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第十二話 昇降機に集ったものたち (後編)

 スーが片指を空に掲げると雨水が指先で球となり、指を振り下ろしたなら水球から水鉄砲が発射される。レーノは黒いマントを羽織りそれを翻して攻撃を受けたが、攻撃はマントを貫通してレーノの背中を大きくえぐった。


 ——ックソ、防げないかあ!


 レーノはすぐさま削られた分の身体を〝創って〟治してしまう。


「フフフフ。相変わらず削りがいがあるわねえ!」


 マントの陰から銃口が覗き、雨中に火花を起こす。弾丸はスーの首に当たるが、貫通は叶わず弾かれた。直後、閃光と共に爆発してスーの目を潰す。


 レーノはマントを細かく分割して十二羽のツバメとし、形作られたところから順にスーの頭部を目掛けて飛ばした。しかしスーの周囲の雨が一層強くなって、ツバメは全て撃ち落とされる。


 ——いやー、この距離だと攻撃が届かないんだなあ。


 視界を回復したスーがレーノに鋭い目線を向ければ、滝のような豪雨は次にレーノを襲った。レーノは傍の床から自分に向かって柱を伸ばして自分の身体を突き飛ばし、昇降機の外に飛び出たところ、創った鷹の足を片手で掴んで空を飛ぶ。


 レーノはすぐにスーの頭上の位置を取る。


「仲間が生きていた時の動き! もう連携はできないのに哀れね!」

「その性格の悪さ、一周回って好きになっちゃいそうだなあ!」


 鷹の身体が翼の端からいくつもに分かれ、順番に落下する。それはどれも落下中に筒状の物体に変化すると、スーの頭に着弾次第爆発を起こした。最後にレーノがスーの頭に巨大なドリルを叩き込んだ。しかしそれでも分厚い肉を貫くには至らない。


「あなたの強みは手数と器用さ。攻撃に出ようなんて思っちゃダメじゃない」


 スーはレーノを振り落とし、対してレーノは新たな鷹を創ってスーの周囲を巡る。


「はっはあ。余裕こいてていいのかなあ?」

「なんのこっ——これは」


 ズキリとスーの頭に痛みが走る。


 ——毒ね。


「やるじゃないレーノ。でも痛みはもう引いたわよ」

「え゛」


 レーノはなんならこの毒で仕留める気でいた。


 ——俺の創れる全力の毒なんですけどお! 第六エリアですら通じるんだけどなあ!


「ほらほら。あと何回それを当てれば私に勝てるのかしら?」

「ひいー! ご容赦くださーい!」





 制御盤近く、倒れたベルカの傍。モルガンはレーノの戦闘を見たい気持ちをグッと抑えながらネクスィの説明を聞いていた。


「……機構の解説はここまで。次はエーテルだけど、この剣は〝熱〟のエーテル石を三つ繋げて使っています」

「三つ!? 二つ目以降のエーテル石は協会の補助が効きませんわよね!? 複雑な機構に高価な燃料に、この剣下手したら一億はするんじゃ」

「まだローンは返済中ですね……じゃなくて。問題は『エーテル石の連結』です」


 ネクスィはスロットの奥に腕を突っ込んでエーテル石を三つ取り出した。


「同時に発動できますか?」


 モルガンは石に意識を向けたが、ネクスィは首を横に振る。


「一つしか働いてません。自分の身体のエーテルを三倍回してください」

「エーテルを回す……というのを、意識したことがないですわ。何かコツとかあるかしら?」

「え? う、うーん。気合と、運……?」

「そういえば冒険者ってこんな感じでしたわね」


「普通は一年二年かけて訓練するものですから、正攻法ではダメなんです! 気合と勘と、あとは、感覚が天から降ってくるよう神へ祈りましょう。まずは二つ同時発動から。ほらほら意識を向けて」


 モルガンは無茶な要望に困惑しながら、ともかく頑張ってみる。うんうんと唸っている。


「あ、ちなみにエーテル石の連結は体にかなりの負担を強いるので、覚悟しておいてください」


 ——この人モノを教えるのに向いてないですわ! レーノ様、恨みますわよ……!





