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悪役のトゥルーエンド  作者: シス
第一章『ヒロインのトゥルーエンド』
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2

「聖女様!なぜ寝ていらっしゃるのですか!」

「ふぇ?」

目を覚ますと、中性的な顔立ちの青年が私を上から見下ろしていた

「騎士団を見学すると言って、どこに行かれたのかと思えばこんなところで昼寝してるなんて!」

「ペリドット、ごめんって怒らないでよ」

私を探し回ったのであろう、少し長めの髪は乱れ、額には汗が浮かんでいる

彼はペリドット、ヒロインの案内役であり、従者である

彼は攻略対象ではないものの、中性的な顔立ちと

ヒロインの絶対的味方ということでかなり人気だったと思う

「早く行きますよ、騎士団長様達がお待ちです」

「はいはい」

ペリドットに案内され、私はこの国の3人の騎士団長に挨拶することになった

まぁ、毎回のことだ、緊張なんてしない

「やっときたね、聖女ちゃん」

部屋に入るとゼロンの明るい声が聞こえた

その隣に私を訝しげに見る男が1人、顔色の悪い男が1人いた

「えっと…遅れてすみません」

「遅れるなんてそれくらいの理由があったのだろう?」

「その、昼寝してました…」

「そうなんだ、聖女様が緊張してるんじゃないかと

心配して早く来てたんだけど必要なかったね」

「うっ…すみません」

話し方がいちいちトゲのあるこの男は

攻略対象の赤騎士団の団長、バルファ

長い髪を緩く束ね、前に垂らすこの色気あるイケメンは性格がとても悪い

いちいち嫌味を言うし、信用ならない

私は苦手だけど、前の世界でもかなり人気があった

「バルファは嫌なやつだよね、聖女ちゃん

ほらお前も挨拶しなよ」

ゼロンは疲れきった顔の男の肩を小突いた

「わ、わかってますよ…初めまして、聖女様

私はニスラと申します、青騎士団を担当しています

よろしくお願いします」

「かったい挨拶だね、ニーちゃん」

「ニスラは真面目だからね」

「からかわないでください」

ニスラは攻略対象最年長の苦労人タイプの穏やかな顔をしたイケメンだ

ニスラは30歳だが、疲れているせいかもっと年上に見える

ゼロンは27歳、バルファは26歳でニスラよりも年下だが、ニスラをまるで年下のように扱う一方で

年上じゃないかとニスラに仕事を押し付けている

まぁ、可哀想な人だと思う

「まぁ自己紹介はこんなもんかな?質問ある?」

「特にないです」

「ならいいね、聖女ちゃんの仕事は回復薬の作成と

騎士団員の治療をお願いするよ」

「はい、わかりました」

「なら今日からお願いするよ、あとはよろしく」

ゼロンはペリドットをチラッと見て、部屋を出ていった

さっきの冷たい姿が幻だったんじゃないかって思うほどゼロンは明るくとても優しい

でもまぁいいか、トゥルーエンドにさえ行ければいいんだし、ゼロンについてそこまで考えなくても大丈夫か

私はペリドットに連れられ、自分の部屋に戻った





回復薬をさっさと作り上げ、今日の仕事を終えた私はペリドットと一緒にソラニエのもとへ向かった

「ソラニエ!仕事、終わった?」

騎士団の執務室を覗くと、黒騎士団員達が

一斉に私の方を向いた

「ホノカ様、もうすぐ終わりますので」

「急がなくていいよ、待ってるから」

ソラニエは私を部屋のソファに座るよう言い

紅茶とお菓子まで出してくれた

ソラニエを待っていると騎士団の男達が私の近くに寄ってきた

「あの、聖女様ですか?」

「はい、そうです」

「すげぇ、めっちゃ可愛いじゃん」

「治療してもらえるんすか?最高じゃん」

ヒロインのせいか寄ってくるモブも多い

でも私はヒロインだから笑顔で応対する

するとある男が小声で私に話しかけてきた

「聖女様、まさかソラニエと仲がいいのですか?」

「仲がいいと言うか…これから知り合いたいというか

そんなかんじです」

「やめておいた方がいいですよ、ソラニエは聖女様に

ふさわしくありませんから」

「えっ…と」

男の言葉に周りの他の男も同意した

ソラニエは酷いやつだ、最低なやつだと

ここまで嫌われているとは何をしたんだソラニエは

「ソラニエに何かされたんですか?」

「だってアイツは男好きらしいし…家も素行が悪くて勘当されたらしいし…」

「それに嫌味なやつなんだよ、ゼロン団長に直接

剣術指導してもらってるしな」

「ちょっと成績がいいからって調子に乗るなよな」

「ゼロン団長も甘いよな、女だからって成績あげてやってんだろ、きっと」

「…えっ、それだけですか?」

「それだけってどういうことです?」

この人達、ほんとにこれだけの理由でソラニエを嫌ってるの?何かされたわけでもなく

