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第61話 今日から夏休み!

アドホクを実家に預けてから一ヶ月が過ぎ、夏休み前の最後のホームルームを迎える。


「学術院の夏休みは、生徒の皆さんが剣術に魔術、学問だけでなく、“人として”も豊かであってほしいという考えのもと、二ヶ月間のお休みが与えられます。この間、旅行に行くもよし、研究に打ち込むもよし、働いてお金を貯めるのもいいでしょう。


皆さんが人間的に成長できる休みになることを祈ってます。


あ、あと──くれぐれもトラブルを起こしたり、できれば巻き込まれたりしないように。……私の休みが短くなってしまいますので。それでは、皆さん、よい休暇を!」


特待生クラスの担任、シェルメラがゆるい雰囲気とともにそそくさと教室を後にする。


その直後、教室はたちまち賑やかな空気に包まれた。夏休みの予定──どこへ行くか、何をするか──そんな話題で盛り上がり始める。


エルトリオは剣術修行に励むそうで、


アメルノアとルシルゼーレは、行き先は未定ながらも二人で旅行に出かけるとのこと。


一方、イヴは予定をがっちり組んでいて、まずは同大陸の聖王国を観光、その後、北東のシェベル大陸に渡り、アルセーヌ帝国を回って帰ってくるらしい。聞くだけで疲れそうなハードスケジュールだ。


その話にイーディスが興味津々で食いつく。


「聖王国に行くってことは、魄霊剣が見られるってことだよね! あそこ、まだ観光できてないんだ。機会があれば行きたいな〜」


イーディスは目を輝かせながら、イヴと話し込んでいる。


(魄霊剣……か。たしかドワーフが造った名剣とか言ってたよな。どんな剣なんだろう)


ふと気になってイーディスに聞こうとするが、彼女はイヴとの会話に夢中でこちらに気づかない。


代わりに、近くに座っていたルシルゼーレに声をかける。


「なあ、ルシルゼーレ」


「ん? どうしたんだい?」


「魄霊剣って剣、知ってるか?」


その名前を口にした瞬間──ルシルゼーレの雰囲気が一変した。


いつもは柔らかな笑みを浮かべている彼の表情から、笑みが消え、周囲に緊張が走る。


「──ゼーレ、ルシルゼーレ!」


俺が何度か名前を呼ぶと、彼はハッとしたように顔を上げ、いつもの微笑みを浮かべた……が、どこかぎこちなく、作り物のように見えた。


「……えっと。魄霊剣を知ってるか、だっけ?」


俺がうなずくと、ルシルゼーレは静かに口を開いた。


「魄霊剣はね、穢れのない“純白”で、強い魂の持ち主が使わないと真価を発揮しない神器なんだ」


「……なんか、悪いな」


「いや、大丈夫。でも──なんで急にそんなこと聞いてきたのか、理由だけ教えてもらってもいい?」


ドワーフの件は話せない。


「前にイーディスが魄霊剣のことを話してて、さっきもまた話題にしてたから気になってな。つまりは──たまたまだ」


「……そっか、“たまたま”、か」


「──それにしても、魄霊剣……ね」


その最後の呟きとともに、ルシルゼーレの瞳に再び影が差す。それに気づいたのは、アメルノアだけだった。


──そして、別れの時間が来る。


「じゃあ、また二ヶ月後に──!」


エルトリオの言葉をきっかけに、みんなはそれぞれの休暇へと散っていった。


俺とイーディスも教室を出て、帰路につく。


「じゃあ、準備ができたら中央広場で」


「うん、わかった!」


そして、俺は寮の自室へ、イーディスは実家へと足を向けた。




──二刻後。


シャワーを浴び、タオルや下着、服を三着ずつカバンに詰める。古代龍族のローブ、魔導杖、片手剣……気づけば、けっこうな量の荷物になってしまった。


中央広場に行くと、ちょうど通りから歩いてくるイーディスの姿が見える。


「よっ、待った?」


「ううん、私も今来たところ」


──前世ではアニメとかでよく見たやりとり。それを今、自分がしていることに少し笑いそうになる。


イーディスはいつもと違う、旅仕様の軽やかな服装。


セーラー風の半袖トップスに、膝上丈のハーフパンツ。そして絶対領域を展開させるニーハイブーツ。二の腕まですっぽり覆うアームカバーは日焼け対策だろうか。


(か、かわいすぎる……)


精神年齢が三十前後の俺は、この世界の圧倒的美少女たちに囲まれても、基本的に恋愛感情を抱いたことはなかった。


──だが、目の前にいる“絶対的美少女”には、思わず胸がときめいてしまった。


その衝動を振り払うように、ぶんぶんと首を振る。雑念を振り切って、いつもの調子を取り戻す。


その様子を見ていたイーディスが、クスクスと笑いながら言う。


「どうかした?」


「いや、その服、すごく似合ってる。かわいい」


自然と出たその言葉に、イーディスは頬を赤らめて照れ笑いを浮かべた。


「お世辞言っちゃって、ふふ。でも、ありがと」


(お世辞じゃないんだけどなぁ……)


「じゃあ、行こうか。手、出して」


俺は転移結晶を右手に、左手でイーディスの手を取る。


「忘れ物とか、大丈夫だよな? 準備はいい?」


「うん、大丈夫!」


返事を聞いたところで、転移結晶に魔力を込め、声を上げる。


「──転移!」


その瞬間、俺たちの身体は光に包まれ、中央広場から姿を消した。

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