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「おはよう、ソラニエ!」
「おはようございます、ホノカ様」
「ちょっと敬語に戻ってるじゃん」
「人前ですので」
「もう…仕方ないなぁ」
次の日、ソラニエに会いに行こうとペリドットを
叩き起して騎士団の訓練場に訪れた
早朝から訓練なんてよくやるものだ
ソラニエは私の声に気がついたのか
すぐにこっちにやってきた
息は荒く、首や額に流れる汗を見るかぎり
かなり激しい訓練をしていたみたいだ
「ねぇ今日も話せる?暇なときに会えない?」
「申し訳ございません、今日は厳しくて…」
「なんで?」
「魔獣が森に出たらしく、討伐しに行かなければならないので」
「魔獣かぁ…それはいかないとだね」
ゼロンとソラニエが所属している黒騎士団は魔獣の討伐が主な仕事だ、赤騎士団は王宮警備、青騎士団は街の警備を担当している
「いつ帰ってくるの?」
「正確には言えませんが、1週間ほどかと」
「えぇ?!そんなかかるの?!なら私も行く!」
「えっ、ホノカ様もですか?」
「おい、ホノカ…さすがに迷惑だって!」
「なんでよ、私治癒できるんだよ?行った方がいいじゃん」
「ホノカ様、魔獣討伐は危険です
そんな危険な場所にホノカ様を連れてわけいくには…」
「大丈夫だって!何かあればペリドットが守ってくれるはずだし」
「僕が?!」
「ゼロン様にも言ってくるね〜ってちょっと待って
ソラニエの首元虫に刺されるよ」
「えっ…あぁ」
「治してあげる!ほらほらしゃがんで」
「だ、大丈夫です!虫刺されでホノカ様の力を使わせるわけにはいきませんから」
そう言ってソラニエは首元を隠しながらどこかへ行ってしまった
「遠慮しなくていいのに…あっ、ゼロン様に許可もらいに行くんだった!ペリドット、一緒に来て」
「おい、待てってホノカ!」
準備を指示しているゼロンのところに行く
「ゼロン様、あのお話があるんです!」
「聖女ちゃんか、こんなところまで来てどうしたの?」
笑顔で話しかけてくれるゼロン、怖い人かと思ってたけどやっぱり優しい人なのかな
「私も皆さんに同行したくて…」
「でも聖女ちゃん、危ないんじゃないかな」
「大丈夫です、自分の身は自分で守りますから
それに私は治癒が出来ますし」
「寝る場所もテントだけど大丈夫?」
「ソラニエと一緒に寝るから問題ないです!」
「ソラと一緒に?」
「はい!」
「…それは許可できないなぁ」
あれ、おかしい
さっきまでの明るい空気が一気に重くなる
これはあれだ、地雷の選択肢を踏んだ時の反応だ
何回か試しに選んでみたことがある
そのときも空気が一瞬でピリつき、冷や汗が出たのを覚えている
「あっ…えっと…なんで」
「ソラは僕と一緒に夜中の見張りだからね
聖女ちゃんは従者の君に任せるよ」
「えっ、はい」
「ついてくるのは許すよ、ありがたいからね
でも従者くんと一緒にいな、それじゃ」
そのままゼロンはどこかへ行ってしまった
「ペ、ペリドット…私、何言っちゃったんだろ」
「ん?何か言ってたか?」
「ソラニエと一緒に寝たいって言ったら、めっちゃ
怒ってたじゃん!」
「別に怒ってなかったと思うけどな
それにソラニエと見張りになってるなら仕方ないと思うぞ」
「怒ってなかった?!絶対怒ってたよ!」
「そ、そうか…?」
やっぱりゼロンは怖い、いったいどこで表の彼と裏の彼が切り替わるんだ
とりあえず私も準備しないと
私はペリドットを連れ、部屋に戻った
その日の昼に黒騎士団は出発した
出没場所までは丸1日かかるらしく、今日の夜は野営をするらしい
騎士は馬で、私は馬車で移動することになった
窓から顔を出すと、馬に乗るイケメンを発見した
「こんにちは!」
「聖女様、おはようございます
本日護衛を担当させていただくリラルと申します」
胸に手をあて、軽く礼をする彼は攻略対象のリラルだ
無表情で滅多に表情を変えないクール系のイケメンだ
彼の設定としては騎士団の中で唯一、ソラニエと仲がいいというのが印象的だった
彼を攻略したとき、ソラニエが何度も私を虐めてきたが彼女を切り捨てるのではなく、彼女を注意していた
しかしソラニエは心当たりがないと否定し
やめようとしなかった
最後には説得を諦め、彼女の追放に了承したが
