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悪役のトゥルーエンド  作者: シス
第一章『ヒロインのトゥルーエンド』
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「ねぇ、もうあなたしかいないのよ!」

「……何事ですか?ホノカ様」

私よりも随分小さい少女が私の腕を強く握りしめた。

その顔は疲れているようで顔色が悪い

「教えてよ、トゥルーエンドを」

「……トゥルーエンド?なんの話ですか?」

「何度も何度も何度も……繰り返してきたの。もう限界よ」

「ホノカ様、一度落ち着いて……」

「お願い、トゥルーエンドに行かせて」

「だから何のことだか……?」

私は彼女を落ち着かせようと、背中を撫でようとした

しかしその前に少女は私の目を見て、はっきりと告げた

「この世界はゲームの世界なの!」

「……はい??」

「この世界はゲームの世界で私はヒロインであなたは悪役なの!」

ホノカがそう言った途端に私の頭に激痛が走った

耐えられず頭を抱え、膝をついた

「ぐっ……」

突然苦しみだした私にホノカは驚き、慌てだす

頭が痛い……頭の中に……変な記憶が

たくさん流れ込んでくる

「痛い……痛い痛い痛い……」

「ソラニエ?!大丈夫?!」

ホノカが心配そうに駆け寄ってくるが

そんなことを気にしている余裕などなかった

同じような光景が頭に数多く流れ込む

「……何が……どうなって……!!」

あまりの情報量に混乱していると

私とホノカの頭に誰かの声が響いた

単調で感情が全く感じられない誰かの声が

『トゥルーエンドへのルートが解放されました』

これが全ての始まりだった






私ことホノカは普通の女子高生だった

学校に行って、友達と遊んで、ちょっと勉強して…

なんでもない平凡な日々を送っていた

そんな私の趣味は乙女ゲームだった

数多くのゲームをプレイしてきたが

その中でもお気に入りだったのが

《帝国創世記》というゲームだった

全く乙女ゲームらしくないタイトルからは想像もつかないほど、ストーリーはとてもロマンチックで面白かった

聖女として召喚されたヒロインが、王子様や騎士、魔法使いと出会い、ハッピーエンドを迎える

というものだった

召喚されてすぐに、どこで働きたいかを選択する

城、魔法塔、騎士団の3つの選択肢があり

選んだ場所で好きな人と恋をする

もちろん全員攻略したが、私は騎士団編を選び何度も

プレイしていた

最推しキャラは黒騎士団の団長、ゼロン様だった

整った男らしい顔立ちと優しい笑顔

女遊びが激しいという設定だったが、ヒロインと出会ってからは彼女だけを想い続けた

他のキャラよりも比較的簡単に攻略でき、地雷の選択肢さえ選ばなければハッピーエンドに到達できた

ファンの間では「チュートリアルのゼロン様」なんて

呼ばれていた

攻略は簡単だが、ストーリーは甘々で何度画面の前で死にそうになったか分からない

そしてこのゲームには悪役が3人いる

城に1人、魔法塔に1人、騎士団に1人

騎士団の悪役はソラニエという少女だった

銀の長い髪を1つにまとめ、白いシャツにコルセットとスボンを身につけた騎士団員の1人だ

スラッとした美しい少女であり、初めて彼女のイラストを見た時、あまりの美しさに見惚れてしまった

しかし彼女は悪役なわけで、何度も恋路を邪魔された

「ホノカ様、騎士団は愛を育む場所ではありません」

「仕事の邪魔です、部屋にお戻りください」

「その男はオススメできません、恋愛はここ以外でされてはいかがですか?」

