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第七話 第二域〝蔓と蛇の森〟 (後編)

 三人は他の冒険者による野営地の跡を発見した。


「歩き詰めだし、休憩しようよお」

「まあ私は大丈夫だけど、モルガンさんは疲れただろうし賛成してやるわ」

「円滑なコミュニケーションのダシにされていますわ」

「少し早いけどお昼ご飯にしちゃいましょ」


 三人は火を起こして野営地に残されていた道具を使い料理を始める。


「昨日は軽食だったからフロンティアでの料理って初めてですわね!」

「モルガンさんって料理できる?」

「そこそこですわ!」

「俺はからきしだから任せていいかな。ちょっと離席するねえ」


 レーノは周囲に向けて弾を数発撃った。弾丸はいずれも太い木の幹に当たり、着弾点からは黒く細い鉄線が植物の育つように伸び出てくる。それはうねうねと動いて鳥かごのようなものを作ると、最後にその中に小鳥を生成し、それはピチピチと鳴いて動き始めた。鉄の置物のような色であって、しかしその自然な動きは生き物だと錯覚させる。


「色はどうしようかな~」

「普通にしなさい」

「は、はい……」


 鳥は発光を逃れ、短い毛並みを手に入れる。


「周囲はその子たちに見張らせてるから、多少気を緩めてもいいよお。じゃね」


 レーノはジャングルに姿を消した。


「相変わらず万能ですわね」

「流石に天才ね」

「〝創造〟のエーテル適正さえあれば、誰でも簡単にできるという訳ではないのかしら?」


「ええ。多くの使い手は、鉄の刃物や足場を作るような運用をしてる。自在に形や色を変える時点で異例なのに、ましてや自立した生物を創るなんて凄まじいの一言ね。あの域で〝創造〟のエーテルを使える人間は、レーノの他にはあと一人だけしかいないわ」