少し表情が暗かったのを覚えている
「ソラニエがどこにいるか知らない?」
「ソラニエは前の方でゼロン団長といますよ」
「またゼロン様と?あの2人仲がいいの?」
ゲームでもこっちの世界に来てからも
あの2人が親しく喋っているところは見たことがなかった
「仲がいいと言うよりは、ゼロン団長はソラニエの
弟子といいますか直属の部下のいいますか…」
「弟子?直属の部下?」
「ソラニエは剣がとても上手なんです
同期の中では圧倒的に」
「そうなんだ、知らなかった」
「なのでゼロン団長が直接指導されているそうですよ」
今回はたくさんの情報が明らかになるな…
特にソラニエについて
トゥルーエンドのルートが解放されたからかな
「ソラニエに会うにはどうしたらいいと思う?」
「会うなら夜がいいかと、夕食を食べてから皆が就寝するまでの間なら会えると思いますよ」
「そっか、ありがとう!」
「いえ、聖女様
どうかソラニエをよろしくお願いします」
「えっ?なんで?」
「…ソラニエは多くのものを抱えていますので」
「多くのものって…」
聞こうとしたがリラルは呼ばれ、馬車から離れてしまった
「ねぇ、ペリドット
ソラニエはいったい何を抱えているの?」
「な、なんだよ…いきなり…って、おえぇ」
馬車に酔って苦しんでいるペリドット
無理やり連れてきて悪かったな、私は彼に水を飲ませ
優しく背中をさすった
治癒魔法をかけてあげたけど、馬車酔いにはあまり
効かないみたいだった
話を聞くのは後にするか
私は苦しむペリドットを馬車の椅子に寝かせ
窓からの景色を楽しむことにした
夕方頃、馬車は突然止まった
今日の野営地に着いたらしい
窓の外では騎士達がテントを建てたり、火を起こしたりと忙しなく動いている
ペリドットは少しずつ体調が戻ってきたのか
目の焦点があってきた
「ペリドット、ご飯食べれる?」
「無理…」
「ならスープだけでも飲みな、ほら」
「うぅ…」
スプーンでゆっくり飲ませていると
「おい、情けねぇなペリドット」
「そこまでしてなぜついてきたのやら」
騎士団のイケメン達が現れた
口調がキツく、荒っぽいのがグダ
眼鏡をかけたインテリ系イケメンがキャルだ
彼らのルートではすぐにソラニエが処刑される
なぜなら2人はソラニエととんでもなく仲が悪いからだった
「ペリドットは私のために無理してついてきてくれたの、イケメンさん達でもその言葉は許さないから」
睨むと2人はクスクスと笑った
「聖女様にイケメンなんて言われて光栄だな」
「まぁ、目だけは確かなようですね」
「なんなの、コイツら…」
ゲームや攻略中にはかっこいいと思っていたが
よく見るとただのめんどくさいタイプのガキだった
無視してペリドットにスープを飲ませていると
グダが私の肩に手を強く置いた
「なに?痛いんだけど」
「最近、ソラニエに近寄られてるらしいな」
「違うけど!私がソラニエと仲良くなりたくて
近づいてるの!」
言い返すと2人は忌々しげに私に警告した
「あの女には近づかないほうがいいぜ」
「アイツはよからぬことしか考えていないからな」
「そんなのなんであんた達に言われなきゃなんないのよ!」
「聖女様が傷つかないように言ってんだよ
誰かと仲良くしたいなら俺たちにしろよ」
「ソラニエが嫌いな者がほとんどだ
さらに友人は増えるだろう」
なんなの、コイツら
ほんとに嫌なやつらなんだけど
「あんた達なんか知らないからあっち行って!」
「はぁ、傷ついても知らねぇからな」
「聖女様、賢くあるべきですよ」
「うるさいうるさい!」
シッシッと追っ払うとペリドットが口を開いた
「いいのか、アイツらのところへ行かなくて」
「なんで行くのよ、あんなヤツらこっちから
願い下げよ」
「…ホノカは変わってるな」
「へ?なんで?」
「こんな従者より普通は騎士のイケメンを優先するだろ?」
「もうイケメンなんて飽き飽きよ、男は顔より心よ」
「ぷはっ、そりゃ言えてる」
ペリドットは吹き出した
いつも小言を言ったり、仕事をしてるイメージが強いせいか大人っぽく思っていたが、話し方や笑ってる顔を見るとまだ子供なんだと思った
「ペリドットって私と同い年だったよね?」
「まぁな、でも僕は先輩よりも仕事はできる」
「仕事は、ね!身体はまだまだ弱いみたいね」
