表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/117

第59話 救出

奴隷オークションは盛り上がりを増している。


「助ける前に、まずは作戦を立てよう……!」


俺のその言葉にイーディスは反論──せずに大人しく頷いた。


「ハルトに任せるよ……」


(……てっきり一分一秒でも早く助けようって言うと思ってたんだけど)


俺はオークション会場を一度見回す。


競りを楽しむ身なりの裕福そうな人達は大半がマスカレードマスクをしており、仮面舞踏会でも始まりそうな雰囲気だ。


そこで俺は土魔術で頬より上を隠す石仮面とひょっとこの石仮面を作り、イーディスに顔全てを隠せるひょっとこを渡す。


イーディスは少々デザインに不満げだったが、気にしてはいられない。


イーディスがひょっとこを顔に着けるのを見届け、俺は羽織っていた薄手のシャツを脱いでイーディスに渡し、頭に巻くように言う。


(イーディスは有名だし、王都に家もある。報復する手段なんていくらでもあるからな……絶対にバレないようにしないと)


そんなことを考えているとイーディスはターバンの様に頭にシャツを巻き終えていた。


「オークションの様子見てたんだけど、どうやら競りにかけられる前の人たちは壇の右の部屋から連れ出されてる。

競り落とされた後の人達は左の部屋に連れていかれてるみたいだね。」


そう伝えるとイーディスは言わんとすることを理解したのか頷いたあと、確認の為かそれを言葉にする。


「つまりこの場をすぐに制圧して二手に分かれて同時に助けに行きたいってことだよね」


「そういうこと。あと、余程窮地に追い込まれない限り"剣気"は使わないでね。この後にくだらない厄介事になるのは嫌だからさ。」


「……わかった。この場の戦えそうな奴とその位置だけ確認したら助けに行こう……!」


イーディスはキョロキョロと辺りを見回している。


俺はなんとなしに壇上に目を向ける。


「さてさて!本日の目玉!秘境の奥地より滅多に出てこないと謳われるもの。幻の種族!ドワーフ族〜!こちらは金貨十枚から!!」


その音頭と共に手枷を引かれでてきた髭面の小人、ドワーフである。

黒子に枷のかけられた手にハンマーと剣を持たされる。


「ドワーフ……!?あの聖剣や魄霊剣はくれいけんを打ったって言われてる……!?」


イーディスが驚嘆する様をよそに競りの金額は跳ね上がっていく。


ふとドワーフに目を向けると暗い眼差しで持たされた剣を眺めている。

すると意を決したように息を吸うと一気に剣を首元に向けた。


俺は反射的に氷の弾丸をドワーフの剣に向けて放つ。

高速で放たれた弾丸は剣を首に掠らせることもしないまま手から弾き飛ばす。


「イーディス!呑気に敵を数えてる暇は無さそうだ!この場を制圧したら俺は左に、イーディスは右の部屋に囚われてる人たちを助けてやってくれ!」


瞬間、俺とイーディスは同時に飛び出していた。


「──行くぞ!」


「うんっ!」


 場内はパニックに陥る。予期せぬ魔術の乱入、そして帯剣した二人組の登場に仮面をつけた買受人たちは我先に逃げ出し、警備の私兵たちが混乱の中で武器を構え始める。


「全部で十人弱ってところだね!」


「余裕だな。まとめていくぞ、ひょっとこ!」


「……了解!」


 俺は魔術で岩を飛ばして敵を無力化していく。一方イーディスも剣を抜かず、柄の部分で素早く気絶させていく。


 ──制圧は、一瞬だった。


 騒ぎはおさまり、気を失った私兵たちが床に転がり、取り残された奴隷たちが怯えたまま固まっていた。


「大丈夫。今からみんなを助けます」


 俺の声に、人々は顔を上げる。


 その中には、首をすくめながらもこちらを睨むような目をしている、あのドワーフの姿もあった。


「名前は、なんて言うんですか?」


「……アドホクだ。……自分は名乗らないのか?人間風情が……」


 小さく悪態をつくその声は震えていたが、もはや剣を自らの首に向けるような雰囲気は消えていた。


 俺は彼に歩み寄り、静かに言った。


「失礼。俺はラインハルト。──さっきは死ぬ邪魔しちゃって、悪かったな。でも、まだ本気で死のうって思ってるなら……誰も見てない場所でやってくれ。後味が悪い」


 アドホク──そう名乗っていた彼は、鼻を鳴らしてそっぽを向く。




 壇上に転がる警備兵たちを一瞥し、俺はイーディスに目配せする。


「ひょっとこ、そっちは任せた。俺は左の部屋に行く」


 互いに頷き、俺たちはそれぞれの扉へ駆け出す。


 左の扉は鉄製の重厚なものだったが、蹴破るまでもなく施錠されていない。俺は静かに取っ手を回して中へ踏み込む。


 中は狭い通路で、奥に数人の奴隷が小さな牢に押し込められていた。年齢も性別もバラバラで、皆、競り落とされたばかりなのか疲労と絶望の表情を浮かべている。


「……助けに来ました。ここから出ましょう」


 俺がそう言うと、誰かが信じられないといった顔で呟く。


「え……本当に?」


「すぐ出れます。」


 俺は土魔術で牢の鍵を砕き、順番に鉄格子を開いていく。恐る恐る出てきた彼らに、俺は一言だけ告げた。


「会場に戻ってください。安全は確保してあるので」


 その言葉に、疑念と希望の入り混じった瞳が動き、やがて一人、また一人と動き出した。


 その時、背後で金属音がした。


「……っ!」


 警備兵かと振り返ると、そこにはあのドワーフ──アドホクがいた。まだ手枷は外れていないが、自力で立ち上がり、俺を見据えている。