 クレースは火起こし。モルガンは蛇の頭に刃物を突き立てて開き始める。


「ではレーノ様は相当にやる気のある冒険者でしたのね」

「いや、それは……うーん。事情があるにはあったんだけど……言っていいのかな」


 モルガンは興味を持って悪い笑顔を浮かべた。


「良いですわよ。従者のことを知っておくのは雇用者の責任ですわ」

「まあいっか。知ってる人間も多いし隠してるわけじゃあなさそうだしね。アイツ、左足が義足なのよ。気付いた?」


 モルガンには衝撃の事実の開示だった。唖然とする。


「いえ、まったく気付きませんでしたわ」

「でしょう。小さいときに失ったそうよ。だからそれを取り戻そうと思って、エーテルの扱いが上手くなった、ってことね」

「な、なるほど……」


 暗くなった雰囲気を変えようと、モルガンが話題を出した。


「そういえばクレースさんは、レーノの実力は認めているのに突っかかりますのね?」

「別に認めてるわけじゃないわよ」

「レーノは席を外していますわよ?」


 クレースは手を止めて少し詰まる。何やら言い辛そうに頬を染めた。


「じ、実を言うなら……私、苦手、なのよ。男の人と話すのが。その、なんかその、そう、突っかかっちゃうの。直したいん、だけど……」

「ま!? まままま!? まま——いやあれ? ランさんとは喋れてましたわよね」

「ランは流石に付き合い違うわよ」

「ままままま! じゃああの態度って素直になれないだけってことかしら! 可愛いところありますわね」

「うう、うるさい可愛くなんてない……」


 クレースは薪を弄りながら顔を赤くして照れている。指先で自分の毛先を弄っている。彼女は話題を斬り返すことにした。


「モルガンさん、包丁の扱い慣れてるわよね。お金持ちのお嬢様なのに珍しい。平然と蛇を捌ける人間なんてフロンティアにもあんまいないわよ」


 モルガンの体の動きがギクリと止まる。


「え、えー、えあー……。しゅ、趣味ー……かな? 趣味かしらー」

「包丁持つの趣味だったのね」

「そこだけ切り取ると危ないヤツですわ。料理が趣味でしたの。お母様も厨房に立つのが好きな人でしたから、影響を受けたんだと思いますわ」

「ふーんそうなんだ。奇妙と言えば、お嬢様が一人で依頼を出すってのも変よね。従者? とか保護者? みたいな人はいないの?」


 間髪入れずモルガンは痛いところを突かれた。しかし彼女はもうすでに嘘つきモード。さらさらと口が回る。


「実はわたくし、箱入りが嫌になって、無理言って出てきましたの。最低限の従者もいたのですけれど、風俗街に投げ込んで巻いてきましたわ」

「ええっめちゃくちゃ力技。でも私そういう女の子ちょっと好きかも」

「光栄ですわ~」

「じゃあ、第六キャンプに行きたいってのも、外の世界を体験したい気持ちの表れなのね」

「……まあ、そんな感じですわね」





 レーノが向かっているのはそれまで以上に蔓の多い地帯だった。一つ一つを手の甲で優しく避けて蔓の濃い方向へ進んでいく。


 訪れたのは、夥しい数の蔓が生い茂る小さな沼。


「すみません」


 レーノが声をかけると辺りで蔓を装っていたツルヘビたちが一斉に木上に引いていく。地面が揺れて、辺りに巨大なものが這いずる音が響いた。それは沼の周囲を、レーノを囲むように動き、クルクルと巻いてその幅は狭くなってくる。


 規格外の大蛇が姿を現した。シュルシュルという舌の音と共に顔を出し、沼の向こうから首を伸ばしてレーノに近付けてくる。レーノにむせる悪臭がかかった。


 それはツルヘビの主。名前をスーという。


「レーノ、しばらくね」


 レーノは畏まって頭を傾けた。


「スー様、先日はなわばりを荒らして申し訳ありませんでした」

「荒らしたのはあなたたちではないわ。意味のない謝罪は下手な効果しか無いわよ」

「失礼しました。実は今日はそのことでお尋ねしたいことがあって参りました。お酒なら持ってきてるんですが」


 レーノは鞄から古いお酒の瓶を出した。


「フフ。私たちは死闘を繰り広げた仲でしょう。今更水臭いわね。貰うけど」


 一匹のツルヘビが枝から下りてきて酒瓶を巻き取った。


「あなたたちが襲われたときのことよね。そうね、でも癪だけど、私もあまり覚えてないわよ」

「スー様をもってしても敵の姿が分からないのですか?」


 スーの感覚はこのエリア全域をカバーしている。ここで何が起こっても普通は、認識できるし記憶される。


「そうね、影響力の次元が高い能力なのでしょう。他人にも影響するタイプの過去改変、記憶改竄、情報抹消、認識阻害などが候補に挙がる。研ぎ澄まされているわ」

「……研ぎ澄まされているですって?」

「そうよ? エーテルの扱いを研ぎ澄ましている相手の犯行」


「ああ、すみません。モンスターがエーテルの扱いを研ぎ澄ますという言い方を我々はしないので、少し理解に時間をかけてしまいました。確かに、モンスターの能力は同じものであっても強弱の差があります。けれどそれは概ね生まれつきの種族差や個体差によるもので、それぞれが能力の可能性を伸ばそうとして生まれた差ではないと思っていましたが」


「それは間違っていないわ。少なくともあなたたちが言う第五エリアまでならば」

「では我々は、それよりも奥のモンスターで、スー様の様な高度な知能をもってエーテル能力を研ぎ澄ます個体……に、襲われたということでしょうか」


 スーは呆れて首をくねらせる。


「なぜそんなややこしくて可能性の低い選択肢が最初に上がるのかしら。そんなレアなパターンよりも、もっと現実味のある可能性があるじゃない」


 レーノの拳はいつの間にか強く握られていた。


「……じゃあ俺たちは、人間に、襲われたとでも?」

「不遜」


 スーは尻尾の先端でレーノの身体を叩き潰した。


「じ、失礼、しました」


 スーは満足そうに尻尾をどける。レーノは痛みをこらえて姿勢を正し、礼をした。


「貴重なお話をありがとうございました」

「ちなみに相手は人間なんだから当然、私のナワバリを荒らしたりなんてしていないわ」


 スーはレーノがショックを受けていると知っていて、あえて嬉々として畳みかける。


「あなたたちを攻撃するだけして、去って行った。相手は初めからあなたたちだけを狙っていたのよ」


 ——じゃあ俺には。


「あなたには、復讐するべき相手がいるみたいねえ」


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