ただソラニエに嫉妬してるから嫌いと言っているようにしか聞こえない

私が狼狽えていると、仕事が終わったのかソラニエが私のもとへやって来た

「ホノカ様、お待たせして申し訳ございません」

「全然いいよ、それより早く行こ」

「は、はい」

私はソラニエの腕を引っ張り、急いで執務室を出た





「ソラニエ!なんなの、アイツら!!」

「ど、どうされました…?」

激昂する私に戸惑うソラニエをすぐに私の部屋へ連れていった

「ソラニエのこと大した理由もないくせに悪く言って…ほんと最低!!」

「なるほど、彼らから私のことを聞かれたんですね」

「ソラニエ知ってるの?!なら、言い返しなよ

私の力が羨ましいからって悪口言うなってさ」

「ホノカ様は自分のことのように怒ってくださるんですね」

「だってムカつくじゃん!」

「…ホノカ様の心はほんとうに綺麗ですね

聖女になるのも納得です」

ソラニエはまた穏やかに笑った

いつも無表情であまり表情を変えないせいか

笑うたびになんだか嬉しくなってしまう

「ソラニエもっと笑えばいいのに」

「笑ってますよ?」

「いっつも怒ってるみたいに見てるよ、もっと笑って!」

「努力してみます」

あまりに真剣に答えるものだから、可愛くて笑ってしまう

「ソラニエのそういうとこ好きかも」

「そ、そういうとことは…?」

「そういうとこはそういうとこなの!」

「あ、あの!僕のこと忘れてませんか?!」

「あっ…そういえば」

ペリドットが今にも泣きそうな顔で私たちの方に近づいてきた

そうだそうだ、ペリドットを連れてきてたんだった

「そういえばって…無理やり連れてきたのになんなんですか?!」

「ごめんって、ほらほらペリドットも座って」

私たちは3人で机を囲み、ようやく今日の目的を思い出した

「よし、じゃあ作戦会議を始めよう」

「なんの作戦会議ですか?」

「ソラニエ、説明よろしく!」

「はい、わかりました」

ソラニエがとっても分かりやすく簡潔に何があったかをペリドットに説明してくれた

「い、意味がわかりません!この世界がゲームの世界?繰り返されてる?ソラニエさんが悪役?殺される?」

「理解出来たみたいだね、ペリドット!」

「できてませんよ…その話嘘じゃないんですよね?」

「嘘じゃないよ!ほんとだもん!」

「えぇ…信じられないな」

ペリドットが全然信じてくれない

どうやって信じさせようか…と頭を抱える

「ペリー、ホノカ様の話は本当だよ、嘘じゃない」

「ソラニエがそう言うなら信じてみるよ…」

「えっ、ソラニエの話なら信じるの?!」

「ソラニエさんの言葉は信じられますので…」

「えっ!私の言葉は信用ならないの?それより2人ってもしかして知り合い?」

「はい、ペリーとは幼い頃からの友人です」

「家同士の仲が良かったので定期的に会っていたんですよ」

「知らなかった…ソラニエって敬語じゃなくても喋れるんだ」

「喋れますよ、友人に敬語では喋りません」

私がペリドットにソラニエを紹介するつもりだったのにまさか幼馴染だったなんて

なんだか自分が除け者のように感じられた

それに…

「ソラニエと私は友達じゃないの…?」

「ほ、ホノカ様?」

「ソラニエ私に敬語禁止!」

「いえ…さすがにそれは…」

「ソラニエ歳はいくつ?」

「17です」

「私は16、ソラニエの方が年上!ソラニエが敬語使うなら私もソラニエに敬語使うよ!」

「…し、しかし聖女様ですので」

「…私、寂しいんだ

この世界に友達っていえる人がいなくて…

だから、ソラニエに友達になって欲しいって思ってたんだけど私のこと嫌いだよね?ごめん無理なこと言って」

「うっ…」

あと少しでいけそうだな、私は下を向いて今にも泣きそうな声で言った

「お母さん…お父さん…会いたいよ…」

「わ、わかりました!なりましょう、友達に!」

「やったぁ!ありがとう、ソラニエ!」

「い、いえ…」

「ペリドットもそれでよろしくね」

「えっ?!僕もですか?」

「嫌なの?」

「…分かりました」

こうして私は2人の友人を手に入れたのだった





「よし、そろそろ作戦会議を始めよう!」

「は、…いやうん」

ソラニエがタメ口で話すように頑張ってる様子を尻目に本日の主題に移った

「作戦会議といっても何するんだよ」

簡単にタメ口を使い始めたペリドット、今までペリドットのことは意識して見てこなかったけど彼も思っていた性格とかなり違うのかもしれない

「そりゃあトゥルーエンドには何が必要かってこと」

「トゥルーエンドね…それが何かよく分からない

ハッピーエンドと何が違うんだ?」

「ハッピーエンドはイケメンと結ばれてハッピーって感じで終わるけど、トゥルーエンドはなんだろう…

物語の真実が判明するってかんじ?」

「じゃあそれが必要なんじゃねぇの?真実ってやつ」

「そっかぁ…真実か…なんか思い当たることある?

