第53話 戦神杯
準決勝第二試合。
ルシルゼーレが入場するや否や、会場の空気がぱっと華やいだ。
「きゃあああ! ルシルゼーレ様ーーっ!!」
「今日も美しいですーー!」
「絶対優勝して~~!!」
黄色い声援がコロシアムに響き渡る。
涼やかな銀髪を風に靡かせ、ルシルゼーレは軽く観客席に手を振ってから、静かに舞台中央へと歩を進める。
続いて、俺がが登場すると──
一瞬、場に微妙なざわつきが走った。
「……あれがラインハルト? トーナメント二冠の?」
「倒されるのは仕方ないけど、せめて見苦しく負けないでねって感じ」
刺々しい囁き声の中、ルシルゼーレは舞台上の俺に目を向けて、優しく微笑んだ。
「君と戦うの、楽しみだったんだよね」
「楽しみ……ね」
「うん。だって君、多分この学院で一番強いから」
その声音は穏やかだったが、確かに剣気を孕んでいた。
「一番強い……ね。それは嬉しい言葉だね」
そう軽口を叩くと、準備を促され、開始の合図がされる。
その瞬間にルシルゼーレは地面を蹴った。
ルシルゼーレはまるで踊るように剣を振る。南方剣術に似ていながら、しかしどこにも属さない異端の型。
それでいて、しなやかで、鋭く、速い。
──読めない。
型がない……じゃあ、“隙”はどこだ?)
対応が一歩遅れるたび、銀の刃が衣をかすめる。
一太刀のキレが半端ではなく、段々と俺は追い詰められていく。
その様子に観客は静まり返り、熱狂的なルシルゼーレのファンですら、言葉を呑んで見守っている。
俺はじっと耐えているとついに一つ、気づく。
ルシルゼーレが踏み込み、舞うように身を返す、その直後。
ごく短い時間、肩と足運びがわずかに乱れる瞬間がある。
そこだ。
次の瞬間、ルシルゼーレが一気に間合いを詰め、軽やかに宙を舞う。
(来る……!)
ラインハルトはあえて誘うように一歩踏み込み、斜め下から鋭く刃を振り上げた。
刹那、
赤く光るバリアがルシルゼーレの身体を守るように展開される。
魔導具が危険を察知し、強制的に防御を作動させた。
──勝負あり。
ルシルゼーレの動きが止まり、数歩下がってから小さく肩で息をつく。
「……負けちゃった、か」
その呟きと同時に、観客席から怒涛のヤジが飛ぶ。
「なにそれ!? ルシルゼーレ様が負けるとかありえない!!」
「おいっ! ちょっと空気読めよ、ラインハルトーー!!」
俺は、その言葉に傷つきながら観客席に丁寧に頭を下げた。
その姿に、一瞬だけ沈黙が訪れる。
「……なんか、まぁ、いい試合だったね……」
「……まぁ、ルシルゼーレ様を倒したことは、いったん許して“あげる”」
そんな微妙な空気に包まれる中、ルシルゼーレはふわりと笑って言った。
「……ふふふ、勝ちにくいよね」
「全く、勘弁してくれよ……」
お互い少し笑いながら軽く会釈し合うと、それぞれ舞台を降りた。
ルシルゼーレとの戦いは無事に勝利によって幕を閉じる。
こうして《戦神杯》決勝の舞台には、誰もが予感していた二人の名が並ぶこととなった。
《戦姫》イーディス・ヴァルキュリア
《二冠の新星》ラインハルト・ファーレンガルト。
運命に導かれるように、最強と最強が、剣を交えようとしていた。




