第6話 成長、そして出会い
鍛錬と勉強の日々、五年の時が過ぎた。
「じゃあ父さん、母さん、ファーレスさん!日が落ちる前には帰ってきますね。行ってきます!」
「怪我するなよ〜」
「行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃいませ〜」
木剣を背に携え、軽食を持ちながら家族に見送られ門扉を開き駆け出す。
最近は八歳になったことにより一人での外出も認められるようになった。
ここ、スミカ村はいい所だ。
自然豊かで、人も優しい。
しかし欠点がある。それはあまりに単純な事だ、友達が…同年代の子供がいないのだ。
それでも、やはり外は楽しい。
五年前から体も魔術も格段と成長した。
しかし中級魔術や上級魔術は範囲や威力が広く強い為、家屋の周辺では発動できないのだ。
それでも外の開けている土地では問題なく発動できる。
「さて、今日は水と風の複合魔術で氷の魔術をやってみるか…」
手に魔力を集約させ、氷塊のイメージを固める。
するとサッカーボール台の丸い氷塊が生まれる。
そこからさらに魔力を注ぎ込み形状を変化させていく。今回は槍型に変化させ目の前の岩に狙いを定め、射出する。
(アイシクル・ランス!)
ガシャンと音を立て氷の槍が砕け散る。
岩には目立った傷は無い。
岩が傷ついていないことを確認するともう一度魔術を構成する。
さっきより魔力を注ぎ込み、回転を加え、硬く、貫通力を高めた改良型の魔術。
もう一度岩に狙いを定め、氷の槍を射出する。
ドガアァァァァアンと派手な音と土煙を舞いあげ、岩は見事に砕け散っていた。
(攻撃魔術としてはなかなかいいかもな。かっこいいし……)
砕け散った岩のあった所に土魔術で同じサイズ程の岩を作って元のように戻す。
次はなんの魔術を試そうか。そんなことを考えていると……
「うわあ、すっごい音したけど、何してたの?」
明るい声が突然、背後から飛んできた。
「……うわっ!」
驚いて振り返ると、色素の薄いブロンドの髪に、紅の瞳を持つ少女が立っていた。年の頃は俺と同じか、少し上だろうか。
「ねえねえ、何してたの? 岩が割れてたけど、誰か戦ってた?」
「……えっと、ちょっと試してたことがあって……」
まさか初対面で「魔術の実験をしてた」なんて言えるわけがない。俺はごまかすように言葉を濁した。
「へえ〜、面白そう! あ、私イーディスって言うの!」
少女は目を輝かせて身を乗り出してきた。まったく警戒心というものがない。
「……僕は、ラインハルト……ラインハルト・ファーレンガルト」
「ラインハルト君か〜! よろしくねっ!」
彼女はにっこり笑って、当然のように手を差し出してくる。その勢いに押されて、俺も思わず握り返した。
「君付けは要らないよ。ラインハルトか、省略してハルトって呼んでくれよ。」
俺はほほえみながら言う。
「わかった!ところで、ラインハルトってこの村の子? もしかして騎士さんの家の……?」
「……うん。父さんが騎士をやってる」
「あ〜やっぱり! 名前、なんか聞いたことあると思ったんだよね〜!」
イーディスは楽しそうに笑いながら、近くの石にちょこんと腰を下ろした。
「それにしても、こんな所でひとりで遊んでるなんて変わってるね。……ねえ、よかったら友達にならない?」
その言葉は、まるで「今日はいい天気だね」と言うくらい自然で、まっすぐだった。
「……え?」
「ダメ?」
「……いや、ううん。……なろう、友達!」
俺もつられて笑っていた。
この世界で、初めてできた──友達。
ちょっと変わった子だけど、すごく、眩しかった。