?」
「聖女ちゃんの魔法との相性が悪いって知られたら
ソラが悪く言われるかもしれないからね」
「そっか...」
たしかに聖女の魔法と合わないとなれば
呪われているからだ、とか言われるかもしれない
「よろしくね、聖女ちゃん」
「はい、分かりました」
そう言ってゼロンはソラニエを連れていった
そういうことか、ゼロンはソラニエのためを思って
私を近づけないようにしてたのか、私がソラニエに
魔法を使ったらそのことがバレてしまうから
「ペリドット、知ってた?」
「知らなかった...なんでだろうな」
「何事も合う合わないがあるし、そういうことなんじゃない?」
「だな、ホノカ早く帰ろう
もうテント生活は疲れたよ」
「私も早くお風呂入りたい...帰ろ帰ろ!」
私たちは帰る準備をするためにテントへ急いだ
私たちは帰りも馬車で帰った
そういえばソラニエはどうやって帰るんだろう
馬車はこれ1つしかないようだし...
リラルに聞いてみようと窓から顔を出す
「ねぇ、リラ...あっ!もしかして」
リラルの後ろに可愛らしい男の子がくっついていた
「わぁ、初めまして聖女様!クルトだよ!
よろしくね」
攻略対象のクルトだった、可愛らしい容姿と
小悪魔のような性格に前の世界でもメロメロになる
お姉様方が多かった
「リラルの言ってたペアってもしかしてクルト?」
「はい、ようやく帰ってきましたよ」
「クルトだって仕事したもん!魔獣を呼び寄せたのは
クルトだよ!リラル褒めて」
「はいはい、すごいすごい」
「もう!」
「え?!クルトが呼んできたの?!そのせいで
ソラニエ死にそうだったんだよ!」
「クルトも手伝おうとしたもん!でも、ソラニエが
先にやっつけちゃったの!」
「でも危なかったんだけど」
「しかたないじゃん、まさかあのテントに聖女様が
いるなんて知らなかったから!」
ぷくぅと頬を膨らませるクルト、可愛いなぁ
許してしまいたくなる
「はぁ...それとなんでクルトはリラルの後ろに乗ってるの?馬ないの?」
「こいつ、馬を扱うのが面倒だと私の後ろに
いつも乗ってるんですよ」
「リラル、前に乗せてよ!捕まってるの大変だよ!」
「絶対に嫌だ」
「えぇ...!」
仲が良さそうだな、知らなかった
リラルとクルトがこんな感じだったなんて
私は何度もこの世界を繰り返してきたけど
知らないことばかりだったんだ
ペリドットだって口が悪いくせに、ところどころ
品の良さが出てるし、魔獣が出たときなんて
私を置いて逃げると思ってた
「うぅ...早くついてくれ」
「…ペリドット、助けてくれてありがとね」
「…なんか、言ったか?」
馬車酔いしてるところは情けないけど
なんだか可愛いなぁなんて思えてしまった
「やっと目が覚めたか」
「...ゼロンさん」
目を覚ますと私はゼロンさんの腕の中だった
「怪我は治ってるみたいだな」
「ここは...」
「王都に戻ってるところだ、ほら早く馬に跨がれ
ずっと僕が支えてやってたんだから」
「あっ...はい」
馬に跨るが、ゼロンとの距離は近いままだ
背中に男の熱が伝わる、男の吐息が首にかかる
私の心臓は聞こえるんじゃないかってくらいに
大きな音で鳴る
どうかバレませんように
私は赤い顔が見えないように下を向いたのだった