会う度に嫌味を言われ、攻略対象と喋っていると

絶対に邪魔をしてきた

恋愛をするなと言うくせに、ソラニエは男好きらしく

騎士団に入ったのも家から勘当され、男好きのあまり

男ばかりの騎士団に入団したのだとネットの誰かが言ってたのような気がする

ソラニエはどのルートでも最後、絶対に死ぬ

ヒロインを殺そうとして処刑されたり追放されたり、暗殺者に殺されたり、事故にあったり……

たとえバットエンドでもソラニエは絶対に死んだ

いくら嫌いでもさすがに可哀想な気がしたが

それが《帝国創世記》のストーリーだった





その日は突然訪れた

スマホで《帝国創世記》について調べていたとき

とんでもない情報を知った

「《帝国創世記》にはトゥルーエンドが存在する」と

そんな馬鹿な、トゥルーエンドがあるなんて……

《帝国創世記》にはハッピーエンドとバットエンド

ノーマルエンドしかなかったはずだ

私は家に帰って、急いでゲームを開いた

トゥルーエンドに行く条件は騎士団編を選び

ソラニエに初めて会った瞬間、彼女をクリックしたら

いいらしい

半信半疑で言われた通りにやってみると

画面が一気に変わり、こう表示された

『トゥルーエンドに挑戦しますか?YES/NO』

「ほんとにあったんだ!知らなかった…」

私は迷うことなく、YESを押した

『了承しました、貴方の役目を果たしてください』

「役目…?」

何のことだろうと思った瞬間、視界は暗転した

こうして私はこの日、元の世界に別れを告げることになったのだった







「なるほど…それがホノカ様の召喚される前の記憶ですね」

「うん、いきなり家族とも友達ともお別れになっちゃって…この世界に来れて嬉しかったけど寂しかった」

「…そうでしょうね」

ソラニエが頭痛で苦しんでいたので、私はあのあと

彼女を医務室へ連れていった

しばらく様子を見守っていると

ようやく頭痛が治まったのか、ベッドから起き上がり

ソラニエは私に恐る恐る話しかけてきた

「ホノカ様…私の中にこの世界での数多くの記憶が蘇ってきたのですが…これがホノカ様のおっしゃっていた繰り返された世界の記憶ですか?」

「思い出したの?!ソラニエ」

「はい、ホノカ様がこの世界にいらっしゃってからの

いくつもの記憶が今、私の頭の中にあるのです」

「思い出したんだ…そうでしょ?ほんとにおかしいでしょ!嬉しいな、今まで私しか覚えてなかったから

ずっと一人ぼっちだったんだ」

私がソラニエの手を握ると、ソラニエは身体を固めていた、なんというか驚いたような反応だった

それからソラニエの記憶が私と同じか確認し、私の前の世界でのことについて話した、特に《帝国創世記》について

ソラニエは私の話をゆっくりと聞いてくれた

信じてくれるかな、なんて心配してたけど

ソラニエは私の言葉を全て信じてくれているようだった、そしてようやく話し終えたのである

「世界を繰り返す前はさ、ゲームを楽しんでたんだよ

まずはゼロン様を攻略したな〜ほんとにかっこよすぎてびっくりしちゃった!それで簡単に攻略できたんだけど、ゲームのストーリーのラストまで終わると

一気に世界が暗転して、召喚されたところまで戻ったんだよね」

「ゼロンさんをよく攻略できましたね」

「めっちゃ簡単だよ!言われたことに頷いておけば

勝手に好感度あがるし!」

「ホノカ様限定でしょうね」

ソラニエは口元に軽く手を添え、笑った

やっぱりソラニエはとっても綺麗だ

今の彼女を見ていると過去に私を虐めてたなんてどうしても信じられなかった

「そういえばソラニエ、思い出したんでしょ?

