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第50話 それぞれの戦い

 アメルノアの試合から一試合、二試合と過ぎ──いよいよ、俺の出番となった。


 「ラインハルト・ファーレンガルト、入場!」


 名前を呼ばれ、俺はゆっくりと舞台へと歩み出る。

 眩い光がコロシアムの中央に降り注ぎ、観客席が一斉に沸き立った。


 「勇者杯の優勝者だ!」


 「あいつも無詠唱で魔術使えるんだろ……!?」


 「じゃあこれも十秒の決着、見れるか!?」


 煽られるような歓声の中、もう一人の名前が呼ばれる。


 「一回戦を勝ち上がった──バーリス・ロゼリア!入場です!」


 やや緊張した面持ちで、茶色の短髪を揺らした青年が舞台に現れ、俺と正対する。

 身体を構え、深く息を吸い、視線を俺に固定する。


 「……お願いします」


 その一言に、俺も小さく頷いた。


「お願いします……!」


 審判の声が響く。


 「第二回戦、第四試合──開始!」


 同時に、バーリスが詠唱を始めた。中級の魔術の《ロックバースト》か。


 その隙を、俺は当然のように突けた。


 瞬時に構築を済ませ、氷弾アイスバレットを三発展開。

 魔術は既にバーリスの心臓と両膝を捉える未来を描いていた。

 ──あとは、撃つだけ。


 ……けれど。


 (これで終わらせて……いいのか?)


 まるで処理だ。感情も戦意もない、こんなのは戦いじゃない。


 (俺は勝ちたいんじゃない。──戦いたいんだ)


 心の中で、何かが引っかかる。


 無詠唱で先手を取る。それだけで、勝ててしまうこの舞台。

 バーリスがどんな術を、そして工夫をするかも知らず、無詠唱というだけの速さだけで押し切るのは──


 (フェアじゃない)


 そう思った瞬間、俺は展開した氷弾を霧散させた。


 魔術が、空中で融けて消える。


 「──!?」


 観客がざわめき、バーリスの表情が一瞬、戸惑いを見せる。


 だが、彼の詠唱は完了していた。


 「──穿て、岩槍陣ストーンクラッシャー!!」


 地面から隆起した複数の大岩が、俺目がけて一斉に飛来してくる。

 視界が、土と石で覆われる。


 その刹那。


 俺の手元から、五本の氷槍が風のように走った。

 岩を穿ち、砕き、粉砕する。


 立ち上る砂煙の中、俺は一歩前に出た。




「仕切り直しだ、バーリス……!」


 宣言とともに、俺は詠唱に入る。


 「──凍てつけ、空を裂く氷の矢よ。《グラシアル・アロー》!」


 伸びる魔力陣。そこから浮かび上がる三本の氷矢が空中に展開され、冷気を帯びて光を反射する。


 対するバーリスも負けじと叫んだ。


 「──穿て、大地の牙、《ロックファング》!」


 地面から岩の牙が連なり、蛇のように伸びて俺に襲いかかってくる。


 (相殺させる……!)


