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次の日、野営の片付けを終え
すぐに目的地まで向かった、情報によると
この近辺で魔獣が発見されたらしい
「痕跡がないか辺りを調べろ」
ゼロンが騎士団員に指示を飛ばし、捜索が行われた
調査の結果、魔獣の爪の跡や魔力が残っており
近くにいるのは間違いなさそうだった
私の護衛としてついているリラルによると
魔獣を見つけられれば帰れるが、見つからなければ何日も滞在することになるらしい
ソラニエ、強いとは思うけど心配だな
怪我とかしなきゃいいけど
私は怪我人がいなければ暇なので、暇つぶしに
ペリドットと話したり、辺りを散策したり
回復薬を作ったりしている
「ソラニエと話したいのにぃ!全然解放されないじゃん!」
ソラニエと話せるのは夕方の少しの時間で
後はほとんどの時間をゼロンと行動している
弟子なんだか部下なんだか知らないけど
ソラニエを拘束しすぎじゃないだろうか
「ねぇ、リラル!ゼロン様はソラニエのことが好きなの?」
「ゼロン団長がソラニエのことが…好き?ですか…?」
いつも無表情なリラルの顔が明らかに引き攣っている
「だっていっつも一緒にいるじゃない」
「それはゼロン団長とソラニエがペアを組んでいるからですね」
「ペア?」
「騎士団は基本2人1組で行動します、私もそうですよ」
「えっ、でもリラルは1人じゃない?」
「いるにはいるんですよ、ただそいつはすぐに
1人でどこかへ行ってしまうんです
また戻ってきたら紹介します」
「そうなんだ…それでソラニエはゼロン様とペアを
組んでるからずっと一緒にいるわけね」
「はい、なので好きというわけではないと思います」
「…なんでソラニエはゼロン様とペアを組んでるの?
リラルと組めばよかったじゃない、仲良いんでしょ?」
「そうできればよかったのですが、ゼロン団長の
指示ですので」
「じゃあやっぱりゼロン様がソラニエを気に入ってるからペアに置いたんじゃないの?」
「そうですね...ソラニエの力を認めているから
ペアにしている、という方が正しいかもしれません」
「どういうこと?」
「見ていただいた方が早いかもしれませんね」
そう言って、リラルは私たちを2人の様子が見える
場所まで連れていってくれた
チラリと覗いてみると、2人は剣を交え
訓練をしているようだった
ソラニエが果敢にゼロンに攻撃を仕掛けるが
軽くいなされ、逆に攻撃を返される
「だから言ってるだろ、攻撃が分かりやすいって」
「…くっ」
「早く立てよ、僕に少しでも当てられたら今日の訓練は終わってやるよ」
ソラニエは立ち上がり、また剣を構える
「えっ、まだやるの?!」
「いつもあんなかんじですよ」
ソラニエの身体は傷だらけで、今にも倒れそうだ
なのにゼロンは容赦なく彼女を剣で甚振る
しかしソラニエは諦めず、必死にゼロンに立ち向かった
ゼロンの剣を咄嗟に避け、懐に入り込み剣を振るった
すぐにゼロンに蹴飛ばされたが、剣は辛うじて
ゼロンの頬に掠った
「げほっ…はぁ…はぁ」
ソラニエは苦しそうに顔を歪め、そのままその場に倒れ込んだ
「ソラニエ!」
耐えられず、私はソラニエのもとに駆け寄った
怪我が酷く、気絶してしまっているようだった
すぐに怪我を治そうと手をかざすが、ソラニエの身体はゼロンに持ち上げられた
「ゼロン様、ソラニエを治癒しないと…!」
「聖女ちゃんにこの程度の傷で力を使わせるわけにはいかないからね」
「大丈夫ですから治させてください!」
「テントに寝かせておくよ、これくらいなら1日で治る」
「1日で治るわけないですよ!治させてください!」
「治るから安心しな、ソラニエは回復が早いからね」
「ちょっと待ってください」
ゼロンは彼女を抱え、テントに戻って行った
「なんで?!治癒したら一瞬なのに!」
「ありゃあ、ひでぇな…ソラニエもよく逃げ出さないな…」
「いつもあんなかんじです、なので好きというわけではないと思いますよ」
「そうみたいだね…だって好きな人にあんな酷いこと
普通しないもん!」
女の子によくあんなことができるものだ!