ソラニエが私のこと虐めてたの!」

「虐めた記憶はないのですが…」

彼女は不思議そうに首を傾げた

「嘘でしょ?!ソラニエには散々キツいこと言われたし、殺されかけもしたんだから!」

「たしかにキツいことは言ったかもしれませんが、それは…いえ、それより殺そうとなんてしていませんよ」

「えぇ?!何度もされたって!」

「そんな記憶は…私がホノカ様を殺そうとするはずがありません」

とぼけているのかと思ったが、彼女はほんとうに

心当たりがないようで困っているようだ

「…でもほんとに殺そうとしたんだよ、私のこと」

「しませんよ、絶対」

私たちの間に沈黙が続く

ソラニエはもしかしたら全部の記憶を思い出してはいないのかもしれない

記憶のない彼女を責めても全く意味は無い

「…わかったけど、今回は殺そうとしないでよね」

「しません」

ソラニエが強く断言する

まぁ、殺されかけたとしても実際に殺されはしなかったんだし、その件は気にしないことにした

「とりあえず情報は整理できたわけだし、ソラニエも

力を貸してよ!この繰り返しから抜け出す方法を」

「それはかまいませんが、私が力になれるかは分かりませんよ」

「でもソラニエのおかげでトゥルーエンドのルートが解放されたらしいし、ソラニエが鍵なんじゃないかと思ってさ〜作戦会議を…」

コンコンコン

これからというときにノック音が聞こえた

「どうぞ」

ソラニエが扉に向かって言うと、ゼロンが現れた

最推しキャラの登場に私の心臓はバクバクと音をたてる、そういえば今回はまだ召喚されたばかりだから

誰にも会ってなかったな、挨拶しないと

話しかけようと思ったが、ゼロンの顔を見た瞬間

私の身体は固まってしまった

ゼロンの表情は氷のように冷たく、笑顔が魅力的だったゼロンの姿はどこにもない

無表情の男は私には目もくれず、ソラニエの方へ

歩いていった

「ゼロンさん、どうしてここへ?」

ソラニエは怖くないのか、普通にゼロンに話しかけた

「お前が医務室に行ったって聞いたから来てやったんだよ」

声色も私が知っているものとは違い、声は低く

冷たく甘さなど何も含んでいない

私は思い知った、今まで会ってきたゼロンの

裏の顔はここまで冷たかったのだと

しかし、ソラニエはそんな怖い雰囲気のゼロンと

怯えることなく話している、私は心の中でソラニエを尊敬した

「ありがとうございます、もう治りましたので

すぐに仕事に戻ります」

「…治ったなら早く戻れ、その女と話している暇があるようだしな」

チラッとゼロンは私を見た

その瞳は明けることのない夜を思わせるような

真っ黒な色だった

でもいきなり女なんて呼ばれたのは腹が立った

私は抗議しようとゼロンに向き合った

「お、女なんて…私はホノカです!聖女のホノカ!」

「…あぁ、今日から来るっていう聖女ちゃんか」

自己紹介をするとさっきまでの冷たさが嘘のように

瞳は温かく、声は優しくなった

いったいなんなんだ、この人は

あまりの二面性に私はたじろいだ

「よろしくね、聖女ちゃん

僕はゼロン、黒騎士団の団長だよ」

「よ、よろしくお願いします…」

手を差し出されたので仕方なく握手をすると

ゲームのゼロンのように甘く私の耳元で囁いた

「何かあったら僕のところへ来な

可愛い聖女ちゃんのために何でもやってあげるよ」

いつもならキュンキュンしているところだが

さっきの姿を見てしまった私には恐怖しか湧かなかった

「僕達は仕事があるから行くね、またね聖女ちゃん」

「では、ホノカ様

私は仕事に戻りますので、話は夜にいたしましょう」

「う、うん…」

そう言ってゼロンとソラニエは医務室から出ていった

1人になってもまださっきの恐怖は消えなかった

でも今回は違うストーリーが進みそう

その予感があたることを信じて、私は医務室のベッドで昼寝を始めたのだった







「で、何話してたんだ」

「…ホノカ様が騎士団での生活が不安なようで

相談にのっていました」

「言わないつもりか」

長い廊下に2人の靴音が響く

やはりこの言い訳では納得してもらえないか

私の前を歩く男の表情は見えないが

笑顔でないことはたしかだ

「…それより、ホノカ様には優しくしてくださいね

怯えていましたよ、ゼロンさんの変わり身の速さに」

「大丈夫だよ、どうせ僕のことは好きになるさ」

「どうでしょうか」

すると男は振り向き、私の腕を掴み

私の身体を壁へと追い込んだ

男の身体と壁に挟まれる

男は私の腰を抱き、もう片方の手で頬に触れる

互いの息遣いが分かるほど、男との距離は近くなる

「いいの?僕が聖女ちゃんと仲良くなって」

「…仲良くなるべきですよ」

「可愛くねぇな、お前はほんと」

男は私の唇にキスを落とした

いったい何度この男とキスを交わしてきたのか分からない、口を少しあけると男の舌が入り込んできた

誰もいない廊下で私たちはまるで恋人のようにキスをする、でもこれはそんな甘いものじゃない

分かっているのに私の身体も心もどんどん熱を帯びていった

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