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第十話 包囲戦最終段階

 レーノはうなだれた。


「ああああもう最悪だあ。俺はこの件、知らんぷりをしたかったのにい。第一キャンプの件とは違って自己責任だしさあ……」

「私も正直、ランへのコンプレックスに他の冒険者を巻き込んでるのはあまり好感持てないから手助けはしたくなかったのよね」

「え、話の双子さんがこの計画を実行に移したのって、もしかしてランさんにいいとこ見せたいとか追いつきたいとかそんな理由なのかしら?」

「お嬢さん、〝ナンバーワン〟は漏れなくこんな感じっすよ。みんな湿っぽい上に自己中なんす。ウチみたいにイケイケヒャッハーしてるギルドの方が楽しいっすよ」


「いやどっちにも入るつもりはないですけれど。そういえば、わたくしはモルガンと言いますわ。お嬢さんもいい響きなのでそちらでもいいですけれど」

「モルガンお嬢」

「それだとなんだかわたくしの従者みたいですわね。従者はもう間に合っています」

「誰のことだろうなあ~」

「あらあらレーノ様ったら、白けるなんていじらしいですわ~」


 四人は荷物を纏めて立ち上がった。


「しょうがない、協力するかあ。あの蛇に不満が無いわけじゃないしねえ。不利そうならさっさと撤退するくらいの気持ちで行こう」


 モルガンは銃を鳥かごへ向ける。


「そういう話なら、戦いになる前にわたくしも一度、ツルヘビの呪いってやつを体感しておきますわ」

「え、なんで? その必要ある? ねえなんでえ?」

「興味があるからですけれど? カスカル様すぐに治してくださいまし」

「任されたっす!」

「モルガンさん、旅行に行ったら何でも食べてすぐにお腹を壊すタイプね……」

「いつかドラゴンの火を浴びたいとか言い出しかねないよお!」

「それは流石にクールっすねー、ホットだけど。なんちゃって」


「死ね」と呟いたのはクルース。


 反動がモルガンの肩を揺らす。ツルヘビは弾丸が当たれば簡単に死亡する。しかし間接的な防御機構、〝呪い〟がモルガンを襲った。

 モルガンは自己嫌悪に陥り銃を地面に落とした。真っ暗な表情でうだうだと弱音を吐く。


「あ、ああ、あああー……。わたくしなんて生きてる価値無いんですわあ。所詮はゴミでカスでクズのからっぽ詐欺師……。誰にも看取られない死がお似合いですわー……」

「モルガナさんのセルフイメージ結構ヤバいわね」

「サスペンスな物語の紹介文みたいっす」


 ツルヘビの〝呪い〟は被呪者次第で効き方が変わる。悩みや不安が多い人間にはよく効くが、逆に陽気な人間にはあまり効かない。

 ゆえに、レーノはモルガンの様子に素直に驚いた。


 ――あまり効かないと思ってたんだけど、武器を手放すとなると相当効いてる方だねえ。普段から明るいように見えるのは演技と言うか、対外の態度ってことかなあ? 詐欺師ってのは……なんだろう。何か騙ってるの?


 カスカルが杖をモルガンに向けてば、モルガンはすぐに立ち直った。

 モルガンはカスカルの技術を称賛している。

 クレースがレーノを肘でゲシッと強く突いた。


「い、痛いんだけど。なにい?」

「モルガンさん戦うつもり満々だけどいいワケ?」

「いや俺もできるだけ戦わせたくは無いんだけど、モルガンさんは戦いたいみたいだからさあ……。それに、最低限の戦闘力がないとこの先のエリアがしんどいのは事実だし、経験を積んでもらう分には損はないかなって」

「死んだら元も子もないでしょうが」

「〝再生〟も〝精神操作〟もあって死ぬことは無いでしょ。確かにスー様は別格だけど、流石にスー様とモルガンさんを対面させはしないってえ」





 包囲部隊の一つがツルヘビの防衛線を突破した。そこには知謀の大蛇がとぐろを撒いている。とぐろの高さは三メートル近く、伸びた首も合わせればその倍はある。


「辿り着いたぞ! こいつが、こいつがスーか!」

「デカい……!」


 スーはシュロロと舌を鳴らす。


「ええ、私がスーよ。初めましてあなたたち。私は寛大だから一度は許すわ。次からは様をつけて呼びなさい」


 スーの声はからかうようでありながら、しかし彼女は内心では落胆していた。


 ――結局一パーティーだけ突出してきたわね。これでは包囲した意味が無いわ。ここは足並みを揃えなければならないところでしょ。


「貴様の天下もここまでだ! 死ね、大蛇スー!」


 スーはとぐろを一段解いてパーティーに振るった。

 術師が杖を振ってパーティーの身体能力を強化し、前衛の剣士と盾使いがスーの攻撃を受けた。刀を持った軽装の侍が回り込みながら攻撃後の隙を狙っている。スーはこの侍を警戒して、下手な追撃はせずすぐに尻尾を引っ込めた。

