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第76話 石と石

紅い残光の中、セレーネの金の瞳がこちらを向いた。


「……確かに、これが神の碑石って言われると納得いくわね。

 触れただけで力が溢れ出すほどに高まっていた……」


そのやり取りを聞いたイーディスが、真剣な表情をして口を開いた。


「……神の碑石……」


一度そこで口を噤み、だが思い切ったように一歩踏み出す。


「神の碑石……ってなんなの?」


その場にずっこけそうになった俺だったが、冷静に考えれば当たり前だった。

この名を知っているのは――俺とセレーネの二人だけ。


俺はイーディスとアドホク、そしてドワーフの里長に向けて口を開いた。

知っていることなど、ほんの僅かだ。

黒外套の男が探していたこと。

その際、エルフを拷問して「神の碑石」という名を吐かせていたこと。

つまり――エルフの村か、それに縁ある場所にも存在するということ。

俺の知識は、それだけに過ぎない。


それを聞いたイーディスは「ふーん……」と小さく相槌を打ち、じっと自分の掌を見つめた。

まるで自分の中に取り込まれた力の余韻を確かめるように。


一方で、アドホクと里長の顔色は複雑だった。


「……つまり、あれを狙って里を……」


重苦しい沈黙のあと、里長は白髭を撫で、小さく息をついた。


「……だが、もう石は無い。狙われる心配は薄くなった。それだけでも、救いかもしれん」


その言葉に、アドホクもようやく肩の力を抜き、安堵の色を浮かべて言った


「さて、じゃあ素材選び再開しようぜ」


イーディスは素材の山に目を向けつつも、どこか迷いを滲ませていた。


「……でも、私だけ……もう十分すぎるくらい貰った気がして……」


遠慮するイーディスを見たセレーネがふっと笑みを浮かべて口を開いた。


「……ねぇ、里長。あなた、私に“気に入ったものがあればやる”と言ったわよね?」


「う、うむ……確かに、そう言ったが……」


「じゃあ、あの碑石は――“私が”受け取ったことにしてもらえる?」


「なるほど……」


一瞬の沈黙ののち、里長は大きく息を吐き、白髭を撫でて頷いた。


「……ふむ、そういう理屈か。確かに筋は通る。それで気兼ねが無くなるならばそれでよかろう」


イーディスは驚きに目を瞬かせ、やがて少し潤んだような紅の瞳でセレーネを見上げた。


「セレーネさん……ありがとうございます……」


セレーネは軽く片眉を上げただけで背を向ける。


「礼なんていらないわ。――さぁ、遠慮なんかしてないで選びなさい」


「……はい!」


照れくさそうに、それでも力強くイーディスの声が響いた。


その後、洞窟の中はしばし静寂に包まれた。

イーディスは真剣な眼差しで素材の山を一つ一つ吟味し、手に取っては戻し、眺めては考え込む。

俺もセレーネも、そして里長やアドホクも、口を挟まずにただその姿を見守っていた。


――どれほどの時が経っただろうか。


やがて、イーディスはふっと息を吐き、小さく頷いた。


「……決めた」


その紅の瞳は揺るぎなく、選んだ素材をしっかりと抱きしめていた。


彼女の腕に抱かれていたのは――薄い水色の、透き通った美しい鉱石だった。

淡く光を返すその輝きは、洞窟の空気すら澄み渡らせるように感じられる。


「……これにします」


その言葉にアドホクが近づき、鉱石を覗き込むと目を見開いた。


「おお……そりゃ、アンヴィタイト鉱石だな。

魔力を込めるほどに硬さを増す、特殊な代物だ。扱いは難しいが……いい素材を選んだな」


誇らしげに腕を組むアドホクに、イーディスは少し照れたように「はい」と返した。


こうして俺とイーディス、それぞれの素材選びは終わった。

セレーネも「早く帰りたい」と言わんばかりに背を向けている。


洞窟を出ると、俺たちは里長に深く礼を言った。

白髭を撫でながら里長は「こちらこそ」と頷き、静かな笑みを浮かべる。


――そして、俺たちは再び空き家へと戻った。


歩きながら、アドホクがぽつりと呟く。


「……よし、加工は俺らに任せろ。完成までは……五日ってところだな」


「五日……」


俺は思わず繰り返し、その響きを胸に刻んだ。

俺とイーディスの新たな剣が生まれるまでの時間。

短いようで長い、待ち遠しい五日間になりそうだ。


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