第二話 第一域〝二の森〟 (後編)
レーノはエーテル石を右手に持って地面に押し付ける。彼の足元から真っ黒な鋼鉄が生えてすぐに伸び、レーノを高い位置へと連れて行った。
「あら、レーノ様、大技ですわね」
植物のように伸びたそれは枝葉を広げ、一本の木を模した形になった。葉っぱの陰に隠れた巨鳥たちは、レーノの姿を目で追いながらも、しかし様子を見ている。
枝葉の間から蔓のような鉄線が何本も降りる。巨鳥たちは警戒してそれらをつついたりするが、それはただの細くて脆い金属であって、何の害も無かった。蔓は続けて幾つも降りてくる。
少しして、何もないようだと判断した巨鳥たちは再び攻撃に出ることにした。木の頂上を狙うため翼を広げる。
「よし」
レーノは鋼鉄の木の上からモルガンに声をかける。
「モルガンさーん! 最初の蔓が降りてから何秒経った?」
「え? えっとー、十秒は経ちましたわ!」
「おっけい! それなら多分大丈夫なはず!」
蔓の全てが突如意志を持って動き出し、巨鳥たちを捉えるように動き出した。巨鳥たちは危険を感じて能力を発動する。可能な限り過去まで遡って、この樹の下から離れるように自分の身体に命令を下す。
モルガンは、巨鳥たちが瞬間移動して、しかしそれでもなお別の蔓に絡まっているのを見た。鳥たちは藻掻いて何度も瞬間移動するが、蔓の範囲内からは逃れられない。
レーノは蔓の1本を伝って地面に下りた。
「なるほど、〝彫刻家〟の二つ名はこのこと。〝創造〟のエーテルではこういったものを作れますのね。銃弾で相手を彫るから彫刻家なのかと思っていましたわ」
「発想がこわ~。まあそうだね、今回は動的な要素もあって中々いいオブジェができたよ。俺的点数だと83点ってところかな」
「しかし真っ黒ですわね」
「そう? じゃあ彩も足しちゃおうか」
レーノが軽く手を振ると、鋼鉄の木は七色に光り始めた。疲れた巨鳥たちが光る蔓にぶらぶらと吊るされている。
「失礼。ダサいですわ」
「え……カッコよくない……?」
「よくない。今すぐやめてくださいまし」
「そ、そんな。俺、この七色の光を表現するために発光するタイプのモンスターを解剖し続けてきたのに」
「それ徒労ですわよ。もしやレーノ様、美的センスが……?」
「フッ……」
レーノは鼻で笑うとしぶしぶゲーミング発光を解除した。
モルガンは、レーノの想像以上の落ち込み様に困惑する。
——き、傷つけてしまったみたいですわね。よく言われるのかしら。
「あ、そうだ。鳥さんを捕まえたカラクリをお教えいただけますか?」
「あー、えっとねえ」
レーノは顎に手をやり少し考えながら回答した。
「こいつらの能力は〝過去の自分の行動を変える能力〟。第六エリアでたまに見る能力だね」
「賭け事において最強の能力来ましたわね」
「モルガンさん賭博やんの……?」
「あっ……やりませんわ」
「そ、そう……? ともかくえっと、それが今回は、十秒以上遡ることはできなかったってこと。可能な限り過去に遡っても、そのとき既に蔓から逃れる選択肢は残っていなかったんだ」
「それはおかしいですわ? 蔓が動き出したのは鳥が能力を使うほんの直前だったんですもの。十秒前にはただの柔らかい鉄線だったはずです」
「内側の蔓は柔らかいけど、外側の蔓はかなり強く固定しておいたんだ。内側の蔓が無害と判断されていたうちから、外側の蔓は鳥を包囲していたってこと」
「なるほど感服ですわ。レーノ様の戦術、どこで学びましたの?」
「実は学校ではないんだよねえ」
それからは二人に大きな戦闘は無く、夕暮れには第一キャンプに到着した。
「わたくしの銃が火を噴く機会、ありませんでしたわね。残念ですわ」
——この子、血の気が多すぎない? こっから先大丈夫かなあ。不安になってきたよ。
「そういえば、レーノ様はさっきの戦闘で石のエーテルをどのくらい使いましたの? 〝創造〟のエーテル消費は、創ったものの大きさとか破壊規模とかに寄るんじゃなくて?」
「もう四分の一くらいしか残ってないかな。でも一晩経てば大体は回復するからだいじょーぶ」
「〝創造〟のエーテル石では何だって作れますの?」
「何でもは作れないよ! 例えば平和な休暇とか」
「イエスと受け取りますわね」
「構造とかちゃんと勉強して詳しく理解したものならねえ。だから腕は創れても脳は創れないんだあ」
「脳はダメでも腕なら創れる……」
「切れたばかりなら繋がるように創ることもできるよお! まあ流石に完全再現はできてないから次第に腐っちゃうんだけど。でも街で治療系のエーテル石を使うまでの時間稼ぎくらいにはなるんだ! 俺の付けた腕は千切って新しいのをまた生やすんだよお」
「冒険者グロいですわね~」
二人は森を抜けて大河に出た。茶色く激しい水が流れている。橋を渡って中州に入ると第一キャンプがあり、その向こうが第二エリア。〝二の森〟とはまた雰囲気の違う森が広がっている。
「今晩は第一キャンプに泊まりますのね」
「うん。一日で来れたのは結構運が良かったね。野宿回避だ」
「初めの方に鳥さんと戦った以外は平和でしたものね。大樹とか綺麗な泉とか寄り道させていただいて、普通に観光しちゃいましたわ。楽しかったです」
「お褒めに預かり光栄です。それで稼いでいたもので」
川辺の大橋にかかる。橋の向こうに中州がある。中州と言っても相当の大きさで、常に数十人の人間が寝起きして活動している。自然の障壁である大河と、ハイクラスギルド〝ナンバーワン〟に守られ、モンスターの脅威に晒されることは全くない。
二人は大橋の途中まで来て、キャンプの異変に気が付いた。
「建物に火が上がってんねえ」
「巨大なトンボとカマキリが建物を破壊しまくってる姿が見えますわ。白昼夢かしら」
キャンプは陥落していた。
「新しいキャンプにアップグレード中だという可能性はありませんこと?」
「間違いなくダウングレードだよねえ」
「星評価は低めですわー」