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第39話 再会

──ラインハルト視点


王都の輪郭が地平線の向こうに現れた時、俺は思わず息を呑んだ。


「おぉ……でかいな……」


眼前に広がるのは、今まで見てきたどの都市とも比べものにならないほど巨大な城塞都市。外壁は灰色の石で築かれ、まるで山脈の一部のように重厚で威圧的だ。かつて最大規模だと思っていたテミュリスの街すら、あれに比べれば小さな村に見えてしまうだろう。


空を滑空しながら、その壮大さに圧倒されていたその時だった──。


「……あれ、動いてないか?」


王都の外周、広大な平原に浮かぶ三つの黒い影。最初は巨大な彫像か何かかと思った。だが、微かに蠢くその影に違和感を覚える。視線を凝らすにつれて、その正体が浮かび上がる。


──あれは、魔獣だ。


漆黒の鱗をまとった、蛇のようにしなやかで異常に長い体躯。地表を這い、時折身をくねらせる様は、まさしく生物のそれだった。


「魔獣が……王都の中に?」


危機を察した俺は、すぐさま翼に魔力と龍気を集中させ、風を切るように加速する。王都までの距離は、あと数分といったところ。


すると──


突如、一体の魔獣が仰け反るようにして、地を割るような絶叫をあげたかと思うと、ズズンッ……と大地が震え、のたうつようにして崩れ落ちた。


「なっ……」


次の瞬間、残る二体の魔獣が、音もなく地中に潜り始める。土を巻き上げ、大地が蠢く。まるで何かに呼ばれたかのように、倒れた個体の元へと集まっていく。


俺はその場所へと接近し、舞い上がる砂煙の中に突入する。


そこの上空に到着すると同時に地面が破裂するようにして二体の魔獣が地中から這い出てくる。その間にひときわ小さな人影が目に映った。


「あれは……人か!?」


魔獣の巨体に囲まれるようにして、ひとりの女性が壁際に追い詰められていた。服は破れ、顔は涙と血に汚れ、恐怖に震えながら絶叫を上げている。


(間に合え──!)


俺は龍迅気を解放する。身体の芯から龍気を活性化させることで、筋力・反応速度・など、全身の能力が一気に高まる。


黄金のオーラが俺を包み、抜剣と同時に音速に近い踏み込みを行う。


「ふッ!」


振り下ろした斬撃は、ワームの胴を掠めた。しかし──


「……かすり傷程度にしか……!?」


その鱗はまるで金属のように硬く、刃がほとんど通らない。すぐに剣を引き、背中の導魔杖を手に取る。剣がダメなら魔術で仕留めるしかない。


その時、壁際でしゃがみ込んでいた女性が、震える声で叫んだ。


「そいつ……炎が弱点です……! だから──!」


その声に俺は小さく頷き、魔力を収束させて二発の魔弾を編み出す。赤く熱を帯びたそれは、俺の魔力に呼応してさらに燃え上がり──限界を超えた炎は、紫色の魔炎へと変貌する。


「喰らえ──!」


紫炎の魔弾をワームの巨体に叩きつける。命中と同時に、轟音と共に爆発が起こり、魔獣の硬い外殻が焼け焦げる。うねるようにのたうち苦しむ様は、まさに致命傷だった。


「今だ!」


剣を再び抜き、全身に龍気と魔力を限界まで纏わせる。


「初ノ型──《裂空》!」


構えから一閃。目にも留まらぬ速度で繰り出された斬撃は、まるで空間そのものを裂いたかのような威力を持ち、残った二体のワームを水平に切断する。


ズシャアッ!


肉が裂け、骨が砕け、魔獣たちは絶叫すらできぬまま地に崩れ落ちた。


砂塵が静まった後、俺は静かに剣を収め、導魔杖を背中に戻す。


そして、俺はまだ震えている女性の方へ振り向き声をかける。


「君、怪我とかしてない? 大丈夫だっ……た……?」


振り向いた瞬間、俺は言葉を詰まらせた。


──顔を、見たからだ。


風にあおられて揺れる髪の合間から、見えた瞳。その顔立ち。


成長しているがその顔を忘れるはずがない。


(……イーディス?)


