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モルガンは自分のことを騙りたい~迷宮に挑むのは冒険者とお嬢様~  作者: うつみ乱世
一章 冒険者とお嬢様の出会い
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第一話 冒険者とお嬢様 (後半)

 ギルド管理協会一階の依頼斡旋所。日暮れの時間、仕事帰りの冒険者たちがクエストの報告に訪れ、多少の賑わいを見せている。剣を持つ者、盾を持つ者。銃を背負う者もいれば、杖の先にエーテル石を埋め込んでいる者もいる。


 彼らはレーノの姿を見ると、一様に雑談を止めて息を飲んだ。


 依頼所の入り口、レーノの隣のモルガンは、フロア一帯の注目が集まることに困惑した。


「な、なにかしら?」


 男が一人、レーノに近付いてきて声をかける。


「話、聞いたよ。災難だったな。ご愁傷様」

「ああ、大丈夫だよお。ありがと~」


 レーノは多くの人物と一言二言ずつ交わしながら受付へ向かう。誰も彼もレーノを慮る言葉を残していく。


「あ、あの、あなた何かありましたの?」


 レーノは困ったように笑う。


「ちょっとギルドが全滅しちゃってねえ。俺だけ生き残ったんだあ」


 モルガンはハッと口を抑える。


「それは、申し訳ありません、無神経なことを聞きましたわ」

「いやいいよ、大丈夫。昨日一日寝込んだけどそれでもう十分だから」

「昨日寝込んだってことは、全滅は一昨日のことなのかしら!? それにしては口調が軽すぎますわ!?」

「まあまあ。この街ではよくあることってわけよお」


 二人は受付に着く。


「で、クエスト受けるの?」

「受けませんわ!」

「う、受けないのお?」


「あ、モルガン様」


 受付嬢の一人が声をかけた。


「モルガン様、お時間よろしいですか。依頼のことで少しお話がしたいのですが」

「私も依頼のことで訪れたところでしたから構いませんわよ。何かあったのかしら?」


 受付嬢はモルガンの隣のレーノを覗いた。


「な、なにい?」

「い、いや……」


 受付嬢は続ける。


「あの、それが、モルガン様の依頼に適するとされていたギルドが、無くなってしまったんです。モンスターに襲われて……全滅してしまって」


 モルガンとレーノはじわじわゆっくりとお互いに目を遣った。それぞれポカンと口を開けている。


「今この街にはモルガン様の依頼に見合う実力のギルドはいませんので、一旦依頼は取り下げていただき、納められていた褒賞金、その前金を返還させていただきたく……」

「い、いや確かに、そのつもりで来たのはそうなのですけれど……」

「ねえー、〝ナンバーワン〟はなにしてんの?」


 レーノが割って入った。受付嬢は困った顔で返す。


「一部メンバーの里帰りがあって人員を捻出できないらしいです」

「あー、それは仕方ないなあ。〝宵の明星〟はあ?」

「分裂しました、一週間前に。しばらくゴタついているでしょう」

「えっそうなんだあ……。じゃあ〝アタラクシア〟は……第六キャンプ設置だよねえ。そっか。〝跳ねる死体運び〟は流石にいけるでしょ」

「それがかなり強い態度で拒否されました。自由に動かせる人員は今、ほとんどがギルドマスターの新事業に駆り出されているそうです。建材の流通業を始めるそうですよ」

「アイツらもう冒険者辞めろよお……」


 レーノは鼻で笑った。天井を経由しながらモルガンに視線を戻す。


「じゃあダメだなー! えー、キミ、どんな依頼をしたのお?」


 モルガンは手を前で組んで肩をすくめている。


「わたくしをその、新しく設置される第六キャンプに連れていけという依頼ですわ。簡単な依頼と思ったのですけれど、難しいようですわね」


 依頼所にたむろしていた冒険者たち――受付のやり取りに聞き耳を立てていた彼らは、その依頼内容にみな同様に驚いた。


 レーノの所属していたギルド〝がらんどう〟は観光客を護衛していたわけだが、しかし彼らは第三エリアまでしかサービスを行っていなかった。第三キャンプ以降――つまり第四エリア以降に素人を連れて行くのは不可能だと判断していた。リスクが勝るのである。


 対してモルガンの提示した目的地、第六キャンプは第六エリアの終端にある。


 後半エリアの経験者たちは素人を警護しながら進むことができるかと想像した。


 ――無理だ。それこそ〝がらんどう〟クラスのギルドが全霊を賭してこそ可能になる依頼だろう。


 レーノも同じことを考えていた。


 ――ああー。それは、無理だろうねえそんな依頼は。護衛人も依頼人も死ぬのがオチだよお。


 レーノの身体がブルリと震える。


「でも仕方ないですわね。元々取り下げるつもりで来たわけですし、変わりません」


 受付嬢はモルガンを奥の部屋へ連れて行こうとしている。


「ではレーノ様、ここまでありがとうございました。失礼いたします」


 レーノはぼんやりとそれを眺めている。


 そのとき、二階から吹き抜けを通して一部始終を見ていた女が一人、レーノに大きな声をかけた。


「レーノ!」


 レーノはハッと気付いて声の元へと目を向けた。そこには彼の知り合いの女が一人。


「こんな無茶な依頼、〝がらんどう〟っぽいんじゃない!?」


 女は手すりに身を乗り出して声を張っていた。その爽やかな声にレーノの身体がピリピリと震える。


 ――この震え……違う。怖いんじゃない。うそ、武者震いだ、これ。


 レーノの口角が僅かに上がる。


 ——仲間も恩師もみんな死んで、それでもまだ、俺は危険に愉しさを見出すってのお? いやー、いやいや流石にそれはない……ないってえ……。


 レーノはハハッと軽く笑うと、口角を上げてモルガンの方へ向き直った。


「ねえモルガンさん」


 振り返ったモルガンはレーノに期待の目を向けながら、密かな笑みを浮かべている。


「はい、なんでしょうか」

「もしよければ、俺に命を預けてみない?」


 レーノの言葉を受けてモルガンは、微塵も思案せずにフフンと鼻を鳴らした。腰に手を当てつつ逆の腕を広げ、一つ空気を吸い込み、そして力強いオーラを一気に発散した。


「自己紹介ですわね! わたくしの名前はモルガン・フォン・ジェリア! 東の大君、オランドが娘!」


 声量か、声質か、声色か。ともかく彼女の声は、とてもよく伸びて空間に響いた。


「わたくしにかかればどんな障害だって困難だって、ティータイムのスコーンを切るほどに容易く成し遂げられるものです!」

「よしきたあ! 俺はレーノ・ロジデート。ギルド〝がらんどう〟の銃撃手。〝彫刻家〟と人は呼ぶ。この俺が、君の依頼を承ったあ!」

「ではレーノ様! わたくしの命はあなたに預けられました。ここからは一蓮托生! わたくしを無事に、第六キャンプまで送り届けなさい!」





 二階から声をかけた女は、レーノが依頼を受けたのを見てほっと胸をなでおろした。彼女は、ふと吹き抜けの反対側にも同じように見下ろしている人物がいることに気付いて目を向けた。彼女の視線に気付くと、背を向けて去って行った。その人物の表情も――モッカの顔も、レーノの再起を喜ばしく思い、柔らかくほころんでいた。





 こうして、冒険者とお嬢様は、二人で世界の果てを目指すことになったのである。


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