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第85話 長いようで短い夏休み

イーディスの声が、風よりも静かに響いた。

「……ハルト……眼が……銀色になってる……!」


「銀色……?」

自分の指先で瞼に触れると、微かな熱と脈動が伝わる。

視界の奥で、世界の輪郭が淡く光を帯びて見えた。

山の空気が透き通るように澄み、あらゆる気の流れが見える気がした。


そのとき、背後から低く響く声が届く。


「――それは、龍の気が成熟した証だ。」


ライデウスが目を閉じたまま、静かに言葉を続ける。


「これでお前の龍の気は、今とは比にならぬほどに強く、そして大きくなった。

 だがその分だけ、制御は難しくなり……当分の間は、龍気を操ることすら困難を極めるであろう。」


淡々とした声に、重い現実と、それ以上の期待が込められていた。


「しかし――」

一瞬だけ銀の瞳が開き、静かに俺を見据える。


「それを乗り越えた先に、お前の求める力は見えてくるものだ。」


その言葉が山の空気に溶ける。


俺はふと、ライデウスの銀眼を見た。

そこに映るのは、自分が憧れ、追い続けてきた“頂”。

気づけば、自分の瞳にも同じ色が宿っている。

ほんのわずかでも、この存在に近づけたのだと思うと――

胸の奥に熱を感じる。


俺は深く息を吐き、身体の奥で燃える龍気の律動を確かめながら、

小さく、しかし確かな声で頷いた。


「……はい。」


ライデウスは、瞳を閉じて口を開く。


「……龍気も、剣気も。

 霊峰に留まらずとも鍛えることが出来よう。」


彼は銀の髪を風に揺らし、少しだけ目を細める。


「生きること――呼吸をし、歩み、感じる。

 そのすべてが、己を磨く糧となる。

なにも苦しむだけが修行では無い。」


その言葉は、山の空気と同じほど澄んでいた。


「ただ気を感じながら生きよ。それがお前たちにとって最良の修行であろう。 」


俺とイーディスは自然と頭を下げていた。


「……ありがとうございました。」


「ふ。気が向いた時にでも来るがよい。」

ライデウスはほんのわずか、口元を緩めた。

それだけで、空気が少し柔らかくなる。


その時、セレーネが一歩前へ出た。


「転移で送ってあげる。ラインハルトはスミカ村、イーディスは王都でいいかしら?」


その言葉に俺たちは「それでお願いします」というと淡い青の魔法陣が、彼女の足元に浮かび上がる。

風が巻き起こり、光が粒子のように舞い上がる。


「……ライデウス様、ありがとうございました。」


イーディスが再び深く頭を下げる。


「また、来ます。」


ライデウスは静かに頷き、

「その剣に迷いが生じたとき、また来るがよい。」


俺は一歩下がり、もう一度だけ銀の眼を見つめた。

――師であり、越えるべき存在。


「次会うときは成長を見せれるようにします。」


「ふ。期待しておこう。」


セレーネが軽く腕を振り、光が二人を包み込む。

霊峰の風が名残惜しげに吹き抜け、

ライデウスの衣を揺らした。


最後に、イーディスが振り返り、大きく手を振る。


「――さよなら、ライデウス様!」


光が弾け、

世界が静かに裏返る。


次の瞬間、霊峰の頂には再び静寂だけが残り、

ライデウスはゆっくりと空を見上げた。


「……ふむ。やはり、人の子というのは面白いものだ。」


微かに笑みを浮かべながら、

銀色の龍神は再び瞑想の姿勢へと戻っていった。




──こうして俺たちの、残り少ない夏休みは。

それぞれが“気”を感じ、制御を意識しながら幕を閉じた。

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