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第七話 第二域〝蔓と蛇の森〟 (前編)

「あっちいですわ」

「高いわよね。気温と湿度が」


 三人はジャングルを進む。レーノがモルガンにタオルを渡す。


「モルガンさんはその大層な衣装を脱いだらあ?」

「ア、アンタ女に服を脱げって言うの!?」

「そんなこと言ってないよお。ねえ?」

「言ってないですわね。ちなみに脱ぎませんわ」

「あ、そろそろ抜けるよお」

「何が抜けるのよ!」

「クレースさあん、欲求不満だったりしますう?」

「突っかかりたい気持ちが前に出すぎてただの破廉恥な人になってますわね」

「なっ……、なっ……!」


 クレースは恥ずかしいやら否定したいやらなんやらの気持ちで赤くなった。


 三人が森を抜けると、見晴らしのいい崖に出た。うっそうと広がる森と、木々を開いて蛇行する大河が見える。激しい高低差のある地帯で、河の辺りが低くそれ以外が高い。削り残された台地と川の辺りで二種類の植生がある。高く残った方の植物は背が低く色も淡いが、川辺は敷き詰めたように濃い緑色。河には獰猛な魚が暴れ、空では極彩色の鳥が鳴く。


「ま! 壮観ですわね!」

「こちらが第二エリア〝蔓と蛇の森〟となりまあす。略して〝蔓蛇〟です。ちなみにツルヘビと呼ばれるモンスターもいますよお」

「それは蔓と蛇の森が先ですの!? ツルヘビが先なんですの!?」

「それが——分かんないんですよねえー!」

「そんなあああ!」

「え? これ観光ツアーだったの? なに? なにこのノリ。なんでそんなにノリノリなの?」

「さてではモルガンさん。右に進むか、左に進むかお選びください」

「何か違いがありますの?」

「右は景色が悪い、左はモンスターがウヨウヨ。お好きな方をどうぞ」

「では真ん中を行きましょう!」

「それただの崖よね……!?」


 崖を回り込んで眼下の川辺を目指す。縦横無尽に広がる蔓を剣で切り払いながら進む。


「降りますのね。最後は昇るのかしら?」

「ええ。下りた分、最後は昇ることになるわ。でもあっち側には昇降機が設置されてるのよ」

「昇降機といっても吹きさらしの床だけのものなので、自力で鳥型モンスターから身を守れる人間でないと乗れないんですけどねえ」

「レーノ様はいつまでガイドモードなのかしら」

「嫌なの? そんなあ……」

「嫌とまでは言ってませんけれど……」





 一時間ほどかけて川辺まで下りてくる。


「多分スライムがいますわ」


 モルガンが指さす先、赤くぷよぷよとした生き物が進路を阻んでいる。


「あれはスライムであってるよ。異形のモンスターを見るのは初めてだったね」

「異形と言っても〝二の森〟の巨大昆虫の方が手ごわかったりするわ。まあみんなザコよ」

「撃ってみてもいいかしら。わたくし射撃が上手くなりたくて」

「いいよお。はいどうぞお」


 モルガナは軽く弾丸を放った。三発ともしっかり当たって貫通する。スライムは衝撃にぷよぷよと前後したが、しかし揺れるのを終えると活動を再開してレーノたちににじり寄ってきた。


「効きませんわね」

「火力が足りてないみたいだね。もっと弾幕を貼ったら倒せると思うよお」

「弾が勿体ないですわね。ライフルみたいな一発が重い銃も買ってくるべきだったかもしれません」


 飛びかかってきたスライムをクレースが両断した。スライム、爆散。


「スライムにはコアがあるから、そこを狙い撃ちできるならこうやって倒せるわよ」

「それらしいものは見えませんでしたわ」

「そこはもう勘ね」

「そこが脳筋ですの? ハイクラスギルドの一員であって勘頼り? それもう人類の敗北ですわ」

「勝ってるじゃんねえ」

「英知が敗北してんですのよ」





「あっ、しんどい」


 進路を阻む蔓を切っていたクレースが、突然足を止めてうずくまった。傍には緑色の蛇の死骸がある。


「どど、どうしたのかしら!?」

「う、鬱だ。私死ぬんだあ」

「誤ってツルヘビを切っちゃったんだなあ。呪われたね」

「呪い!? それ大丈夫ですの!?」

「ノイローゼになるだけ」

「命を奪った割には軽い代償ですわねえ!」


 クレースは地面に手を付いて暗い調子で呟き始めた。


「結局〝ナンバーワン〟はラン一人いれば成り立つのよ。私みたいなザコは代わりが効くんだわ」

「そんなこと気にしてたんだあ」

「モンスターをザコ呼ばわりするのは自己評価の顕れなのかしら」


 レーノは即効性の精神安定剤を飲ませ、クレースが落ち着くまで少し待つことにした。


 モルガンが尋ねる。


「そういえば、一番強いギルドってどこなのかしら? ナンバーワンってくらいですらナンバーワン?」


「強いギルドかあ。評価軸はいくつかありそうだけど、印象で語るなら、一番強いのは〝アタラクシア〟だねえ。奥に進んでやろうって意欲があるから、自然と強くなっていったよ。昔はウチが一番強かったんだけどさあ。〝がらんどう〟が壊滅した今になって、〝ナンバーワン〟は二番手に浮上かなあ」


「新天地の開拓に乗り気なギルドは少ない?」

「うん。強ければ強いほどそう。食べていくのに不自由しなくなるし、依頼も選ぶようになる。この街に長くいれば大事な人だってできるし、命が惜しくなるってわけよお」

「そういえば、街には子供の姿もありましたわね」

「そして依頼とは別口で稼ぐ手段を確立すると拍車がかかっていく。〝がらんどう〟がそうだったようにね。お金で不自由しなくなったから、後半のエリアに行く機会も少なくなってたんだあ」


「でも、なまっていたという感じでもなさそうですわね。レーノ様はまだかなり余裕があるように見えますわ。第二エリアの敵に負けるとは思えません」


 〝がらんどう〟が全滅したのは、ここ第二エリアにおいての出来事。

 モルガンがその発言に踏み切ったのは、レーノの感情を慮ることと、このエリアの危険性を確認するのは、別の問題だと判断したからだ。


「それは……本当にそう。実はウチのギルドは結成からの七年間、一人も死人が出たことが無かったんだ。引き抜かれたり辞めたりはあったけどね。第六エリアに〝迷宮〟に一週間閉じ込められたときも死人は出なかった。だからある意味、今も現実味が無いんだ」


 クレースが立ち直った。


「全くそうね。そしてここ数日にこのエリアでそんな強敵がいたとの報告も無かったわ。他のエリアへ移動したんだと思う。偶然奥のエリアのモンスターがここまで来ていたとか、突然の変異種とか、そういったかなりの不幸に見舞われたんでしょう」


「分かりました。二人ともありがとうございます。とりあえずこのエリアに現在、危険は想定されていないということですわね」


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