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第九話 ネクスィとスーの英知バトル!

 「それが昨日のことだ。そして作戦決行はこれからなのさ」


 レーノたちは通りがかった冒険者から双子の演説の話を聞いた。彼は語るだけ語って皿を一杯煽ると意気揚々と去って行った。


 ヘビ鍋を掬いながら、レーノは一つため息をついた。


「このままだと冒険者三十人の命が失われちゃうよお」

「三十人もいるんですから、一人くらいは生き残るんじゃあありませんこと?」

「モルガナさんそれ結局負けてるわよ」


 クレースはレーノにスプーンを突きつける。


「ウチの双子もいるんだからワンチャンくらい見てあげなさいよ!」

「スーはもうしばらく人間と争ってないからそういう印象になっても仕方ないのかなあ」

「老人みたいなセリフですわ」

「次は孫の写真見せてくるわよ」

「そうなったら一緒に逃げましょうクレースさん」


 モルガンとクレースはお互いの手を取ってレーノから椅子を離した。


「できるだけ短くするよお……。当時の〝がらんどう〟は結成してから一年で、メンバーは六人だった。当時、既に俺たちのスタイルは完成されてた。狡猾さとか世渡りとかは後から身に着けたけど、少なくとも直接的な戦闘能力では、ハイクラスギルドとしての〝がらんどう〟と大きな差は無かったんだ」


「それは流石に嘘だけど、まあ、十分強かったってことね」

「その理解でおっけー。それであって、俺たちはスーに勝てなかったんだあ」

「スー様の何が脅威なのかしら?」

「まず知性が人並みにあるかな。たまに人以上に感じる時すらあるし」

「既に負けてましたのね、英知」


「フィジカルがシンプルに脅威だねえ、巨体のクセして俊敏。生まれつきの技能として〝超感覚〟と〝呪いの身体〟がある。それに加えて〝水〟のエーテル適性がある。超感覚は五感がめっちゃよくて若干の未来予知が可能。攻撃を当てるのも一苦労なの。呪いの身体は他のツルヘビと同じ。攻撃を当てたら呪われちゃうよ」


「攻撃を当てるのも難しいのに当てたら呪われるですって? おふざけあそばせ~」

「水のエーテルはあまり使っている所を見たことは無いけど、水圧を強めて水鉄砲を打ったりしてたね」

「聞いてたら勝てない気がしてきたわね」

「と、はいえ。付け入る隙が全く無いかというと、そうじゃあないんだあ」


 レーノは空になった容器を膝の上に置き、手を組んだ。


「スーは、ゲームには乗るんだ」





 双子は各所に配置された冒険者たちに指示をして回っている。


「スーは切れ者だから、襲撃計画くらいはバレてるだろうね」

「ああ、それは違いない。討伐隊が組まれるのは初めてじゃないが、過去の隊はみな返り討ちにあった。一筋縄じゃ行かない相手だ」

「先読みでも勝てない、力技でも勝てないと来たら為すすべがない」

「じゃあ、どうするんだ?」


 ネクスィはポケットからサイコロを出した。


「少なくとも読みの勝負からは逃げる。天命って奴に任せるんだよ」

「な、なあネクスィ、一応言っとくけどウチらは三十人の命を背負ってるぞ」

「運と勘が〝ナンバーワン(僕ら)〟の戦い方でしょ? いつも通り! 考えるよりまずは動く! だよ!」

「ああー、ごめんなラン。私たちがこんなんでさ……」


 ネクスィは少しワクワクしながら木皿にサイコロを振った。


「でもネクスィって賭けは負けっぱなしじゃあなかったか? サイコロは縁起が悪いだろ」

「ふっふっふベルカさんよ、そこは対策済みなのです。ほら見て、このサイコロ全面が六なんだ」

「運任せにすらなってねえじゃねえか!」





 各位置の冒険者らが根城の沼に向かって進み始めた。

 スーは沼で彼らを待ち受ける。冒険者らが攻めてきた位置に的確にツルヘビを下ろしてその足を止めさせる。

 沼の周囲にはツルヘビが蜘蛛の巣のように張られ、幾重もの防衛線が築かれていた。獣一匹通さない密度。これらのツルヘビに感取られずスーに近付くのは不可能である。


 ――相手は冒険者が三十人。それを五つのパーティーに分けて包囲している。ここまでは王道だし実際効果的ね。こちらはツルヘビの戦力を多方面に分散させなければならないし逃げ場もない。他より多少強い二人の気配は消えちゃったわね。潜伏することで、包囲の突破を牽制しているのかしら。強いカードをあえて伏せる戦術ね。