心の中で名を呼ぶのと同時に、彼女もまた俺の姿をまじまじと見つめていた。


目を見開き、戸惑いと困惑が入り混じったような顔。その表情も、俺の記憶にある彼女と、何も変わっていなかった。


数秒の静寂が、まるで世界の時間を止めたかのように感じた。


そして──


「ライン……ハルト……?」


震える声が、俺の名前を呼んだ。


その瞬間、胸の奥に温かいものが湧き上がってくるのを感じた。ずっと会いたかった。伝えたかった。守りたかった。そんな思いが、溢れそうになる。


言葉が出ない。けれど──笑っていた。自然と、微笑んでいた。


まるで、四年の時を越えて、たった今すべてが繋がったように。




「ごめん、ごめんね……また、助けられて……

 私、あれから頑張って強くなったのに……!!」


嗚咽混じりの声。小さな肩が震えている。


俺は彼女の隣に腰を下ろし、背中を瓦礫に預けながら、静かに告げた。


「……久しぶり、イーディス。ずっと……会いたかったよ」


その一言で、イーディスは声を上げて泣き出した。子供のように、涙が堰を切ったように流れていた。


そして、しばらくして彼女が落ち着きを取り戻すと、ぽつりぽつりと──お互いの四年間を語り合った。


龍神の元での修行。冒険者としての日々。

自分の無力さを悔いて、誰かを護れる力が欲しくて、もがいていたこと。

──どちらも護るための修練をしていた。


そんな中、鎧の軋む音が近づいてきた。豪奢な甲冑に身を包んだ騎士たちが、数人こちらへ向かってくる。


王都の近衛騎士団らしい整った装備と所作。中央の一人が声を上げた。


「ヴァルキュリア侯爵令嬢。衛士から報告があり、救援に参りましたが……」


彼らの視線が、地に伏せた三体のタイラントワームの死骸に注がれ、そして息を呑む。


「これを……すべてあなたが?」


イーディスは涙の痕を拭いながら、小さく首を振る。


「一体は私が。そして、この焦げた二体は、こちらのラインハルトが討伐しました」


すると、騎士たちの視線が一斉に俺へと注がれる。緊張感のある空気の中、隊長格の男が兜を外し、俺に問う。


「左様でありましたか。このことは王にも報告いたします。

 きっと、しかるべき褒賞が与えられることでしょう。……名と所属を、伺っても?」


「えっと……ラインハルト・ファーレンガルトです。今月から、セントリア学術院に特待生として入学する予定です。

 ……褒賞は、もし金品であれば、この区画の復興に充ててください」


そう告げると、騎士もイーディスも驚いたように目を見開いていた。


「承知しました。そのように報告いたしましょう。

 ……学術院生とは驚きました。我ら近衛騎士団も、あなたのような人材に入団してもらいたいものですな」


そう言って、騎士団長は口元に笑みを浮かべた。


「ここの後片付けは後でギルドがやるでしょう。してヴァルキュリア侯爵令嬢、護衛をお付けしましょうか?」


「いえ、大丈夫です。報告をお願いします」


「では──」

騎士たちはぴたりと足並みを揃え、城の方角へと去って行った。


ふぅ、と俺とイーディスは揃って息を吐き、顔を見合わせて笑った。


「ラインハルトは特待生で学術院に行くんだね。さすがだね」


「……凄いのかな? そういえば、昔みたいに“ハルト”って呼んでくれよ。寂しいじゃないか」


少し照れたように、けれど優しい笑みを浮かべて言うと、イーディスも恥ずかしそうに笑って──


「……じゃあ、ハルト。そろそろ帰らないといけないから、私、行くね。

 家はあっちの方なんだ」


そう言って城下の住宅街を指さす。


「“ラインハルト”って名前で門衛の人に通しておくように伝えとくね。じゃっまた暇な時あったら来てね!」


そう言って、イーディスはひらひらと手を振り、軽やかに駆けて行った。


……疲れたけど、心は軽い。

イーディスが、俺のことを忘れていなかった。それだけで、とても嬉しかった。


さて、三日後には学術院の入学試験だ。

“何をしても合格する”と言われているけれど、俺は全力を尽くすつもりだ。


王都の石畳を踏みしめ、俺はゆっくりと宿屋の区画へと歩き出した。

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