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第10話 地雷の場所は人による

『そんなだからモテない』


 頭の中で反芻し続ける。


『モテない』『モテない』『モテない』『モテない』『モテない』『モテない』『モテナイ』『モテナイ』『モテナイ』『モテナイ』『モテナイ』『モテナイ』『モテナイ』『モテナイ』


 ときに高速に、ときに鈍足に、反響が鳴り止まない。


 次第に吐き気すら覚える。


 地面が揺れ動いているかのように感じ、手を机で支え、片膝を床についてしまう。


 周囲の雑音や声を脳が拾いつつ、言葉としてではなく、滑らかで鈍い、意味のない音として認識する。


 ……インフルエンザに罹ったときに似ている。あのときはまだ妹と仲が良かったんだっけ。妹に看病してもらった覚えがある。


 風邪が移ると悪いから離れていろって言っても聞かなかったっけ。ははっ懐かしいな。


「大丈夫?」


 声がかけられている気がする。少しずつ、思考の世界から現実の世界へと自分を引きずり戻す。


「……あぁ、小鳥遊さんか。大丈夫……。大丈夫だから」


 何とか声を振り絞る。他人からの心配を受けたくないと脳が自動処理をする。声を出すだけで良い。脳が勝手に最低限の文章を作ってくれる。


「大丈夫には見えないよ。顔色も悪いし。ほら、保健室に行こっ?」


「いやっ、本当に大丈夫だから」


「分かった、じゃあ、あたしもここにいるから」


「何で?」


「心配なのっ!」


「……マジで帰って大丈夫だから。寧ろ、一人にさせてくれ」


「……いいからいいから。無理に喋らなくてもいいし」


「なら……」


 数分か十数分か経って、気分が良くなる。依然としてテンションは低いままだが、精神は安定した。


 気遣いが心に沁みる。この心優しきクラスメートは小鳥遊(タカナシ) 日向(ヒナタ)。ほんの少しふくよかな体型をしている女子だが、十分健康的な範囲に入る。

 こんな失礼なことが考えられるくらいには調子が戻った。


「もう大丈夫」


「じゃあ帰ろっか」


「あぁ、……ありがとう。」


「ううん、どういたしまして」 


「じゃあ、また」


 そう言うと、荷物を取り、一人で帰ろうとする。


「ちょっ、ちょっと待ってよ」


「うん…?どうかした?」


「『一緒に』帰ろうよ」


「…別に構わないけど、同じ方向なん?俺、電車通学だからA駅に行くんだけど」


「私は徒歩だけど、そっち方面だから、途中まで一緒に帰ろう」


「…じゃあ、行こうぜ」


「うん!」


 他愛もない話しをしながら、上履きからローファーに履き替え、外に出る。




 雑談をしたのが気晴らしになったのか、テンションが戻ってきた。


「う~ん。やっぱ一番好きなのは天津飯だな~。あの酸味の聞いた甘酢餡が美味い。量が多いと少し飽きちゃうけど。天津炒飯なら飽きずに食べられる」


「あ~、私、卵アレルギーだから、天津飯とか食べたことないんだよね~」


「そうなんだ…。じゃあ、ヴィーガンエッグっていうやつを使って食べてみると良いんじゃないか。」


「ヴィーガンエッグ?」


 名前だけ聞くと敬遠しそうだが、そんな大層なものでもない。


「植物性で、卵アレルギーでも食べられる卵みたいな何か。まぁ、味は保証しないけど、天津飯の本体はタレみたいなところあるしな」


「へぇ~、そういうのもあるんだ。今度作ってみようかな。一度、オムレツとか食べてみたかったんだ〜」


「いいじゃん。いいじゃん」


 あくまで食品にはその食品の良さがあるから、完全に代わることができるものは多分あまりないけどね。という言葉は呑み込む。


 言わぬが華だ。これは数少ないコミュニケーションから学んだことで、こういうちょっとした気遣いのようなものが良好な人間関係を作ると最近気がついた。


「他にも、豆乳は牛乳の代替品として料理に使えるし、生クリームだって豆乳にサラダ油とかレモンを入れれば作ることができる。意外と代替できるものはあるんだよ」


「へぇ~、知らなかった~。でも、サラダ油入れちゃうの?何かちょっとカロリーとか大丈夫かな」


「別に、絶対必要ってわけでもないらしい。レモン汁を入れれば固まるそうだ。風味的にはバニラエッセンスを少し入れるといいとか」


「へぇ~、物知りだね。普段、料理とかしてるの?」


「う~ん、たまにね。MeTubeの動画とか見て、作りたいもの作っている感じ」


 MeTubeは大手動画投稿サイトの一つだ。無料なので、暇なときはつい見てしまう。


「どんな動画見てるの?」


「お肉を1ヶ月何かに漬けて熟成させた動画とか、野草とか外来種の魚をとって食べた動画とか色々かな」


 今度、ソロキャンとか釣りとかしてみようかな。そういうアウトドアなことは一切したことがないが、興味はある。手を出す勇気はまだないが。

 他にも、ASMRを聞いているとかは流石に言えない。


「随分個性的だね。私は犬とか猫とか、そういう動物の動画しか見てないな~」


「あぁ、何かそういうのって不思議と癒やされるよな~。飼い主が外出したと見せかけてベッドの中にいるドッキリとか、つい見ちゃったりしてね」


「そうそう。ちょっといじわるしたときの反応とかカワイイんだよね。………あっ、私こっちだから、じゃあまた明日、バイバイ」


 交差点に差し掛かる。信号を考えるとここはついて渡った方が効率良いが、別れの挨拶をした手前、ついていくと気まずくなる。


「あぁ、じゃあまた明日な」


 手を振り返して信号が切り替わるのを待つ。




 その後、特に何事もなく帰宅し、手洗いうがいを済ませ、勉強机に向かう。


 いつの間にか交換したLANEにスタンプでヨロシク、と送る。


 渡る世間に鬼はないとは言うが、全くその通りだな。


 ……俺も人に手を差し伸べられるようになると良いな。

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