 それはスーにとって決して脅威ではないが、相手がそのつもりで動いているのなら、その行動には乗ってやるのがスーのスタンスだった。

 乗った上で、勝利する。


「前に出すぎるな! 攻勢に出るのは他のパーティーが揃ってからでいいぞ!」


 ――へえ、流石にその程度のことは分かってるのね。いいじゃない。


「勝利条件が明らかになってきたわね。私は全てのパーティーが揃う前に目の前の敵を各個撃破していけばいつか勝てる。あなたたちは私の攻撃を凌いでいればいつか勝てる。フフ。遊んであげるわ! どこまで凌ぎきれるかしら!?」





 沼へ向かうレーノパーティー。ツルヘビと他モンスターを捌きつつ進む。クレースが前方を、レーノが殿を務める。


「パーティーの一つがスーと戦闘を始めたっすね」

「どうして分かりますの?」

「〝精神〟は外に滲み出るものなんすよ。だから、向こうの方面の雰囲気がピリつき始めたのなら、それはつまりそういうことっす」

「滲み出る……精神を空間に浮かぶもののように把握してるってことかしら。不思議ですわ」

「エーテルの扱いを極めるうちに、見えるようになっちまったっすねえ……。実はここだけの話、サーウィアで一番エーテルの扱いが上手いのってたぶん俺なんすよ」

「聞いてませんわよ」


 カスカルは自慢げだが、レーノが苦言を呈した。


「いや、こういうことができるやつは指揮系統にいるべきじゃない? なんで双子の傍にいないんだよお」


 レーノは断片的な情報から、現状に関してスーとかなり近い予想をしていた。あくまでパーティーそれぞれの進退を司っているのは双子で、指揮を出す少数パーティーがどこかに潜んでいるのだろう、と。


 クレースがツルヘビを十匹束ねて一度に切り捨てた。カスカルを睨む。向けられる目つきの悪さに困惑しながらも、カスカルは杖を向けて精神を回復させた。

 クレースはレーノを鼻で笑う。


「あなたがそう思うのならスーもそう思っているのかしら。だとしたらこの包囲布陣のハリボテは成功ね。あの双子が後ろでジッとしているわけないのよ」

「じゃあ、五つのパーティーに指示をしてる奴はいなくて、行き当たりばったりの包囲ってことお!?」

「初めから包囲して倒すことが目的じゃない。どれかのパーティーが一度でも道を切り開いたなら、後は双子が仕留める。うちのギルドの〝機構剣士メカニカルブレード〟にして〝致命打フィニッシャー〟。ネクスィとベルカがその二人の刃でスーの首を刈るのよ」





 初めにスーと接触したパーティーは防御が得意な編成だったが、その攻撃力はスーに負担をかけられる程のものではなかった。スーは少しずつスピードを上げて嬲っていく。

 前衛が崩壊するまであと少し。スーを牽制していた侍が、仕掛けられていたツルヘビの罠に引っかかって足止めされた。

 スーは興奮して決定打を打ち込んだ。箒で履くようにして、ズタボロの冒険者たちを薙ぎ飛ばす。


 ——これで勝ち————いや?


 しかし、最後に垣間見えた彼らの口元は、僅かに上がっていた。


 ——なぜ、笑う?


 ネクスィとベルカが対角からとぐろを駆け上がりつつ、各々の大剣を起動した。両手で持った背丈ほどの剣。エーテルの〝熱〟が機構を巡る。内部の粉末が着火されることによりブレードが過熱。背面に並ぶブースターも燃料に連結した。トリガーを轢けばいつでも噴出する。


 スーは自分の足元に突然現れた二つの熱反応に心の底から驚いた。考える間もない。可能な限り首をよじるが苦し紛れ。


 ——〝認識〟の、エーテルかっ……!!


 ダメージを受けるまで〝認識〟できない、景色に溶け込んだ二人の攻撃。〝超感覚〟が無ければ本来は気配を気取られることすらない必中必殺の一撃。斬撃はブースターで加速され、鉄すら溶かすブレードが一瞬ですり抜ける。


 大剣とは言え一本では一メートル半。しかし繋げれば三メートル。それはスーの首を飛ばすのに十分な長さだった。双子の息はピッタリと合い、スーの首を溶断した。


「切った、切った!!」

「ぐっ……!」


 地面についた双子は大剣の重さに膝をついた。大剣から燃料管が吐き出される。二人は空いたスロットへ燃料管を装填しながら、スーの首と身体に注目する。


 切断面からずれ落ちた首が、落下する。


 瞬間、彼らの中心にあった沼が、間欠泉の様に噴き出した。


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