表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/20

第2話 無詠唱魔術

生前には無かった、未知の感覚。

心臓から、血管を伝って流れる、あたたかい“ちから”。

たしかに――これが魔力なのだと、実感する。


(これが……魔術、これが……魔力なのか……!!)


先ほど使った、水の初級魔術を思い出す。

魔力を、心臓から血管へ、そして手のひらへ――意識して流し込む。


すると、いつの間にか。

たぷ、たぷと音を立てながら、手のひらに水球が浮かび上がった。


ズキンッ――!


脳が揺れる。

まるで、頭を鈍器で殴られたかのような激痛が走る。

心臓は、不規則に跳ね、視界が、ぐにゃりと歪んだ。


「う……ぐ、ぁ……!」


思わず膝をつき、地面に手をつく。

額からは冷や汗が垂れ落ち、心臓の鼓動は、もはや暴走寸前だった。


痛みに耐えながら、魔術教本に記されていた一文が、脳裏に蘇る。


――魔力切れ。

その症状は段階的に現れ、

軽度ならば頭痛や吐き気、

重症となれば気絶、

最悪の場合――死。


「っつ……これが、魔力切れ……か……?」


初級魔術の水球を、わずかにふたつ。

それだけでこの有様。

自分の魔力の少なさを、思い知る。


……もし最初から、上級魔術なんかを使っていたら。

――間違いなく、死んでいた。


寒気を覚えながら、さっき起こったことを振り返る。

水魔術を発動させたときの、あの感覚。

魔力の流れを意識し、手のひらに集め、

水球を――イメージした、ただそれだけで。


(……あれ? 俺……詠唱……してなくね?)


思い出せば、声は出していなかった。

頭の中で思い浮かべた“イメージ”だけで、魔術は発動していた。


教本には、こうあったはずだ。


――魔術の発動には、原則として詠唱が必要である。


だが、俺は。

確かに。

詠唱なしで、魔術を使ってしまった。


頭痛の残る額を押さえながら、それでも胸は高鳴っていた。

高鳴りが止まらない。


もっと試したい、知りたい、使いたい。

……とはいえ、今日はもう限界だ。


ふらつく足取りでリビングへ戻ると、すぐに鋭い睡魔が襲ってきた。

そのまま寝室のベッドに潜り込み、抗うことなく、眠りに落ちた。


***


「ルト……ハルト。夕飯が出来てるわよ。一緒にいただきましょう」


ライラの声に揺り起こされ、鼻先に漂う、食欲をそそる香り。

夕食の匂いに誘われる頃には、魔力切れによる頭痛はすっかり引いていた。


***


翌日の昼。

懲りもせず、俺はまた水魔術を使っていた。


詠唱なしで、三回、四回、五回。

台所の隅に向かって、水球を放っても――昨日のような症状は、出ない。


(……おかしいな)


教本には、魔力は年齢と共に増えるが、

魔術を使ったところで、魔力そのものは増えないと記されていた。


(あの本……結構テキトー書いてあるんじゃないか?)


疑いが湧く。


その日から、俺は家族の目を盗みながら、魔術の訓練を重ねていった。

魔術教本を読み耽り、魔力の流れをイメージし、ひたすら実験する。


そして、一ヶ月――。


分かったことがある。


まず第一に、魔術は使えば使うほど、魔力総量が増加する。

日を重ねるたびに、使える魔術の回数が増えていった。


第二に、無詠唱で魔術を構築すれば、制御力が飛躍的に上昇する。


たとえば、詠唱で水の初級魔術を発動した場合、

手のひらに水球が現れるものの、それを射出するしかできない。

それだけだ。


だが――無詠唱なら話は違う。


水球の形を自在に変え、魔力を多く込めれば巨大化も可能だった。

指先に浮かべたり、腕や頬を伝わせたりと、まるで意思を持つかのように動かせる。


(どうして……こんなにも便利な無詠唱魔術が主流じゃないんだ?)


ふと、ひとつの仮説が浮かぶ。


――詠唱とは、“誰にでも魔術を使わせるための仕組み”なのではないか?


魔力の流れやイメージを知らずとも、定型の言葉さえ覚えれば発動できる。

それなら、教えるのも簡単だ。

だからこそ、やがてそれが「常識」として根付いていった。


「詠唱こそが魔術の絶対条件」

――そう信じられるようになったのだろう。


詠唱が当たり前とされるこの世界で。

俺は今、魔術の常識を壊しつつある。


前世で渇望していた"特別な力"がこの人生ではある。


この力を無駄にしないために、後悔しないように、この人生で俺は努力をすることを決意した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