第二話 第一域〝二の森〟 (中編)
モルガンが指さす先、道の先に陣取っている鳥がいる。全長は二メートル弱、白い体毛に覆われてシルエットは丸い。突き出た嘴だけが鳥であることを主張している。
「おおー。ありゃあ随分と堂々としてる奴だなあ」
「珍しいのかしら」
「そりゃあんなに堂々としてたら誰かに倒されるからね。逆に倒されないってことは何か秘密があるんだと思うなあ。ちょっと隠れててくれる?」
モルガンはレーノの背中に隠れる。
「ここでよろしくて!?」
「よーしいいよお」
レーノは銃にエーテル石を添える。弾丸を〝創造〟するために。
「まずは普通の弾丸で」
発砲。鳥の位置が僅かに右にずれて、紙一重、銃弾は空を切った。
「ま。かわされましたわ。動きが目で追えませんでした。かなり身のこなしが軽いみたいですわね」
「いや早すぎる。瞬間移動ってやつだねえ」
――爆発の半径は衝撃が自分にかからない最大の範囲で……。
〝創造〟のエーテルで生み出された物は、創られてから少しの間は構造の変化を受け付ける。
放たれた銃弾は着弾までの間にその構造を超速で変化させ、極小の爆弾と化した。
銃弾は巨鳥の位置で爆発する。モルガンの長い金髪が風に浮かんで後ろへたなびく。
「やったかしら!?」
「いや、うーん」
レーノが見上げると、白い巨鳥は木のてっぺんにちょこんと座って二人を見下ろしていた。依然無傷。
「……これがおかしいことなのはわたくしにも分かりますわよ、レーノ様」
「うん。弾丸が爆発するってバレてるとしか思えない動きだったねえ」
**
「過去改変、だね」
第一キャンプ。大河の中州を拓いて作ったそこには、レンガ造りの建物がいくつかあった。そのうちの最も大きい施設、ギルド協会の第一キャンプ支部。その二階の一室で、冒険者らが体毛まみれの巨鳥の死体を捌いていた。
「このモンスターの身体から獲れるエーテル信号は一種類だけ。いくつも信号の系統がある訳じゃあない。となるとコイツの戦法を解釈するには、僕らの知り得る手段だと過去改変しかないね。自分の行動に限り、過去を変えることが出来る。攻撃を受けた瞬間に、過去の自分の行動を改竄する。我々には、攻撃をした途端、彼らが瞬間移動した様に見えるわけだ」
第一キャンプにはこの鳥の被害に遭った冒険者たちが多く運び込まれていた。〝跳ねる死体運び〟の人員の姿もいくつか見える。彼らは動かなくなった人間を大布に包み肩に抱えて、枝の上を跳ねて街へ帰っていく。
実際に巨鳥を捌いていた冒険者――ハイクラスギルド〝ナンバーワン〟のリーダー、ランは考え込んでいる。
「こんなに強いモンスターが〝二の森〟にいるのは不自然だね。しかも、一匹じゃないんでしょ?」
隣の女が頷く。
「群れで襲われたって報告もあるわね」
**
レーノとモルガンは全力で疾走して三体に増えた巨鳥から逃走していた。
巨鳥の一羽が彼らの頭上に追いつくと、それはきりもみ回転しながらレーノに落下した。レーノは的確に撃ち返すが、銃弾は空を切り、巨鳥は代わりにレーノの側面から衝突する。
レーノは一度吹っ飛ばされたが、体幹で姿勢を直して足から着地した。とはいえそれだけでは衝撃を逃がしきれず、一度バク転を挟んで、それでもなお地面にはブレーキ痕が残った。
「今のは流石におかしいよなあ! 上からの攻撃が横からの攻撃に変わったんだけどお!」
――しかも、きりもみ回転無しの真っ直ぐな突撃に変わってた。横から攻撃するなら滑空した方がスピードが乗るからその方が道理だけど、瞬間移動したならきりもみ回転は継続していなきゃおかしい。きりもみ回転の落下攻撃そのものが無かったことになった。こっちの対処を見てから、時を遡って別の選択肢を選んだみたいだ。
「こりゃもう過去改変で間違いなしだあ!」
モルガンはレーノの高度な受け身に対して、棒立ちで拍手している。
「凄い身のこなし、流石のハイクラスですわね。ハイクラスギルドというものがどれぐらい凄いのかはいまいち理解してないんですけれど」
「百はあるギルドの頂点だよ! というかさっさと俺の傍に来てくれる!? 危ないからあ!」
「それがどうやら、わたくしは狙われないみたいですわ」
**
「堂々と道の真ん中に現れるのはなんでなんだろうね?」
「そんなの人の味を覚えたからに決まってるわよ」
「うーん、でも、奇妙な報告もあるんだよね。『攻撃しない限りは攻撃されない』とかさ。これを踏まえると……」
**
「レーノ様! こいつら闘争を楽しんでるんですわ!」
「そうみたいだねえ! ぬおおおおお」
レーノは三体の巨鳥に囲まれて、打撃やら刺突やらを受け続けていた。モルガンは外から応援する。
「こいつらの目的はあくまで闘争。わたくしは戦闘能力が無さそうだから狙われませんのね。だからレーノ様、わたくしは助太刀できませんわ~?」
「その通りだけどそっちから言われるとなんだかなって思います!」