後でソラニエを治しに行かないとね
「おい、ソラ」
「...ん」
目を覚ますと、テントのベッドに寝かされていた
起き上がらないと、と身体を動かそうとするが
痛みが走った
「無理するな、明日まで寝てろ」
「でも仕事が…」
「僕1人で問題ない」
「…ゼロンさん」
「なんだよ」
ずっと聞いてみたかったことがある、でも怖くて
聞けなかった、真実を知るのが怖かったから
「なぜ私とペアを組んでいるんですか?」
「は?」
「…騎士団長は単独行動が許されていますよね?
なのにどうしてわざわざ私と」
「聞きてぇの?」
「…気になっていましたから」
「なんて言って欲しい?」
男は全てを見透かしたように笑う
だから私はダメなんだ、言葉を欲しがってしまうから
「...聞かなかったことにしてください」
「可愛くねぇな」
男は私の頭を撫でる、こういうところがこの人の
ダメなところだ
「なんでお前をペアにしたかねぇ、どうだったかな」
「無理に答えてもらわなくて結構です」
「お前が聞いたんだろ?」
どうせ濁される、私は男から目を逸らし
布団を被った
「いじけんなよ」
布団を剥がされ、私を男は組み敷いた
「んっ…」
男は私の唇に噛みつき、その手は私の身体を撫でる
コルセットの紐を解かれ、シャツのボタンも器用に外された
顕になった素肌を男の手が艶めかしく這う
「アザになってるな、さっきの」
「強くし過ぎなんですよ」
「お前が弱いからだろ」
「そうですけど…」
アザを押されると痛くて、顔を歪める
その姿に笑う男、ほんとクズとしか言いようがない
「悪かったよ、優しくしてやるから」
「やらないという選択肢はないんですね」
「まぁな」
私は腰の痛みを覚悟して、男の背中に手を回したのだった
「…痛い」
「優しくしてやったろ?」
「優しくなかったですよ…」
男の腕の中で悪態をつく
男は私の髪を摘んだり、私の身体にキスをする
眠いな…でも仕事に行かないと
それにホノカとも会っていない
まだ起きているだろうか
「そろそろ僕も仕事行こうかな」
そう言って男はベッドから出て、服を着た
「私も行きます」
立とうとするが、男の腕に押さえられた
「寝てろ、いらねぇよ」
「で、でも…」
「さっき僕にボコされたお前を見られてたんだ
なら怪我が治ってないって言えば分かるだろ」
「…ホノカ様に会わなければならないんです」
「…聖女聖女聖女、うるせぇよ聖女と関わんな」
「...ホノカ様に私が近づいて欲しくないということですか?」
ゼロンは私がホノカに近づくことを極端に嫌がる
ホノカが作った回復薬は絶対に使わせないし
ホノカに会いに行くときも何時までに帰るように
指示される、私がホノカに悪い影響を与えるんじゃないかと心配しているのだろうか
「そうだよ」
「な、なんで...」
ホノカによると私は何度も殺されるらしい
たしか、彼女がゼロンとの道を選んだ際は
私はゼロン本人に殺されたと聞いた
私はたしかに前の世界を思い出した、彼女がこの世界に訪れてからの記憶を…しかし、死の記憶だけはどこにもなかった
どうやって死んだのか、その記憶だけが綺麗になくなっている
殺されるなんて信じたくないが、恋は人を一瞬で変える、起きないとは言いきれない
「お前も話さないんだ、僕だって話さない」
「……」
ゼロンは私にまたキスをして、テントの出口に向かった
「そういえばソラ、1つだけ答えてやるよ」
「えっ…」
「お前をペアにした理由だが、特に意味は無い
お前が僕以外と組もうが僕の知ったことじゃないからな」
