第3話 剣の修練
あれから毎日魔術の修練をしているが、俺が目指しているのは剣と魔術、どちらも極めた魔法戦士だ。
とりあえず魔術は魔力総量を底上げしていこうと考え、俺は次のステップへと進む。
朝、いつもより少し早く起きた。
窓の外を見ると、ジェスターが中庭で剣を振っているのが見えた。
「……もう始めてるのか」
寒さが残る朝の空気の中、ジェスターは黙々と剣を振るっていた。重々しい鉄の剣が振られるたび、ゴウッ、と空気がうねる。
(やっぱり、すげーな……)
剣を振るというよりも、空気を切り裂くかのようなその動き。
力強さとしなやかさ、そして一分の無駄もない正確な剣筋に、見ているだけで鳥肌が立つ。
「父さん!」
窓から身を乗り出し声をかけると、ジェスターは軽く振り返った。
「おはよう、ラインハルト。……どうした、こんな早くに?」
「僕にも、剣を教えてほしいんだ」
真剣な目でそう言うと、ジェスターは少しだけ目を細めた。
「お前に、か」
低い声音の返事が帰る。いつもは優しくおちゃらけた父親だが、剣が絡むと真面目な騎士になる。
身を乗り出した体を抱えられ、鋭い視線が、俺の身体を見定めるように走る。
まだ三歳。細い腕、短い足。金属の剣など到底持てはしない。
「剣技はまだ早い。……だが」
ジェスターは傍に転がっていた木の棒を拾い、それを俺に手渡した。
「構えと素振りだけなら、教えてやってもいい。剣の道は、まずそこからだ」
「……うん!」
俺は勢いよく頷いて木の棒を握った。木とはいえ、ちょっと重い。でも負けてられない。
「まず、両足を肩幅に開け。膝を少し曲げて、腰を落とす。重心は、下だ」
言われた通りに姿勢をとるが、すぐによろけそうになる。
「身体が軽い分、余計にバランスが難しい。だが、慣れだ」
そう言いながらジェスターが手を添えて体勢を直してくれる。思ったよりも優しい。
「次に、剣の振り方だ。力任せに振るな。流れるように重さを利用して振れ」
俺は木の棒を肩の上に構え、思いきって振ってみた。
ひゅっ、と音を立てて空を切る。手がしびれる。
「ふむ……まずはそれでいい。今日のところは三十回、ゆっくり丁寧に振ってみろ。数じゃない、“正しい動き”を覚えろ」
ジェスターはそう言って、再び自分の鉄の剣を構えた。
ギラリと刃が光る。
そして――
――ズバァッ!!
風を断ち切るような轟音。目で追えないほどの速さで剣が振り下ろされた。
「……っ!」
その一撃に、思わず息を呑む。木の棒とはまるで違う、鋼の重みが空気ごと空間を叩き切る。体が震えるほどの迫力。
「……これが、本物の剣技だ」
ジェスターは静かに言った。
その背中を、俺はまっすぐに見つめた。あんなふうに剣を振れるようになりたい。強くなりたい――心の底からそう思った。
***
昼下がり。誰も見ていないことを確認しながら、俺はこっそり台所に向かった。
朝の修練で体が重い。けど、魔術の修練も疎かにできない。
「……アクア・バレット」
声には出さず、心の中で魔術の名前を唱える。
心臓から手のひら、そして指先へ、魔力を流す。感覚を集中させて――
ポンッ、と音を立ててに水の弾が生まれる。
「……やった」
アクア・ドロップを改良した、水の弾丸。水の球を小さく、密度を高く、回転を加えれば、少しだけ威力が増す。
窓の外、地面に向かって手を伸ばす。
シュッ――
水弾が飛び、土の上でバシャッと弾ける。
土の地面を数センチ抉り取る威力にまでは強くなった。
「ふふっ……これなら、もしかして……攻撃にも使えるかもしれない」
剣と魔術――どちらも手にしたい。
そのためなら、体がきつくても、努力を惜しまない。
ジェスターの背中に並び立つために。
剣と魔法を満喫するために。
――俺は、前に進む。