 俺は氷矢を一斉に発射。氷と岩が空中で交錯し、派手な音を立てて炸裂した。


 爆風と土埃が舞い上がる。観客席から歓声とどよめきが巻き起こる。


 だが、次の瞬間には俺はすでに次の術を詠唱していた。


 「──燃え盛れ、《ファイアブラスト》!」


 詠唱完了と同時に、紅蓮の火球が俺の手元から飛び出し、煙を突き破って一直線にバーリスを目がけて飛翔する。


 バーリスも迎撃の魔術を詠唱しようとするが──間に合わない。


 火球が炸裂する寸前、彼の身体が赤く発光し、魔術を打ち消した。


 ──バリア、発動。


 「防御結界の発動を確認! 勝者──ラインハルト・ファーレンガルト!」


 審判の声とともに、コロシアムが大きく揺れるような歓声に包まれる。


 バーリスは肩で息をしながら、俺をまっすぐに見つめ──苦笑いを浮かべながら、右手を差し出した。


 「……完敗だ。でも、おかげで最後まで全力でやれた。ありがとう、ラインハルト君」


 その手を、俺はしっかりと握り返す。


 「こちらこそ。いい勝負だったよ、バーリス君」


 その瞬間、観客席がもう一度、大きな歓声で沸き立った。


 ただ勝つだけじゃない。

 誰かと向き合って、真正面からぶつかって、その上で勝つ。

 ──今、この舞台の上で、自分が求めていたものを確かに感じていた。





試合を終えて控室へ戻るとアメルノアが壁にもたれかかりながら腕を組み、俺の方へ視線を向けると口を開く。


 「……ずいぶんとお優しい事ね、ラインハルト」


 「……え?」


 俺が訝しげに眉をひそめると、アメルノアは面倒くさそうに言葉を続けた。


 「最初の魔術で攻撃してればすぐ決着だったのに、詠唱に付き合ってあげて、魔術も相殺して……」


 そこで言葉を切ると、鋭い紫の瞳が俺を真っ直ぐに射抜く。


 「……見ていられないわ。私相手には最初から全力で来なさい。試合ではそんな気遣い、ただの侮辱よ。」


 その言葉は、まるで俺の精神に冷水をぶつけるように響いた。


 手加減──その言葉に、俺自身が明確な否定をできないのが悔しかった。


 だが、アメルノアはそのままくるりと背を向けて、控室の扉に手をかける。


 「もし私相手に詠唱なんてしたら……分かってるでしょうね。」


 扉の向こうへ歩き出そうとしたその背に、俺は言葉を返す。


 「……ああ。もちろん……わかってる」


 その言葉に、アメルノアの肩がわずかに揺れた。


 「──それでいい」


 振り返ることなく、彼女は足音だけを残して控室を出ていく。


 残された静寂の中で、俺は小さく息を吐いた。




そして三回戦の準決勝。


 アメルノア・ランカスターは変わらなかった。


 無詠唱。即詠即撃。たった三秒。


 緋の閃光が相手の足元を囲むように炸裂し、同時にバリアが赤く光った。


 観客がざわめく暇もなく、審判の声が響く。


 「──アメルノア・ランカスター、決勝進出!」


 まるで型通りのように、彼女はくるりと背を向けて去っていく。


 迷いも、ためらいもない。徹頭徹尾、“勝つため”の戦いだった。


 


 ──そして、俺の準決勝。


 俺は、無詠唱を使わなかった。


 使えばきっと、十秒で終わる戦いだった。だが、それでは"フェア"な戦いにならない。


 俺も、詠唱から魔術を組み立て、相手の術式を読み合い、攻防を交えながらじわじわと詰めていく。


 空を裂く火球と、それを相殺する氷槍の激突。


 何度も魔術同士がぶつかり合い、砂煙が立ち昇る戦場の中──俺は一発の火球を敵の背後へ回し、バリアを発動させた。


 観客席から歓声が上がり、ようやく審判の声が飛ぶ。


 「──ラインハルト・ファーレンガルト、決勝進出!」


 勝ち上がったという事実には、確かに手応えがあった。


 けれど──


 (俺たちの戦いは、ここからだ)


 


 静寂の中、決勝戦の準備が整う。


 会場全体が固唾を呑み、やがて響き渡るアナウンスが空気を震わせる。


 


 「──これより、賢者杯・決勝戦を開始します!」


 「対戦カードは──ラインハルト・ファーレンガルト 対 アメルノア・ランカスター!」


 


 舞台の中央。


 俺とアメルノアが、正面から向き合う。


 彼女は口元に微かな笑みを浮かべていた。


 「ようやく、ね」


 「待たせたな」


 空は晴れ渡り、光が差し込むコロシアムの中心で、賢者杯、最後の戦いが幕を開けようとしていた──。


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