「…これから強くなる」
「あははっ!」
「ホノカ、ペリー、待たせた」
「ソラニエ、お疲れ様!」
「申し訳ない、なかなか話すことができず…」
「いいのいいの!こっちが押しかけたんだから
来てくれてありがとう!それより話そ、あれだよね
ユリサス帝国の皇子を見つけるって話」
「あぁ、それなら僕が少し調べた
帝国が滅ぼされたとき皇子の年齢は10代、生き延びられた理由としてはレスヘルサ王国に忠誠を誓ったかららしい」
「滅ぼされたのは何年前なの?」
「約15年前だな、正確な時期は分からない」
「皇子はよく忠誠を誓ったね、母国を滅ぼした
敵国に」
「その理由も不明だ、死にたくなかったんだろ」
「そういえばどうやってユリサス帝国は滅ぼされたの?」
「魔法だ、この国の」
「魔法?」
ソラニエが私の質問に答えてくれた
「この国は騎士団もかなりの強さだが、魔法が最も発展しているんだ、ホノカを召喚できたのも魔法のおかげだ」
「そうなんだ…でもレスヘルサ王国よりもユリサス帝国の方が強かったんだよね?何が強かったの?」
「神力だ、言っただろう?神に愛された国だったと」
「言ってたね、そういえば!」
「ユリサス帝国の者は稀に神力を持って産まれてくる子がいたんだ」
「魔法と神力って何が違うの?」
「魔法は人間が長い歴史をかけてつくりあげてきたもの、だから魔法の根底には必ず理論がある
しかし神力は神から与えられたもの、そこに理論なんて存在しない、与えられた者はその力が呼吸をするのと同じような簡単に使える」
「へぇ…神力でなにができるの?」
「それは人による。過去には、未来が見えたり、時間を止めたり、記憶を消せたりできた者がいたみたい」
「そんな凄い力なの?!」
「あぁ、そうらしいぞ
僕も聞いたことがあるだけだが、当時は世界の中心だったらしいな」
「へぇ…ならなんでそんな強い国が負けちゃったんだろう」
「この国の魔法塔が関係していることまでは分かったんだが…ユリサス帝国が滅ぼされた時期の前後
不自然なほど魔法塔に予算が振り当てられていた」
「ペリーよく調べられたね」
「まぁ頑張ったさ、こっそり資料を持ち出すのは
怖かったけどさ」
「ありがとう、ペリドット!さすが私の友達!」
「へいへい、僕の部署にはこれ以上の資料は期待できない、詳しく調べるなら魔塔か、それか王宮だろうな」
「それはまた厳しい場所だ」
「私、やるよ!王宮も魔塔も聖女の私なら怪しまれず入れるよ」
「そうかもしれないが危険なことには変わりない」
「任せて、その代わり2人もついてきて!お願い!」
「…うん、もちろん
ここまで来たら最後まで付き合うよホノカ」
「僕は嫌だけどな」
「ペリドット!」
「分かってるって協力してやるから
まぁ、僕も気にならないかって言われたら気になるしな」
「ありがとう、2人とも大好き!」
2人に抱きつくと、温かくて安心した
今まで何人もの攻略対象を抱き締めてきたが
今が一番温かくて心地いい
「まぁ、魔塔と王宮への潜入方法はまた考えようか」
「そうだな、僕ももっと調べてみるよ」
「とりあえず、今は討伐に集中だ
見張りをしてはいるが、2人も気をつけて寝なよ」
「おやすみ、ソラニエ!また明日」
「見張り、気をつけろよ」
ソラニエは私たちに軽く手を振り、持ち場に戻っていった
「遅い」
テントに戻ると、機嫌の悪いゼロンが待っていた
「見張りの時間には間に合いましたよ」
「早く帰って来いって言ったよな?」
男は私の顎をクイッとあげ、顔を近づけキスをする
「お前の身体が辛いかと思って、せっかく先にしてやろうと思ったのによ」
「しなければいいじゃないですか」
「言うようになったな、ソラ」
「ゼロンさんに会ってから何年経ってると思うんですか」
「まだガキのくせに生意気だな」
「そのガキに迫ってるのは誰です?」
「…はぁ、見張りに行く、準備しろ」
「はい」
いそいで防具を身につけ、腰に剣を携えた
「準備できました、ゼロンさん」
「…おい、ソラ」
「なんですか?」
男はまた私に抱きつき、キスを落とす
「見張り終わったら覚悟してろよ
いつもより激しくしてやるから」
「…っ!」
ゼロンは笑いながら先にテントを出ていった
悔しい、私ばかりこんなに心を弄ばれて
頬を強く叩き、私は彼のあとを急いで追いかけた