15話 本当の理由
レナルド殿下に絡まれジェレミー殿下に助けてもらった日の夕方、ひさしぶりにウィル様と二人で街を散策することになった。
今でもたまに周囲の視線は感じるけれどウィル様とこうやって二人で並んで歩くのもすっかり慣れてしまったなあ。慣れって怖いと思ったけれど私もまた今の状況に順応しているのかもしれない。でもそれはウィル様が積極的にこちらに歩み寄ってくれているからだろう。
「ステラ、クレープ食べていかないか?」
「は、はい!」
公園の一角に出ていた出店に寄ってウィル様は目玉焼きやツナの入ったボリュームたっぷりのクレープを、私はカスタードにチョコがかかった甘いクレープを注文した。甘い香りがただよってすごく美味しそうだ。ふと顔を上げるとクレープ屋の看板にはピンクと黄色のウサギの絵が描いてあった。メニュー表の横にはお店のマスコットなのだろうそのウサギの小さなキーホルダーがぶら下がっていた。
「あ、あの、これ……」
「おまたせしました」
「ありがとうステラ」
先に店を出ていたウィル様は近くの噴水の傍で待っていてくれた。2人並んで噴水の縁に座ってクレープを食べた。お腹が空いていたから美味しい。隣のウィル様は相変わらず食べるのが早くてあっという間になくなってしまいそうだ。
「どうした?」
こっそり盗み見ていたら視線が合ってしまった。
な、なんだか照れくさいな。
「ウィル様、これおまけで貰ったのでどうぞ」
「え? うわ、可愛い! いいのか?」
「もちろんです」
ごそごそと誤魔化すようにポケットから取り出したのはクレープ屋のマスコットのキーホルダーだった。ピンクと黄色のウサギ。ウィル様が好きそうだなあと思ってつい買おうとしたらお店の人におまけで貰ってしまったんだ。
私ったら何やってるんだろう。
でもウィル様がぱあっと顔を輝かせてくれたので恥ずかしかったけどまあいいかと思った。
「ありがとう、ステラ。君はいらないのか?」
「私よりウィル様の方が好きそうでしょう?」
「それはそうだけど……あ、ステラ見て。猫だ」
「え? わ、猫ですね。可愛い」
「可愛いな」
私達の前を黒猫がのんびりと横切っていく。
夕日のせいなのか気のせいなのかはわからないけれど、ちょっとだけ頬の赤く染まったウィル様と他愛無い会話をして笑い合う。
なんだかまだ現実感が無くて不思議な感じだ。
でも、意外とこんな時間は嫌いじゃないかもしれない。
いつも研究ばかりしていたつい数か月前の自分だったらきっと考えられなかったことだろう。
「そういえば、ステラはどうして変身薬を作ろうと思ったんだ?」
「……昔、王城の図書館で読んだ魔法の古文書に乗っていたんです。誰にでもなれる魔法薬。ネズミみたいに小さくも、物語に出てくるドラゴンみたいに大きくもなれるんです」
「それはすごいなあ。実際俺の掌に乗るくらいの大きさにはなってたもんな」
どうして変身薬を作ろうと思ったのか。
ウィル様の言葉に私は昔を思い出しながら話していた。ただ今は研究に没頭しているけれど、最初はどうして作りたいと思ったんだっけ。
「魔法薬学を勉強する前は、物語が好きだったんです。冒険の物語が。それで、私も小さな姿になって普通の大きさの人間じゃ入れないような場所も冒険してみたいと、思ったんです」
私が読んだ物語では小さなネズミの冒険者達が人間の知らない世界の裏側を冒険していた。それは小さな姿だからできたことで、幼い私はそれを読んで自分も小さくなってみたいと思ったのだった。その後父に連れられて入った王城の図書館で魔法の古文書を読み変身薬のことを知ったのだ。
……でも。
「……なんて、確かにそれも理由ではあるんですけど、本当はただ私じゃないもっと素敵な誰かになってみたかったんです」
アリシア姉様みたいに素敵なご令嬢やウィル様みたいに爽やかで素敵な騎士様。自分じゃ慣れない憧れる姿に。
自分じゃない誰かになれたら。
私は昔から自分にイマイチ自身が持てなくていつも他の誰かに憧れていた。
「俺も同じこと考えたことある」
「ウィル様が?」
ウィル様の意外な言葉に私は驚いた。だってウィル様は皆から憧れられる方の人だと思っていたから。
「だって男なのにぬいぐるみや人形が好きなんて女々しいだろう? 子供の頃はブラッド兄さんみたいな強くてかっこいい人になりたいと思ってた」
「え、ウィル様も十分強くてかっこいいと、思いますけど……」
なんだかすごく恥ずかしい台詞を言ってしまった気がする! 目を丸くしているウィル様と見つめ合う形になって声は尻すぼみになっていった。
慌てて私は正面を向いた。
「ウィル様も小さくなってみたいんでしたっけ!?」
「あ、ああ、だってちょっとおもしろそうだろう? うちにあるドールハウスとか入ってみたいし……」
滅茶苦茶強引に話題転換してしまった。呆気に取られた様子だったウィル様が恥ずかしそうに頬を掻く。
大好きな小さい人形達と同じ目線になってみたいだなんて可愛い物が好きなウィル様らしい。
ウィル様が急にそうだ、と顔を上げた。
「実は来週からしばらく訓練のために遠征に行くんだ。だから……」
「わかりました。大丈夫です。というか今までずっと一人で登城してたわけですし」
「うん、そうなんだけど。……心配だなあ」
ウィル様はまだ私が誰かに絡まれないか心配しているみたい。
ここしばらくずっと一緒だったからもう王城でも皆慣れたのか別に驚かれもしないし、きっと大丈夫だろう。
「いざとなったらまた変身薬で逃げます」
「いや、そっちの方が心配なんだけど」
「それはまあ、冗談ですけど。私だってもう大人なので大丈夫です」
「大人~?」
「だってもう16歳ですよ」
私の言葉にウィル様がニヤニヤ笑う。
これは揶揄われてるな。一応王城で働いてるし成人してるし立派な大人だ。
フンス、と胸を張れば吹き出したウィル様が頭を撫でてきた。手が大きくてドキッとするから急にはやめてほしい。
「わかったよ。でも気をつけてくれよ」
「はい」
しばらく私の頭を撫でていたウィル様が呟いた。
「……そういえば、変身薬の研究の方は進んでるのか?」
「とりあえず、改良は終わりそうです。上手くいくかはわかりませんが」
「なかなか難しいんだなあ」
ウィル様の言葉に私は頷いた。
そりゃあ古代の魔法を使って作るのだから簡単に上手くはいかないだろう。でも一応変身はできるのだし、あとは自由に好きな姿になれればいいのだけれど。
「遠征はどれくらいの期間なんですか?」
「十日ほどかな」
「それじゃあ、それまでには改良を終わらせます。そうしたら、ウィル様でも使って大丈夫か安全性を確認してから……」
「俺も使ってみていいのか?」
ぱっとウィル様が瞳を輝かせた。
だってずっと待ち遠しそうにしてるし、私はウィル様にお世話になりっぱなしだし。……なんて理由を色々考えてみたけれど、本当は私がウィル様を喜ばせたいだけだった。
「じゃあ、遠征から帰ったら」
「変身薬を使ってみましょう」
そう約束して、翌日ウィル様は旅立っていった。
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