真実の愛の果て
「ソフィー、好きだ。結婚をしてくれ」
「殿下、申訳ありませんが、私はメイドでございます」
俺は、エスターライヒ王国の王太子、ゲルハルト、20歳、王宮は俺の婚約者を決めようと動いている。
釣書を山のように持ってくるが断っている。
王宮メイドのソフィー16歳に・・・
認めよう。恋をしている。
血が求めるのだ。
「好きだ!」
ソフィーは顔を赤らめるが、どう思っているのだろう。
「・・・私もお慕い申し上げておりますが、こればかりは無理でございます」
狭い王宮だ。この噂が広まり。ソフィーは解雇になりそうになった。
なら。
「俺も出て行くぜ!」
と言ったら、超渋々結婚を認めてくれた。
結婚式には王族の出席は無し。ソフィー側は、親の男爵と、使用人仲間が出席した。
俺側は騎士団長だ。
結婚の条件は。
公式行事にソフィー同伴は出来ない。
など様々な制限を設けられた。
ソフィーは離宮に住まわされた。
いや、ソフィー、社交界に出てはいけないのならそれは良いのでは?
「王太子殿下、おめでとうございます」
「ゾルゲ騎士団長ありがとう」
軍部が出席してくれた理由は二ある。
一つ、軍部は例え平民出身でも理論上、騎士団長にまでなれるのだ。身分差は他の組織に比べたらない。だからソフィーに抵抗は少ない。
二つ、俺は勇者のスキルを持っている希有な王族だ。
元々は勇者が魔王討伐の褒美として領地を封じられたのがこの国の初まりだ。
初代国王、リヒト勇者は平民だぜ。親は小作人だったと聞く。
寂しい結婚式だったが、ソフィーを幸せにするぜ。
「一生大事にするぜ」
「はい、私の旦那様」
・・・・・・・・・・・・・
ソフィーは離宮住まいだ。俺も住むが公務があるから毎日は帰れない。
信用できる使用人たちで離宮を固めた。
外出は俺と一緒だ。さすがに俺がいたら罵詈雑言を浴びせる者はいないだろう。
しかし、王宮では面と向かって俺に苦情を言う者がいる。
「イザベラ様がお可哀想ですわ!」
お前は誰だよ?イザベラとは公爵令嬢の従姉妹だ。既に結婚しているのでは?
伯爵家の子息と結婚した。嫁入りだ。田園風景が綺麗な領地だ。
姉弟のように仲が良かったが恋愛とは別だ。
それに、イザベラは王都、王室から逃げたがった。
何故なら・・・
あ、父上と母上だ。
「ゲルハルト、子供は作っても良いが、王位継承権は無しだ」
「ええ、ゲルハルト、後継は他の王族から養子を迎えますわ」
「分かっていますよ!何回も言って・・」
・・・血が濃いな。父上と母上の顔はそっくりだ。
実は俺以外の王子王女は幼い時になくなった。病気だ。
俺は、もしかして、父上の子ではないのかもしれないぐらい健康だ。そう言えば、俺が生まれた後、護衛騎士が謎の死を賜ったのだっけ?まあ、どうでも良い。
そろそろ出るころだ。遠方のペンサード王国は近親婚が続いた。顎が出てかみ合わせがうまく出来ない疾患が代々出るようになった。ペンサードの顎と揶揄されたな。
それでも近親婚を止めなかった。最後の王は自力で性行為を出来なかったと聞く。
子供が生まれず王統は途絶えて、各国が継承戦争を起したのだっけ。
父上は従姉妹の母上と結婚をされた。その前も一代限りの大公家から王妃を迎えた。
☆☆☆
国際会議に出席をした。
皆、俺の貴賤結婚に反感か?と思ったがそうではなかった。
「何故愛妾にしなかったのさ?」
ああ、ルーシー王国か。そういうお国柄だ。
「フウ、私の伯父上も貴賤結婚をしたよ。王位を辞退した後、各国をまわって、敵対国に歓迎されたりしているね。真実の愛のお相手は買い物ばかりしているよ」
イース連合王国も度々あるらしい。
何故か、一番ロマンティックなことを言ったのは、武断の国、ザルツ帝国だ。
兄弟国ではあるが、我国の三倍差ぐらいの国力がある。
「ゲルハルトは勇者だ。本来なら皆に傅かれる立場だよ。我国でも前もあったよ。勇者殿と皇女を結婚させようとしたが、勇者は嫌がって他国に逃げて、幼なじみのお針子と結婚をした。
その子供は勇者のジョブを受け継いだよ。スキル持ちは血で惹かれ会う。だから、それ以来、ジョブ持ちは基本自由恋愛だよ」
「へえ、興味深いですね」
「どうしても耐えられなかったら、我国に亡命をしてくれ」
「カール、有難う」
・・・・・・・
国際会議が終わり。離宮に帰ったら群衆に囲まれていた。
「妖女、ソフィー!平民のくせに王太子をたぶらかせて!」
「ミデリア様がお可哀想ですわ!」
「落ちぶれろ!」
ミデリア様って誰だよ?もしかして、俺が婚約破棄をしてフった令嬢の設定か?劇の登場人物か?
