第47話 勇者杯
そして勇者杯が開幕する──
「――ようこそ! 本日は《勇者杯》!第一日目のトーナメントでございます!」
開け放たれたコロシアムの中心で、魔術によりボリュームを上げた審判の声が響く。朝から座席は満席。立ち見客もコロシアムの外壁にまでびっしり張り付くように集まっていた。
そして、最上段──貴賓席。豪奢な天蓋の下、王都から訪れた高官たちの中に、その姿はあった。
《王》その人が、厳かに玉座に座していた。
俺は剣を抱えながら、貴賓席の方向を一瞬だけ見上げる。
一ヶ月前、タイラントワームが奇襲のように現れ、人々は逃げ惑い、街は混乱に包まれていた。
あの時、剣を抜いて二体の巨躯を斬り伏せた翌日に魔導師団の下っ端だという男が接触してきた。
王命による“確認任務”。
表向きには危険な魔獣の討伐クエスト、しかし魔導師団の男は言った。
試されている.........と。
王からのクエストを問題なく切り抜けた。
そのせいか、ものすごく視線を感じる。
「出場するのは全十名! 準決勝から登場する特待生のシード選手はこの二名──!」
そんな中で舞台の上、魔術のスクリーンに映し出されたのは二人の顔と名前。
「もはや言葉にする必要もあるか分かりませんが!前回、前々回の優勝者、《勇者の末裔》エルトリオ・アークライト!
そして、本年度の特待生にして、未だ未知数の逸材! ですがひと月前の王都に現れたタイラントワーム三体をまとめて切り払ったと噂されております! 《新星》ラインハルト・ファーレンガルト!」
会場がざわめく。
スクリーンが顔と名前からオッズに移り変わると、観客の熱気はさらに膨れ上がった。
•エルトリオ・アークライト 《1.8倍》
•ラインハルト・ファーレンガルト 《4.2倍》
以下、残り八人の倍率は軒並み10倍以上。
「さて、皆様! 賭けることが出来るのは第一試合前まで! 賭博窓口はコロシアム北口と南口に二ヶ所ずつ、計四ヶ所にて受け付けております! 締め切りと行列にはお気をつけて!」
場内四ヶ所に設けられた窓口には、すでに沢山の人だかり。情報屋に耳を傾けながら熱心に票を投じる者、貨幣を握りしめて悩む者、酒片手に仲間と笑い合う者──。
学院の催しとは思えない喧騒が、賭けの熱と共にコロシアムを包んでいた。
そして、一回戦が始まる──
一回戦・第一試合
「第一試合、開始ィィィッ!!」
鋭い開戦の合図と同時に、二人の剣士が衝突。
炎を纏う剣士と、氷結魔術による足場の変化などの搦手を好む変則型の剣術使い。だが、観客が見守る中、勝負は意外にも早く決した。
勝者:ゼイラス・ドラン(11.2倍)
炎を巧みに操った剣技が決まり、場内が沸き立つ。
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一回戦・第二試合
「第二試合、始めッ!」
続く試合では、小柄な魔術師が正確に連射される魔術で勝負はすぐについた。
勝者:レマル・ジノ(15.4倍)
腕の立つ魔術師として知られていた彼は、淡々と試合を終えると無言で退場する。
歓声の多さから大穴狙いでレマルに賭けている人も多そうだ。
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一回戦・第三試合
この試合では、大盾を構えた重装剣士が登場。対する相手は軽装で素早い刺突特化型。
序盤は拮抗していたが重装の剣士の盾がかなり巧く……
勝者:バロウ・ケント(22.8倍)
重厚な一撃が決まり、会場からはどよめきが漏れた。
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一回戦・第四試合
ここで登場したのは、魔術も使うバランスの良い中距離戦型の剣士と、直線特化の突剣士。
互いに距離の取り合いとなったが、魔術を踏み台にするトリッキーな戦術が決め手となる。
勝者:ティナ・フェルス(16.7倍)
跳躍からの華麗な一撃に観客が沸き立った。
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二回戦・第一試合
ゼイラス vs レマル
接近戦に持ち込もうとするゼイラスに対し、レマルは慎重な魔術の連打で対処。地面を凍結させ、足を取った瞬間に氷の杭を突き上げる。
勝者:レマル・ジノ
冷静な対応と相手を見極めた戦術が功を奏し、準決勝へと駒を進める。