「...はは」
男はそう言い残し、テントを出ていった
あぁ、ほんとに…この人は
「ばか…」
私の小さな声はテントの静寂にかき消された
「ソラニエ、来ないね」
「そりゃそうだろ、あの怪我なら寝てるんじゃねぇか?」
「治しに行きたい!」
「ソラニエがどこにいるかだよな」
私たちはソラニエを探しに行くことにした
リラルに場所を聞いて彼女のテントに向かうが
誰もいなかった
「あれ?どこ行ったんだろ」
「ゼロン様とペアなんだろ、聞いてみたら?」
「たしかに、リラル、ゼロン様はどこ?」
「今は見張りをしてると思いますよ」
連れてこられたのは一際高い櫓だった
梯子をのぼり、上を覗くと煙草を吸っているゼロンがいた
「あれ、聖女ちゃんどうしたの?」
強い煙草にむせるとペリドットがハンカチを渡してくれた
「あのゼロン様、ソラニエはどこにいますか?」
「ソラ?なんで探してるのかな?」
「話したくて、私たち友達ですし」
「友達...ねぇ」
男は煙草を深く吸い、夜空へと吐き出した
「知らねぇ、どっかにいるだろ」
「ゼロン様がソラニエを連れていったじゃないですか、教えてくれても!」
「早く自分のテントに戻って寝なよ、聖女ちゃん
こんな夜遅くに出歩いてると魔獣に殺されちゃうよ」
「くっ...!」
怖い、やっぱり怖い
もしかしてゼロンが怖くなるときってソラニエが
関わっているときなの...?
ゲームの地雷選択肢はたしか...ソラニエに話しかけようとしたときだったかもしれない
ソラニエに近づこうとしたり、仲良くなりたいとか言ったら一気に好感度が下がった
ゼロンとソラニエの関係性...これもトゥルーエンドに関係があるんだろうか
「ぜ、ゼロン様はソラニエのことをどう思ってるんですか?」
「ソラを?ただの部下だと思ってるよ」
「嘘よ、だってソラニエの話をするたびに
怖くなるんだから!」
「ほ、ホノカ...落ち着け」
「...ははっ、だから嫌なんだ」
「何が?!」
「なんでもないよ、ほら帰りな
これ以上いたら見張りの邪魔だからね」
「ホノカ、帰るぞ」
「待ってよ、ソラニエについて聞けてない」
「ダメだ、お前のためにも僕は帰らせる」
「...分かった」
ペリドットの言う通り、私はゼロンのもとを去った
「なんで止めたのペリドット...」
「気づかなかったのか?!ゼロン様が剣に手をかけていたのを」
「えっ、そうなの?!」
「とりあえず早くテントに戻ろう、話はそれからだ」
「うん...」
「あぁ...死ぬかと思った」
テントに戻り、ペリドットは私にお茶をいれてくれた
「ねぇ、ゼロン様はなんでソラニエに近づこうとすると怒るんだろう?」
「それが剣を取ろうとした理由なのか?」
「多分ね、ソラニエの話題を出すと怖い雰囲気になるもん」
「怖い雰囲気?別に顔は笑顔だったぞ、ゼロン様」
「えっ、ほんとに顔見てた?!真顔だったよ」
「僕にはいつもの笑顔に見えてたな」
「...おかしい、だって討伐について行きたいって言ったときもソラニエを治癒したいって言った時も
怒ってたじゃん、雰囲気怖かったじゃん!」
「いつも通りだと思ったけどな」
「...え、なんで?」
なんで認識にここまでの差ができているんだろう
私の勘が鋭いとか?人の気持ちが伝わりやすいとか?
「ホノカが言うならそうだったのかもしれないけど
僕には分からなかった」
「...そっか、なんでだろう?聖女の力かな?」
「かもな」
たまたまなのかな、考えなくていいのかな?
私の頭はどうにもスッキリとしなかった