第5話 イメチェンはいつも唐突に
二人組の授業はその後も何度もあり、その度に例の女子と組んだ。
ちなみに、彼女の名前は月隠 姫というらしい。名字とさん付けで呼ぶのが俺のデフォだが、何故か調子に乗って名前で呼んだら反応してくれなかった。
調子乗りすぎた。思い出すだけで、自然と声が出そうになるほど恥ずかしいが、手を握りしめてなんとか耐える。
ただ、成功は挑戦なくして生まれないので、挑戦自体は悪くない。ただ、名前で呼ぶ間柄ではなかった。それだけのこと。
かなしいな。
少し気分が下がったが、こんな感じで、他人と話す機会を使って最低限のコミュ力は身についたと思われる、いや、思いたい。
そしたら、次のステップだ。
自分の容姿を変えようと思う。何も、整形するわけじゃない。普通に髪型を変えるだけだ。この日のために、コンタクトも用意しておいた。眼鏡生活とはおさらばだ。
形から入ることすらできないのが、陰キャぼっちだ。今は話せるようになったが、つい先日まではコンビニの店員にすらまともに受け答えできなかったからな。美容室など一人で行けるわけがなかった。
だからこそ、今日やっと重い腰を上げて美容室に行くのだ。
なるようになれと思い、勢いで美容室の予約を取ってしまう。
取ってしまったからには行くしかない。
美容院は初めてでかなり緊張する。
威圧感のようなものすら感じる。ゲームで言うところのラスボスくらいの覇気がある。
「いらっしゃいませ~。ご予約のお客様でしょうか」
「はい。15時に予約した明智です↑」
声が上擦ってしまった。恥ずかしい。今、俺の顔はひどく赤面していることだろう。
「奥から2番目の席へどうぞ〜」
言われた場所に座ると、自分の筋肉が強張っているのを感じる。
「髪型はどうされますか」
女性には慣れないが、少しは免疫ができた。一泊だけ心を整えて一言発する。
「おまかせで」
これは魔法の言葉だ。とりあえずこれを言っておけば良いと大きいお友だちに教わった。
しばらく時間が経つと、緊張が睡魔へと変換される。
「お客さん、こんな感じでいかがですか」
途中から眠すぎて半寝していたら、いつの間にか切り終えていたらしい。
視界の良好さと頭の涼しさに驚愕する。
人を髪越しではなく直に見るのは慣れなくてかなり気恥ずかしい。
「あっ、いい感じです……。」
「お客さん、とてもお似合いですよ。もっと自信持ってください」
美容師さんにお世辞でも褒めてもらえたので、ほんの少し気が楽になった。まぁ、髪を切ったからってモテるわけじゃないことは理解している。俺はそこまでバカじゃない。
ちなみに、髪型は何か知らんが、ツーブロックなるものらしい。
家に帰って手洗いうがいを済ませ、すぐに単語帳を開く。
習慣化したいことは自分の習慣や行動と結びつけることが良いと考えている。だから、起床就寝の前後や手洗いや風呂のときなどには単語帳を開くだけでもしている。
しかし、今までの自分への「過大評価」が分かる。習慣化なんて普通に努力すればできるだろうというある種の傲慢さが、現状を招いているのだろう。
常に受け身で、「強制努力」を「努力」と勘違いしていたツケだ。
そんなことを考えながら、単語帳を閉じて与えられた宿題をこなす。課題は先延ばししないほど「楽」なことに最近気がついた。
締め切り効果で答えを写して乗り切っていた頃が懐かしい。あのときは深夜1時から朝5時まで2年分の過去模試の答えを写していたっけ。非効率というより無駄でしかない。
普通に取り組んだ方が「楽」なんだ。
自分で自分の首を絞めていることに気がつかず、他責思考に陥っていた自分に面白さすら覚える。
それに気がつくことができたことも一種の変化の現れというべきか。




