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閑話 小人と修行

昼下がりのスミカ村。広場に差し込む陽光のもと、アドホクは木陰に腰を下ろしていた。口に咥えた干し肉をゆっくり噛み締めながら、視線だけは前方を注視している。


広場の中央には、あの“龍族”が立っていた。


セレーネ。ラインハルトの師匠であり、龍族でもトップクラスの力の持ち主。その佇まいだけで空気がぴんと張り詰める。アドホクは無意識に背筋を正した。


(うっかり話しかけたら殺されるんじゃねぇか……?)


そのセレーネの前に立つのは、ラインハルトの妹──メレノア。


小さな体で、まっすぐ師を見据えている。ぱっと見はどこにでもいる幼く愛らしい子供。だが、片手を上げて魔力を集中させた瞬間、その空気は一変した。


「魔力の流れは悪くないわ。じゃあ、始めましょうか」


セレーネが手を軽く振った。


空気が渦巻き、瞬く間に氷の矢が五本、鋭く形成され、メレノアめがけて一斉に発射される。


メレノアは即座に反応。両手を交差させるように掲げ、水の盾を展開する。氷の矢が次々と弾かれ、水面に砕け散った。


「ふぅん、悪くないわね」


セレーネが小さく頷くと、今度は彼女の足元から火柱が立ち上り、蛇のようにうねりながらメレノアを包囲する。


メレノアは焦る素振りも見せず、手のひらを地面に向けた。


すると土がぶわっと盛り上がり、泥の防壁が形成され、火の蛇はそれにぶつかって消える。


アドホクは思わず口笛を吹いた。


(……なんだ、あの魔術。子供のレベルじゃねぇぞ……)


だがセレーネの攻めは止まらない。今度は真上に手を掲げると、空に光の円陣が現れた。


その中央から、水の槍が雨のように降り注ぐ。


「防ぎきれれば合格。」


メレノアは素早く両手を突き出し、氷の幕を張った。水槍のうち数本はそれに当たり、砕け散る。だが、数発は横から回り込み、ギリギリで避けるしかなかった。


「っ……!」


肩をかすめた水槍の一撃で、かすり傷を負う。


アドホクはがばっと立ち上がりかけて、すぐに座り直す。


(やべえやべえ、子供にあんな魔術撃つとか……やっぱおっかねぇな龍族って。)


攻撃を終えたセレーネが歩み寄り、メレノアの頭をぽんと軽く叩いた。


「悪くはなかったわ。でも、防御を張るタイミングが一瞬遅れたわね。私が本気だったら、今のじゃ防ぎきれなかったわよ」


「うぅ……もう少し早く反応できるようにがんばるよ」


メレノアは悔しそうに頬を膨らませながらも、きちんと返事をした。


「でも、一撃以外避けたのは見事よ。次は、攻撃を見せてごらんなさい」


その言葉を受け、メレノアはぐっと拳を握る。小さな手の中に、淡く蒼い魔力が集まっていく。


地面から水が浮かび上がり、空中で渦を巻く。


メレノアが指を弾くと、その水が一気に凍り、鋭利な氷の塊へと変化する。


「せいっ!」


掛け声とともに、氷の塊が弾丸のように飛んだ。


セレーネは一歩も動かず、片手を軽く掲げる。


すると、目の前に半透明の炎の膜が現れ、氷弾をすべて蒸発させた。


「……やっぱりすげぇな、あの女……」


アドホクはごくりと唾を飲んだ。


セレーネはその場に立ったまま、淡々と告げる。


「魔力の使い方は上出来。でも、氷を形成する速度がやや甘い。戦場では一瞬の遅れが命取りよ。もっと“狙われている”という意識を持ちなさい」


メレノアはぴしっと背筋を伸ばして、真剣な眼差しで頷く。


その様子を見て、アドホクはぽつりと呟いた。


「まったく……」


だが、その口調に、どこか感心したような、どこか安心したような色が混じっていた。


氷が溶けた水たまりの中で、メレノアはまた新たな術式を紡ごうとしている。


セレーネはそれを静かに見守っていた。


アドホクは干し肉をかじり直し、ぽつりと吐き捨てた。


「とんでもねぇな、ほんとによ……」


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