 尻尾で掴まれたレーノは昇降機に力強く叩きつけられた。肺が破裂する。


「出す技が次第に地味になっていっているわよ。石を一つしか持ってないのね」


 レーノは全身からダクダクと血を流して、膝を震わせながら立ち上がった。


「逆に、そっちはなんなの、この規模はよお。無茶苦茶やりやがって……こんなんやろうと思えば簡単に街を落とせるじゃんかあ」

「その通りよ? それが?」

「そりゃあ強いわけだあ……」


 レーノはふと脱力したおり、片膝をついてしまった。もう足に力が入らない。


「誉め言葉をありがとね。お疲れ様。多少は楽しめたわ」


 スーが尻尾を振り下ろす。

 しかしその直前、レーノは横から押し飛ばされて、誰かが代わりに潰された。スーは奥の手があったのかとレーノを見るが、レーノも何事か分かっていない。


「ツッ――!」


 スーの尻尾に針が刺すような痛みが走った。つい尻尾を引っ込める。


「また、毒——!」


 頭から血を流しながら、膝をついてクレースが立ち上がった。左手には毒のナイフが握られている。


「ああー、いい気分だわ。血があったかいわね」

「ク、クレース。助かっ……たよ。カスカルは?」

「他のパーティーの船と合流したから預けて来た。それからカスカルの〝座標〟で少し距離を短縮して、他より早くこっちに着いたわ」


「女ァ……邪魔しないでくれる……?」

「で、私は何をすればいいの?」

「この蛇の注意を引いて隙を作ればいいかなあ」

「はんっ! こんなザコの相手なんて朝飯前ね!」


 クレースは〝再生〟のエーテル石をレーノに投げて渡した。


「アンタは後衛バックアップでしょ。ザコなりに前衛フロントの露払いくらいはしなさいよっ!」


 エーテルによって痛みが治まり、レーノは膝を立てて銃を構えた。スーは二人を尻尾で貫かんとし、腕も振り下ろす。

 クレースは超質量の尻尾に剣を構え、すり潰されるぎりぎりのところで受け流した。水腕はレーノの弾丸が爆ぜ飛ばすのに任せて尻尾に飛び乗る。レーノの続けて放った弾丸が足場になって、クレースはスーの身体を駆け上がっていく。

 右手の剣でスーの目を狙ったが、スーは頭を振ってクレースを弾き飛ばした。


「お前みたいなザコが!! レーノの前衛なんてできるわけないのよ!!」


 落ち行くクレースは《《してやったり》》と口角を上げていた。


「あぁ!? 私が前衛だなんて言ってないわよ!!?」


 スーの首筋に一本のナイフが刺さっている。スーは再び針で刺されたような痛みを感じて、思わず目を瞑り首を引いた。


「チッ、こんなもの効かな――アッ!!?」


 ——もらいましたわ。


 ネクスィとモルガンの大剣が火を噴いた。黄色く熱を発する刀身。二つの軌跡がスーの首を切断する。僅かに重なった剣の先端がお互いの切っ先を溶かした。

 ネクスィはブースターを止めずに空中で体を回転させ、切断したスーの首を蹴り飛ばした。モルガンは重心を失ってくるくると落下している。慌ててレーノが銃を撃ち、落下先に小舟を作った。水かさはもう3メートル以上になっていた。


「モルガンさん、上出来だよ……!」


 ネクスィは倒れ行くスーの身体を蹴って昇降機に戻ってくる。しかしバランスをとれず、大剣を捨てて転がってしまった。クレースもレーノもそれに手を差し伸べる余裕はない。


「はぁ……はぁ。満身創痍だなあ」

「全く……ね」

「そうですね……」


 スーの身体が後ろに倒れ、首も遠くで着水する。復活する気配はない。


「勝った……のか。倒したのか、あの、スーを」





 モルガンは小舟で大の字になって、弱まる雨に打たれていた。


 ――体が動かせませんわ。肩が抜けちゃいましたわ。どこもかしこも痛すぎて、一周回って笑えますわ。エーテルを過剰に回すと全身の筋肉が破壊されますのね。二個ですら激痛だったのに三個とか笑えませんわ。笑えてるんですけど。二個行けたからってぶっつけ本番に挑戦させるとかネクスィも鬼畜ですわよ全く。可愛い顔でいけるいけるとか言いやがって……。


「ふ……ふふふ、ぐふっ……」


 体を通電するように、骨肉を熱く焼き付けるエーテルの過剰循環。


 ——ネクスィは普段からこれに耐えながら戦ってますのよね。信じられない。ここまでくると、ラン様へのコンプレックスってのにも、ある種の尊敬を抱きますわ……。


 黒い雲が千切れて散っていく。破けたような隙間から日差しがカーテンを下ろす。

 遠くで勝鬨の上がる声がした。船に乗って退避した冒険者たちによる勝鬨である。


「勝ち……そうですわね。わたくしたちの、勝ちですわ……。やったぁ……」


 モルガンは陽の光の眩しさに目を閉じると、そのまま気絶してしまった。





 少しずつ体が治ってきたレーノ。ゴーグルを外して伸びをした。


「なーんかテンション上がってきたなあ! スキップしちゃいそう。あっ、足が痛いっ」

「奇遇ね、私もよ。小躍りでもしたい気分だわ」

「僕もです。こ、これ、カスカルさんがやってるんですよね、多分」

「え? エリア中に気分高揚の効果をかけてるってこと?」

「アイツ、相当余力あるわね……」

「それはもう人一人ひとひとりがやっていいこと超えてない……?」


 ——能力の規模だけならスーにすら及んでるもんなあ。MVPは間違いなくカスカルだ。


 レーノは呆れて笑った。


「まあいいや。それならそれに乗っかっちゃおう。――俺たちの、勝ちだ!」

「うおおおお、あれ、クレースも乗ろうよ」

「私はそういうのに乗るタイプじゃないでしょ! ああでも、踊り出しちゃいそう……。え、やだ、踊っちゃう……!」


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