ソラニエ」

「ん…特に思い当たりませんね」

「タメ口!」

「お、思い当たらないな…」

「ならそれを見つければいいってことか!」

「でも真実って何の真実だよ」

「ホノカ様、ゲームに何かヒントでもありま…

なかった?」

「ホノカでいいよ、ん〜そういえばタイトルの下に

こんなの書いてあったな…たしか

《〜1つの恋が帝国を復活へと導く〜》みたいな」

「「?!?!」」

「どうしたの2人とも?なんか乙女ゲームっぽい

ヒロインとの恋が国を救うみたいな意味だと思ってたんだけど」

「ほ、ホノカさ…それは帝国で本当に合ってる?」

「うん、間違いないよ」

「そういえばタイトルも《帝国創世記》って言ってたよな」

「「……」」

「2人とも黙っちゃってどうしたの?」

「ホノカ、この国が王国であることは知ってる?

レスヘルサ王国であることは」

「うん、知ってるよ!...あれ?帝国じゃないの?」

「あぁ、レスヘルサは王様が国を支配してるからな

帝国じゃないんだ」

「ならなんで帝国なんて名前が…」

「…帝国は1つしかない」

ソラニエは息を吐き、何かを覚悟したようだった

そしてゆっくりとその名を語る

「神に愛された国、ユリサス帝国」

「ユリサス帝国?」

「うん、ユリサス帝国は少し前までこの世界に

君臨する一番大きな国だったんだ」

「少し前まで…?」

「…もうその国は滅ぼされてしまった」

「えっ?!なんで?!」

「……」

ソラニエの顔色が悪い、どうしたんだろう

ソラニエが黙ってしまい、ペリドットが僕が答えると口を開いた

「ユリサス帝国はレスヘルサ王国に滅ぼされんだ」

「レスヘルサ王国って…この国?!」

「あぁ…そして、ソラニエのお母さんは…ユリサス帝国の方だった」

「うそ…」

ゲームには出てこなかったソラニエの過去

まさかお母さんの国が滅ぼされていたなんて

「…ごめん、ソラニエ

嫌なことを思い出させちゃったよね」

「いや…大丈夫

それより作戦会議だ、その話をしよう」

「…うん」

ソラニエはいつもの表情に戻り、話を再開した

「帝国を復活に導くことがそのゲームの到達点ではないだろうか?」

「そういうことなのかも」

「いや帝国復活なんて…できるのか?」

「…そういえば聞いたことがある、この国に

帝国の皇子が逃げ込んでいると」

「皇子?!ならきっとその皇子を見つけて

帝国復活を助ければいいんだよ!」

ペリドットが首を横に振る

「ホノカ、それは簡単なことじゃねぇんだよ」

「えっ、なんで?」

「それはこの国、レスヘルサ王国への反逆だ」

「そうなの…?」

「あぁ、そうしようとしているだけで反逆罪で

捕まるだろうよ」

「ならどうしたら…」

「協力するよ、ホノカ」

「ソラニエ…いいの!」

「おい、ソラニエ!お前は騎士だ、バレたらどうする?」

「ペリー大丈夫だよ、バレなければいいんだ」

「やったぁ、ありがとうソラニエ!

ならまずは皇子を見つけよう!そして、帝国を

取り戻すよう説得する!」

「おい、ホノカ!危ねぇって」

「大丈夫!だってソラニエもペリーも協力してくれるんでしょ?なら余裕だって」

「なんで僕まで…」

「頑張るぞ!えいえいおー!」

「はぁ…嘘だろ」

とりあえず今日はもう遅いからと解散になった

トゥルーエンドまでの道は見えた

私は久しぶりに幸せな気持ちで眠りについたのだった




ホノカとの作戦会議を終え、部屋に戻ると

ベッドに座るゼロンの姿があった

「お帰り、遅かったな」

「…話が長引きまして」

上着を脱ぎ、クローゼットにしまうとそのまま

身体を後ろから強く抱きしめられる

「で、何話してたんだ、あの女と」

「…ただの世間話ですよ」

「あのガキも一緒にか?」

「ペリーも友人ですから」

首元に熱い何かが触れる、ピリッと痛むが

逃げれるわけもなく、私の首元に男の舌が這う

熱い…身体が…心が一気に熱くなる

そのまま身体を引き寄せられ、ベッドに押し倒される

唇を合わせ、男の首元に腕をまわす

「ソラ、聖女に近づくな」

「…それはなぜですか?」

心がチリリと痛む、こんなこと思っちゃいけないのに

私の心は分かってくれない

「さぁ、なんでだろうな」

「隠し事ばかりですね」

「互いにな」

あぁ、ほんとうに…

私はいったい何をしているんだろうか

私の夜は今日もこうして更けていった


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