今、変な演劇や吟遊詩が出回っている。
ソフィーには不敬罪が適用されないから日頃の不満をぶつけていやがるのだな。
【おい、何をやっているのだ。ファイヤーボールぶちかますぞ!】
蜘蛛の子を散らすように逃げやがった。
離宮とはいえ。罵詈雑言はソフィーに聞こえるはずだ。
「ソフィー!すまない!」
「フフフフ、私への罵詈雑言などどうでも良い事ですわ」
どうでも良くない。ソフィーは前から自分を犠牲にして他者を思いやる。
だから、好きになったのだ。
「もう少し我慢をしてくれ」
「フフフフフ、私は平気ですわ」
「ソフィー、勇者の妻というだけでチヤホヤしてくれそうな国がある」
俺は軍部に話し、離宮に一個中隊ほどの兵を警備につけた。
「群衆が何かしたら、公務執行妨害で即斬殺!俺の離宮を壊そうとした。平穏を乱そうとした罪だ。罪は後から何でもつける」
「御意、しかしながら、殺したらソフィー様は喜ぶでしょうか?」
ああ、そうか、なら。
吟遊詩人ギルドに金を握らせ。ソフィーは陛下と和解して王宮に住んでいると噂を流させた。
和解なんてしていないが、事実を探ろうとする群衆は稀だ。
何故、和解をしたのか?と王宮に群衆が集まった。元々は王家に不満がたまっていったのだ。
父上と母上は極端な血統主義で民衆を押さえつけていたからな。この王国では生まれでほぼ全てが決まる。例え、剣聖や聖女のジョブ持ちが平民に生まれても、平民の剣聖、平民の聖女になる。決して貴族になることはない。多少、お金を渡して用を言いつけるぐらいだ。平民のジョブ持ちは冒険者になるのだっけ?
この国で出世をするには、
騎士団に入るしかない。しかし、その軍部も上は貴族だ。ロクな軍事教育を受けていない貴公子だらけだ。
そして、公務は軍部最優先にして、魔物狩りの前線に出た。
やはり、大型魔獣は俺の雷魔法でなければ難しい。
「兵の無駄遣いだ。下がらせろ。あのキメラは俺が倒す!」
「御意!」
国内のネームドの魔物は全て倒した。しばらくは騎士団でも対応可能だ。
「ゾルゲ、俺はザルツ帝国に行くよ。対応出来ない魔物が出たら教えてくれ。吹っ飛んでくるよ」
「薄々感じておりました。当方も、殿下が国を出たら、大々的な武芸大会を催す予定です。イザベラ様を主催者として招き。王宮の貴公子軍務卿と側近たちにも出場して頂きます」
これは、クーデターか?
「イザベラも承知なのか?」
「はい、イザベラ様こそ市井の演劇の悪役令嬢でございましょう」
「ほお、俺は馬鹿王子かな?」
「演劇に譬えたら、この場合、馬鹿王子はいません。変人公爵ものでしょう」
「変人公爵とは?」
「・・・ここまで話したら譬え話は無しです。国王陛下からイザベラ様の結婚相手を指名されたデルタ大公でございましょう。イザベラ様に執着しています」
「うわ、イザベラから見たら叔父じゃないか?奥様は逃げ出したのだっけ?」
そう言えば、父上と母上は血統書といつもにらめっこをしていた。
そんな話もあったが、さすがにそれはないと思っていたが・・・
「デルタ大公殿下は癇癪持ちです。使用人たちをいつも殴りつけています」
ああ、だから情報がもれたのか。
俺はソフィーと国を出た。ザルツ帝国の言語は同じ。方言程度の違いだ。
☆☆☆ザルツ帝国
「ソフィー様、なれそめを教えて下さいませ」
「皇女殿下、恥ずかしいですわ」
今、俺たちはザルツ帝国の皇宮に招かれている。皇女殿下はソフィーを姉と慕っている。
「ソフィー殿、妹がすまない。これ、不躾だよ」
「だってぇ」
「カール様宜しいのですよ」
これで良いのかもしれない。
あの後、国は分裂をした。父上と母上、その他王族たちは身分を失い。辛うじて王都近辺を領地として、公国となって保っている。あの劇を真に受けた王都市民が国民になっている。
王宮も維持できなくなり。俺たちが住んでいた離宮が王宮だ。
民の罵詈雑言が聞こえてくる狭い離宮だと不満をもらしているそうだ。
「ところでカール、イザベラ女王より書簡が来た。俺たちを招きたいと言っている」
「ええ、帰国して役職につくのか?」
「そうはならんだろう。王国の太陽は二ついらない。しかし、手に負えなくなった魔物が出たら、助ける約束をしている。ソフィー、どうだろうか?」
「ウウッ」
「どうした。ソフィー!」
口を手で押さえている。これは・・・
「・・・実は月の物がございませんの」
「やったー!ソフィー、寝てくれ。いや、まずは王宮医師だ!」
「おめでとう。ソフィー殿!」
「ソフィー様、おめでとうございますわ」
まあ、当分、故郷に帰るのは先になったと、イザベラに手紙を書こう。
王位よりも愛を優先したっていいじゃないか。子供達には自由にさせようと思っている。
最後までお読み頂き有難うございました。