「本当に助けていたんだな……」


「あたりまえだろ」


「……ふん」


 短く鼻を鳴らした彼を横目に、最後の一人まで解放を終え、俺は全員を大広間へ誘導する。


 同じ頃──


 イーディスもまた、右の部屋で救出を終えていた。


「大丈夫……もう恐くない。今、ここから出すね」


 広い部屋には、競りにかけられる直前の奴隷たちが十数人、怯えた目で座り込んでいた。


「安心して、あなたたちを助けに来ただけだから」


 ターバンとひょっとこの仮面を被った彼女の声は優しく、それでいて強かった。


 全員の枷を解いた後、彼女は部屋の奥を見やる。


「……あった」


 石造りの壁の一角──よく見なければ見逃すような古びた扉があった。鍵はすでに錆びており、開けるのに苦労はなかった。


 扉の奥は細い通路になっており、わずかに上昇しているのが見て取れる。


「地上まで、ちゃんと繋がってる……!」


 彼女は一度だけその通路を確認し、問題なく通れることを確認すると、全員を伴って大広間へ戻った。


 再び集った人々の中に、イーディスの姿を見つけた俺は駆け寄る。


「右の部屋、どうだった?」


「うん、全員助けられた。それと──裏口を見つけたよ。さっき少し様子を見たんだけど、地上まで繋がってた」


「助かった。そっちを使おう」


 俺は全員に声をかける。


「こっちの通路を通って脱出します!追手が来ないうちに逃げましょう!」


 その言葉に従い、元奴隷たちは列を作って裏口へと進んでいく。誰一人として振り返らない。ただ、一刻も早く自由へと飛び出すために。


 アドホクは最後列で何も言わずに歩いていた。


 地上に出たあと、俺とイーディスは、元奴隷たち一人一人に話を聞いて回った。

 帰る場所があるのか。あるなら、それはどこなのか。


 帰れる者には、中銀貨を一枚ずつ渡し、旅の資金にしてもらった。

 遠方だったり、帰る場所のない者については、王都の近衛兵に事情を説明し、保護を頼むつもりで話を進めていった。


 そして、最後に残ったのは──アドホクだった。




 彼は、手に持った剣をじっと見つめていた。


「……まだ、死ぬつもりか?」


 そう尋ねると、アドホクは小さく息を吐き、答えた。


「迷っている。ここは……ギルギニアではないんだろ?」


「ギルギニア……あぁ、違う。ここはグラストニア大陸だ」


 その答えに、アドホクはわずかに目を細めた。


「グラストニア……か。村にも帰れず、また人間共に捕まるくらいなら……死を選ぶ」


「……ギルギニアに、帰れるとしたら?」


 その言葉に、彼は俯いていた顔をゆっくりと上げ、俺の目をじっと見つめた。


 そして──再び視線を落とし、かすかに呟いた。


「……人間の言葉は、信じられん」


「……信じずに命を捨てるより、信じてみて──故郷に戻る方が、いいと思うけどね」


 その言葉に、アドホクはもう一度顔を上げた。


「……人間を信じはしない……だが、故郷に帰れる可能性は捨てられん」


 俺はうなずき、まっすぐに言葉を返す。


「それでいい。──でも、一ヶ月待ってくれ。あと一ヶ月すれば夏休みがある。そのときに、必ず故郷まで送り届けると約束するよ」


 アドホクは何も言わなかった。

 だが、その手から剣はこぼれ落ちていた。




「私も行くよ」


 イーディスがそう言って、そっと俺の肩に手を置いた。


 その言葉に俺は頷き、視線をアドホクに移す。


「……とりあえず今は、一ヶ月間アドホクさんをどう隠すか、だな」


「私の家は……無理だね。人が多すぎる……

 かと言って、ハルトの寮の部屋も、さすがに無理だよね」


「……うん。というか、王都にいること自体がまずいと思う」


「そっか……」


 イーディスが少し困ったように目を伏せる。


 俺は短く息をついたあと、手のひらに魔力を集中させ、石仮面を一つ作り出す。それをアドホクに渡すと、無言で着けさせた。


「とりあえず──

 帰れない人たちを近衛兵に預けてきてくれる?

 そのあと、アドホクさんと一緒に詰所の前で待ってて」


「わかった」


 イーディスが頷いたのを確認し、俺は背中に龍の翼を展開する。

 一瞬、風が舞い、翼が空をはらう。


 そのまま空へと飛び立ち、王都の上空を越えて、学術院の寮──自室へ向かった。




───半刻後


 転移結晶を手に、近衛兵の詰所の前へ向かうと、そこにはイーディスとアドホクの姿があった。仮面とターバンで顔を隠したイーディスとアドホクは、遠目にもなかなか怪しい。


(いや、仮面もターバンも俺がつけさせたんだけどな……)


「待たせた!」


 そう声をかけると、イーディスが振り返り、仮面に隠された顔でにこりと笑う。


「今ちょうど終わったところ。全員、王国が責任を持って保護するって」


「それは良かった」


 俺は安堵の息をつきながら、アドホクの方へと歩み寄る。


「じゃあ、今日はこの辺で。アドホクさんを、安全な場所に連れていくよ」


 そう言うと、イーディスは頭に巻いていた上着とひょっとこの仮面を外し、俺に手渡してくる。


「今日は、本当に助けられて良かったね。……アドホクさんのこと、お願い」


 その言葉を残し、彼女は一歩下がった。


 俺はアドホクの横に立ち、その姿を見据えながら彼の手を取る。


「行くぞ」


 転移結晶に魔力を流し込む。


「──転移!」


 瞬間、淡い光が二人を包み、視界が白に染まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