「久々のゲームよ。楽しませてくれないと」


 ――けれど、何かこれまでの奴らとは雰囲気が違う。進軍が散発的で、かつ不規則だわ。足並みを揃えているのかと思えば突き出るパーティーもあるし、引きすぎるパーティーもある。ツルヘビたちが深追いして逆にやられていたり、逆にこちらの布陣の薄いところを発見されたりしているわね。これは、戦争のセオリーとは違う。一歩間違えれば包囲が崩れるし、リスクとリターンが釣り合う行動じゃない。ともすれば無秩序で無計画な進軍ともとれるわ。ただ、実際ダメージを貰っているところもあるし、そうと油断させる策の可能性もある。エーテルを絡めた指揮の可能性があるわね。低い次元では〝未来視〟や〝鑑識〟、高い次元だと現実改変系が候補に挙がる……。


 ネクスィの計画はスーの理解の範疇を越えていた。あくまで下方向にではあるが。

 結果的に、スー側からの積極的な攻勢を踏みとどまらせたのである。





 蛇鍋の雑炊にはまた別の人物が参加していた。二メートルはあろう長い杖を抱えた、ストローハットとブーツの男。


「あー、あったかい。あったかい食べ物っていいっすねえ」

「もうだいぶ冷めてますけれど」

「自分、体温低いんすよ。……あ、また誰か病んだ。ほいっと」


 男が杖の先端を地面にトンとつく。


「お嬢さん、これが〝精神〟を操る俺の技術っす。今、包囲部隊の誰かがツルヘビを切って病み始めたんすけど、俺がこうやって地面を叩くとあら不思議。精神状態が元に戻るんす。エーテルの消費が激しいんで、普段はこんな遠くに効果を広げることはしないんすけどね。でもこの十五分で勝負が決まるなら、後を考えなくていいって寸法す。だからこうやって五パーティー分の呪いの回復を務められてるってことすねえ」


「何も聞いてないのに随分と詳細に解説してくれましたわね」

「俺の話、聞いてくれる人がいないんで。このチャンスは逃せないっす!」

「そういわれるとなんだか癪ですわね。ところでどなた?」

「ああえっと、コイツは〝宵の明星〟のリーダーの——」

「カスカルっす。どうも~。双子ちゃんに雇われてここに来てますっすよ」


 男はレーノの紹介に食い気味に被せて自己紹介をした。灰色の髪、耳にはピアス、ヘラヘラとした軽薄な態度の人間。


「まあ、リーダー? こんなに覇気のない人が?」

「酷いっす~」

「ちなみに〝宵の明星〟はこんな感じの、吹けば飛ぶような男ばっかりで構成されてるギルドよ。モルガンさんは間違っても近付かないようにね」


「わたくしは結構この方には好印象を持ってますわよ」

「お? ワンチャンあるー?」

「ノーチャンですけれど。憎めないなあ、くらいですわね」

「憎みたいところから始まってるんすか!?」


「で、カスカルはなんで包囲戦に近付かずにここで座ってんのお?」


 レーノの質問にカスカルはにやりと得意げな表情を見せた。


「俺、今回の作戦の精神回復の全てを担ってるんで、双子ちゃんに『何が何でも長く生きろ』って言われてるっす。実際、俺が勝負の要みたいで、異様な数のツルヘビに追われてたっす。それで逃げ回ってたら、なんと〝彫刻家〟のレーノさんをお見掛けしたから、ここが一番安全だろうと思って、お邪魔させてもらってるっす」


 鍋は遂に底を見せた。


「ああ、だからさっきから小鳥さんたちがツルヘビに襲われてますのね」


 鉄の身体を持った小鳥が、緑色の蛇に襲われている。ツルヘビは本気で巻き付けば鉄をも捻り潰す。周囲三カ所の鳥かご全てが同じ状況だ。


 モルガンは、これは自分が指摘しなければ全員が見て見ぬふりを続けるのではないかと不安に思い、ついにそれを叫ぶに至った。


「襲われてますけれど!? レーノ様!! わたくしたちスー様に敵意を向けられてますわよ!?」

「あー頭痛い。なんでえ? なんでこんなに面倒ごとが迷い込んでくるんだよおお!」


 ツルヘビの親玉、大蛇スー。このエリアを何百年も治めてきたという樹海のヌシ。未だどのハイクラスギルドですらその命に届いたことがない無敗の蛇。秩序ぶったように見せて、本性は残酷な気まぐれ屋。人を下等に認識する上位生物。


 今章の敵である。


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