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二回戦・第二試合
バロウ vs ティナ
重装と素早さの戦いは、拮抗のまま進行。バロウが盾を捨てて剣を両手に持った瞬間、ティナが距離を取りつつ魔術で攪乱し、一瞬の隙を突く。
勝者:ティナ・フェルス
互角の名勝負を演じたが、最後は見事な戦術勝ちを見せる。
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そして準決勝・第一試合
エルトリオ vs ティナ
試合開始から数秒。エルトリオは構えながら様子を見ている。ティナが痺れを切らし魔術を放とうとした瞬間、エルトリオの身が霞む。
「……え?」
観客席から漏れた一声が届くよりも早く、ティナの武器が宙を舞っていた。
勝者:エルトリオ・アークライト
わずか一合。相手に術を使わせる間もなく完封するその姿に、観客は絶叫のような歓声を上げる。
「つ、つよすぎる。これが勇者の…末裔!」
「さすが、二連覇中……!」
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準決勝・第二試合──直前
控え室を出た俺は、すでに陽の高いコロシアムを見上げながら、剣を握り直す。
対する相手、レマル・ジノは淡々と姿を現し、軽く一礼を寄越した。
俺も頭を小さく下げると俺たちは円形の舞台へと歩み出す。
お互いに向き合い、俺は剣を、彼は杖を構える。
準決勝・第二試合、そして俺の初戦が始まる
準決勝・第二試合
vs レマル・ジノ
「――試合、開始ィィィッ!!」
開戦の合図と同時に、レマルが一歩後退するように間合いを取りながら詠唱に入った。
「水精の槍よ、鋭く、貫け! 《嵐翠激流槍》」
浮かび上がる八本の透明な水槍。その槍先は一瞬ごとに研ぎ澄まされ、光を反射しながら空中に整列する。
「行けッ!!」
一拍の間を置いて、レマルの手のひらが前に突き出された。
鋭く空を裂いて、一本、また一本と飛来する魔術の槍。
俺は静かに剣を構え、意識を刃に向けると、剣身に魔力を纏わせる。
そして魔術に向かい、構えを取る。
「──はッ!」
振り抜く一閃。
まず一本。
続けざまにもう一閃。
二本、三本……そして八本目まで──すべての水槍が、剣で斬り払われた。
バシュッ、ズババッ、バシュッ……!
氷と水の砕ける音が連続して響き、次の瞬間──
「ま、魔術を……斬ったァ!?」
「バカな……全部速かったぞ!?」
「魔術を斬るって……どんな練度だよ……!」
爆発したような歓声がコロシアムを包む。
俺は剣を構え直しながら、呟いた。
「……あれ、俺またなんかやっちゃいました?」
なーんて。
(魔力を“感じて”、それを“操れる”俺にとってはそんなに難しい事じゃない。
この世界の剣士は、基本的に魔力を意識して纏わせることなんてしない。
身体の一部として剣を扱えるような、よほどの熟練者じゃないと魔力が剣に纏う事は無い。
でも俺は、意識的に魔力を纏わせることができる。
だから、傍目にはまるで“達人”にしか出来ないようなことが、簡単にできるんだ。)
とどまることをせず、観客のどよめきが波のように押し寄せてくる。
だがレマルは諦めなかった。顔を歪め、再び詠唱に入る。
「《水刃》《氷牢》《水爆》」
畳み掛けるような連続詠唱。さすがの魔術で、詠唱速度も精度もなかなかだ。
だが──
「俺の勝ちだ……!」
剣を振るたび、氷の壁を両断し、水刃も砕け、水爆は届く前に霧散する。
そして、風の魔術で瞬間移動でもしたかのように一息に距離を詰める。
「っ!?」
レマルの瞳が驚きに見開かれた時には、すでに俺の剣が眼前にあった。
振り下ろす。
直撃する寸前、レマルに魔道具のバリアが発動。
身体が赤く光り、それは敗北の証となる。
「勝負ありィィィィィ!! 勝者、ラインハルト・ファーレンガルト!!」
審判の宣言と同時に、バリアの揺らめきが剣圧に吹き飛ばされるかのように波打った。
そして――
「うおおおおおおおおおおっっ!!」
「マジかよ……剣で魔術を全部……!?」
「下克上あるんじゃねぇか!?」
大歓声がコロシアムを飲み込み、空まで震わせた。
堂々と歩いて戻る俺の背に、何千という視線が突き刺さる。
その中で──最上段、貴賓席からの“あの視線”も心無しか熱を帯びている気がした。
(……まだ次がある……絶対勝つぞ。)
俺は剣を下ろし、軽く肩を回しながら、次の決戦――決勝へと、心を切り替えた。




