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第45話 予選

初めての講義から二十日が経った───


俺はシェルメラに案内されて、大講義室に足を踏み入れた。


広々とした石造りの空間。天井には魔導灯が整然と並び、その下には規則正しく並ぶ座席の列。すでに多くの生徒が席についており、その数はざっと百人といったところか。剣術コースと魔術コースの制服がほとんどを占め、ちらほらと特待生の姿も見える。


空いている席を見つけて腰を下ろす。周囲のざわつきは収まらず、ひそひそとした声があちこちから飛び交っていた。


(なるほど、緊張というより、期待と興奮って感じか)


そんな空気を断ち切るように、壇上の中央に立った人物が咳払いをひとつ。


「えー、ごほん……」


薄い銀髪を撫でつけ、マイク型の魔道具を手にした学院長──チェゼフが、ゆっくりと口を開いた。


瞬く間に室内が静まり返る。


「えー……ついに、学院祭まで十日となりました」


重みのある声に、教室内の空気がわずかに引き締まった。


「この場に集まってもらった皆さんは──お察しの通り、今年度の《学院祭トーナメント》への参加を希望された方々です」


壇上の黒板に手際よく何かを書きながら、チェゼフは言葉を続ける。


「まず明確にしておきたいのは──希望すれば誰でも本戦に出られるわけではない、ということです。本戦出場には《予選》を突破していただきます」


ざわっ、と少しだけ空気が動いた。


「……ただし、特待生は別です。すでに一定の実力と資質を持つと判断されているため、予選は免除。本戦からの《シード枠》として、二回戦目から登場してもらいます」


そう言って、チェゼフは黒板に大きく三つの枠を書き出した。


【勇者杯】──総合戦技、定員八名 他特待生二名


【賢者杯】──魔術競技、定員十二名 他特待生 二名


【戦神杯】──剣術競技、定員十二名 他特待生四名


「参加できるのは、それぞれこの人数。本戦には限られた枠しか用意されていません。……ゆえに、これからの予選が非常に重要になるということです」


ふむ、と腕を組む者、ゴクリと息を呑む者、表情は様々だったが、全員の視線に闘志が宿っていた。


チェゼフは再びマイクを手に取り、言葉を締めくくる。


「一刻後に、予選を開始します。特待生以外の参加者は、それまでに修練場へ集合するように。……以上で、トーナメントに関するオリエンテーションを終了します」


そうしてチェゼフの説明が終わると、講義室の空気は一変した。


「予選、か……」


俺は軽く肩を回しながら立ち上がる。周囲の生徒たちはそわそわと浮き足立ち、緊張を隠せていない様子だった。中には「特待生には勝てないかもしれないけど……せめて本戦は……」なんてぼやく声も聞こえた。


観戦のため、予選会場となる修練場へ向かうと、すでに大勢の生徒たちが武器を手に待ち構えていた。組み合わせは学院側が決めるらしく、すでに対戦表が張り出されている。


「……ふーん、こういうのも全部、決まってんのか」


予選の形式出場大会別のシンプルな一対一。勝ち抜いた者だけが本戦への切符を手にできる。


「観戦席はこちらになりますー!」


係の声に従い、俺はゆっくりと階段を登り、観戦用のベンチに腰を下ろした。


隣には、いつの間にかイーディスが座っている。


「ふふ、緊張してる?」


金の瞳がこちらを覗き込んでくる。どうやら気を遣ってくれているらしい。


「いや、別に。……思ったより静かだな。予選って、もっと騒がしいものかと思ってた」


「みんな必死なのかもね。負けたら終わりなんだし」


イーディスは肩をすくめ、前髪をかきあげた。さりげない仕草ひとつとっても、絵になるあたりは流石というべきか。


──やがて、予選が始まった。


次々と繰り広げられる剣と魔術の応酬。だが正直、その大半はレベル的に物足りなかった。魔術の威力、精度、速度全てが物足りない。剣の動きにも無駄が多く、目が追いつかないまま力任せに突っ込む者も少なくなかった。


(なるほど……これが“平均”ってやつか)


俺は内心でそう呟きながらも、観察を続けた。なにせ、本戦で当たる可能性もあるのだから。


ふと、横から声が飛ぶ。


「おやおや、なかなか退屈そうだな、ラインハルト」


近くに座ったエルトリオが優雅に脚を組みながらこちらを見ていた。その隣では、アメルノアがつまらなそうに頬杖をついている。


「どうせ大半は二回戦まで残れないわ。」


「とはいえ、見抜く目を鍛えるにはいい機会だと思うがね。」


「……まぁ、アンタにしてはまともなこと言うじゃない」


二人のやりとりに、ルシルゼーレが無言のまま頷いていた。イヴは一人ノートに何かを書き込んでいる。恐らく予選通過者の分析だろう。自身は出場しないのに分析しているあたり、そういう事が好きなのだろう。


そうして数時間が過ぎ、予選も終盤に差し掛かった頃、ざわめきが一段と大きくなった。


「……お?」


俺も顔を上げる。最後の試合に出てきたのは、なかなか面白い動きを見せる魔術師だった。詠唱は速く、威力も精度も申し分無い。


「……あれは、少し注意が必要かもしれないな」


俺は小さく呟いた


──予選の全試合が終わった後、再びチェゼフ学院長が登壇し、予選通過者の名前が読み上げられていく。


呼ばれた者が喜び、歓声を上げる。


「ふう。なかなか見応えがあったな……」


俺はゆっくりと立ち上がる。


次に戦うのは、予選を勝ち抜いた中でも精鋭とされる者たち。



(……誰が来ても全力で勝ち切ろう……)


静かに、だが確かに、俺の中で闘志が燃えはじめていた。


学術院祭トーナメント──本戦まで、あと十日。


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