第三話 第一キャンプ奪還戦 (前編)
女が一人、ピョンピョンと高く跳ねながら二人に近付いてくる。重力の影響が薄いフワリとした跳躍。
彼女は二人の前に着地する。木製の橋がトンと軽い音を立てた。
「や、二人とも。無事で何より」
青いシャツにズボン。ギルドの制服に剣で武装したメイヤーが現れた。
「メイヤー! これは一体なにごとなのお!?」
「あ、レーノ様の元カノですわ」
モルガンの不意打ちにメイヤーは噴き出した。口元を袖で拭いて、焦る声で否定する。
「な、何を邪知してるのか知らないけど全然そんな関係じゃないよ? 全然違うよ?」
「え~? ホントかしら~? 変な信頼関係を感じる気がするのですけれど~?」
「メイヤーとは一時期パーティーを組んでたことがあるんだ」
「へえ、つまらん回答ですわ。ね、メイヤーさん」
「んー? 何のことか分かんないな? まっったく分かんない」
「ただの戦友だってばあ」
「その戦いはまだ続いてるみたいですわよ。ね、メイヤーさん」
「わ、分かっ……も、もう許して……モルガンちゃん……」
レーノはメイヤーの過剰な反応を疑問に思ったが、今は雑談をしている場合ではないので流す。
「で?」
「それがね、〝二の森〟のモンスターたちが一挙して襲撃してきたんだよ」
「ま、モンスターも徒党を組みますのね」
「や、普通は組まないけど」
「そう、圧倒的な力を持ったリーダーが生まれない限りは、あり得ないはずなんだ」
モルガンはポンと手を打つ。
「鳥さんたちのうちの一体がリーダーになったのですわね! 闘争心が高かったけれど後半エリア相当の強さという話でしたし、なるほど道理ですわ!」
「そうだとして、なんでキャンプを襲うんだろ……変な話だなあ」
「ピンポーン!」
「はいモルガンさんどうぞお」
「キャンプをリゾート地と勘違いした!」
「メイヤー、〝ナンバーワン〟は? 大抵はここに誰かいるでしょ。ランは?」
「答えさせておいて無視!!?」
メイヤーは振り返って火の手の上がるキャンプを見る。
「ランは結構頑張ったよ。その、鳥さん……〝モドリドリ〟と名付けられたけど、三十体はいたモドリドリのほとんど全てを一人で倒した。ただ、ひときわ強い個体、リーダー個体にだけは敵わなくて。今はキャンプのどこにいるのか分からない」
「ランが……負けた!?」
モルガンはレーノの様子から、それがかなりの異常事態であることを察した
——ランと言うお方は、〝ナンバーワン〟で一番腕が立つ方のようですわね。レーノ様はエーテルを四分の三使ってやっと三体無力化した程度だった。ラン様は三十体倒したというなら、なるほど確かにレーノ様よりよっぽど強いですわ。
「〝跳ねる死体運び〟は。メイヤーが居るなら他にもいたんじゃ」
「既にあった死体を街に運ぶのを優先した。残ってるのは私だけ」
「これはどうしたものかしら、レーノ様」
モルガンが腕を組んでうーんと考え込んでいる。
「第一キャンプは迂回して、仕方ないですが野宿するといたしましょうか」
「どうして?」
「だって、わたくしの依頼を優先していただけるのでしょう? まさかいたずらにわたくしの身を危険に晒すと?」
レーノは一瞬だけ考える素振りを見せたが、すぐに申し訳なさそうに微笑んだ。
「いやーごめん。流石に見過ごせないなあ」
モルガンの頬が上がる。
「当然!! そうでなくてはわたくしの従者は務まりませんわ! 共に第一キャンプを奪還いたしましょう!」
「従者ではないんだけどねえ!?」
「ほら、いきますわよ!」
三人はキャンプへ向かう。メイヤーはレーノのやれやれという苦笑いを一瞥してから、モルガンにぼそっと呟いた。
「……モルガンちゃん、いい性格してるね」
「誉め言葉と受け取りますわね。メイヤーさんもお茶目で可愛らしいですわ」
「ふふふ。私は大真面目にやっているのだよモルガンちゃん……」
「隊列を崩すなよ!」
「了解!」
三メートルはあろうかという巨大カマキリに四人のパーティーが臨む。前衛に剣と盾、後衛に弓と杖。隊長の剣士が大立ち回りで注意を引き、弓手が急所を狙う。盾使いの陰で術師が杖を振れば、地面はぬかるみカマキリの動きが鈍る。
「貰った!」
弓手の矢がカマキリの右の複眼を砕き、続けて隊長が足の一つを切り飛ばす。
「まだまだあ!」
「行ける、これなら勝てるぞ!」
盾使いが喜んだのも束の間、カマキリの反撃で術師の身体が両断された。その攻撃のあまりの素早さに、盾使いは全く反応できなかった。術師の呻き声に振り返ったその背中を続けて突き刺される。
残った二人には絶望の表情が浮かんだ。
カマキリの次の攻撃は弓手に振り下ろされた。自然界最速の攻撃。それは銃弾よりはまだ遅い。
カマキリの右腕が爆ぜる。攻撃は中断されたがその刃に傷はついていない。
「おおー。固いじゃーん。キミ本来の〝二の森〟最強クラスだねえ」
真っ黒なパーカーを羽織ったレーノが夜闇に紛れながら射撃を続け、カマキリの注意を引く。
「あとは任せたよメイヤー」
カマキリの背後、右目側。高く跳ねるメイヤーの周囲で、複数の剣が高速で〝回転〟し、残像が円を作っている。メイヤーはその半径を広げて、カマキリの首を続けざまに斬りつけた。
カマキリの首が落ち、遅れてメイヤーも着地する。巨体が崩れ落ち地面を揺らした。
「よし! これで勝ち!」
弓手と隊長が二人のことをまじまじと眺めている。
「〝彫刻家〟と——」
「〝首刎ね兎〟」
メイヤーは五枚の軽くて薄い剣を束ねて腰に下げた。レーノがカマキリの死体を踏み越えてくる。
「結局その物騒な呼び名、広めてんのお……?」
「かっこいいでしょー」
隠れていたモルガンが合流する。
「そういうのって自分で広めるもんですの? 〝彫刻家〟もまさかレーノ様が自分で考えられたのかしら?」
「普通は勝手に呼ばれ始めるもんだと思うよ。俺もそうだし。まあ……メイヤーが例外なだけかなあ……」
「理解しましたわ。メイヤーさんも中々……」
「な、なんだよ、いいじゃんか別にそういうのも!」