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エピローグ

 ――ぽん!

 軽い音と煙と共に現れたのはもうとっくに見慣れてしまったあのまぬけなうさぎのぬいぐるみだ。


「……おかしい。どうして何度やってもこの姿になってしまうの!?」


 鏡で自分の姿を確認してとほほと項垂れる。

 変身薬の研究は順調、とは言えなかった。

 最大の障壁が、このぬいぐるみの姿にしかなれないということである。

 レナルド殿下の事件の後、私とウィル様はこの変身薬の件で盛大にお叱りを受けた。

 場合によっては政治的にも犯罪的にも使えそうな効果がある薬。しかも古代魔法を応用して使っているということでどんな副作用があるかわからないからだ。

 今はジェレミー殿下の支援もあって悪用されないよう考えつつ今後のために研究をしている。

 ……とは言っても、変身している時間を延ばすことはできても、なぜか姿はあのぬいぐるみのままだった。

 ウィル様は可愛いと喜んでくれるけど、研究結果としてはダメダメだ。


「ああもう、これじゃあただのぬいぐるみ変身薬……」

「やあ、ハーディング研究員。ちょっといいかな」

「コンラッド教授」


 研究室の教授であるコンラッド教授が古代魔法の本を片手にやってくる。

 ぬいぐるみ姿のままちょこんと立ち上がった。


「この本なんだけど、君の訳してくれたのと、ここの訳が違うんじゃないかと思って」

「え、どこですか……? え? もしかして」

「そう、ここ。誰にでも変身できる薬じゃなくて、このぬいぐるみに変身できる薬、じゃないかな」

「……え、え、え、えええええ!?」


 古代文字で書かれた変身魔法と変身薬の記述を訳した私のノートを指さして、呑気な調子でコンラッド教授が言う。私はノートをひったくって確認してみたけど……た、たしかに違う。

 さらにコンラッド教授がもう一冊古びた本を取り出した。


「それともう一冊、城の図書館の君がこの本を見つけた辺りで古代魔法の本を見つけたんだけど今の君にそっくりじゃないか?」

「こ、これは……!」


 古代に崇拝されていたという豊穣の神の偶像を描いたというその絵は今の私、つまりできそこないのウサギのぬいぐるみにそっくりだった。

 ……つまりこの魔法は豊穣を願う儀式をするために豊穣の神を模した姿になるための魔法、ということ?

 どうりでこのウサギのぬいぐるみにしか変身できないわけだ。

 ぬいぐるみの姿のまま私は腰を抜かしたのだった。



「――というわけで、ってウィル様笑ってません?」

「わ、笑ってない笑ってない。く、ふふ」

「やっぱり笑ってるじゃないですか」


 その日の午後、久しぶりにウィル様とカフェに行こうと歩きながら研究室でのことを話していた。顔を逸らしているけど笑いをこらえて震えてるからバレバレだ。

 まったくひどい。こちらは半べそだっていうのに。

 レナルド殿下の事件があって、あらためて私達は正式に気持ちを伝えあってちゃんとした(?)婚約者になった。ウィル様は騎士団の若手として、私も研究者としてしばらく忙しいから結婚はもう少し先になりそうだけど。

 最近のウィル様は以前より少し力が抜けて自然体だ。

 ついにこらえきれなくなったのか声を上げ笑っている。


「ご、ごめん。でもちょっとおもしろくて……」

「もういいですよ。私が最初に訳し間違えたんだし。次は間違えません」

「そうか、じゃああの薬はとっくに完成していたわけか」

「そういうことになりますね……」


 うう、我ながら情けない。

 でもそんなことばかりも言っていられない。だって今は国から許可を貰って支援も頂いての研究なんだからちゃんと結果を出せるようがんばらなくては。

 変身薬の研究は振出しに戻ってしまったけれど。


「ぬいぐるみに変身できる薬か。それはそれですごく良いと俺は思うけど」

「ウィル様は可愛い物が好きですからね」

「またあのぬいぐるみに会いたいな」


 意味ありげに笑うウィル様の頬をいつぞやの時みたいに今度は私が軽くつねってみた。まったく最初はもう少し紳士だったはずだけどなあ。まあウィル様限定でなら今度また使ってもいいかなあ。ぬいぐるみ姿になって喜ばれるのも微妙だけれど。


「いたた」

「もう、ほらカフェが見えてきましたよ。限定の可愛いドーナツを食べるんでしょう?」

「もちろん、そのあとは魔法薬店にも寄るだろう?」

「はい!」


 デートはもっぱら可愛い物巡りと魔法薬店や薬草店。

 街中では目立つウィル様だけど、今ではすっかり皆慣れたのか注目されることもそれほどない。ウィル様も自然体だけれど、たぶん私もそうなのだ。

 のんびりと歩きながら考える。

 最初は根暗でオタクの私が人気者の騎士様と並んで歩くなんて考えられなかった。だけどウィル様は飾らないそのままの私を好きだと言ってくれたから、少しだけ私は自分が好きになれた。ウィル様も同じだったらいいなと思ってる。

 これからもこうやってお互いの好きなものを一緒に楽しみながら過ごしていけたらいいな。

 一人の時も楽しかったけれど、きっと二人ならもっと楽しいから。

このお話はこれでお終いになります。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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