7.それは流石に開放的すぎます!
「王妃様は、国王陛下に守って欲しかったのではないでしょうか。もし彼女が陛下のお兄様を愛していたとしても、自分と結婚して子供まで儲けた相手に情が湧かないとは考えづらいです」
私が思わず呟いた言葉に、フィリップ王子殿下が反応した。
貞操を重んじる国で婚前交渉を疑われた彼女は苦しかったはずだ。
国王陛下が自分が王妃教育を受けてきたことを無駄にしないよう、受け入れてくれたことは嬉しかったかもしれない。
きっと彼に期待したのに、子供を兄の子と疑われて失望したのだ。
彼女の立場に立って考えた想像でしかないけれど、もしそうだとしたら苦しくて仕方がない。
「イザベラ様、あなたに言われるまで母上の苦しさを考えたことはありませんでした。2人が仲が悪いのはてっきり、亡くなった元婚約者を愛していて無理に結婚したからだと思ってました。言われてみれば酷い話ですね。女性の権利が保障されている国の王妃の人権が一番踏みにじられている。母上が父上を嫌い、兄上に罪悪感を覚えるのも当然なのかも知れません。なんだか結婚が怖いです。僕は次期国王としては許されないですが、一生独身でいたいです」
「王妃様は人のストレスの的のように苦しめられてきたのですね。自分には一つの落ち度もないのに。フィリップ様、結婚は必ずしなければいけないものではありません。一生独身が良いなら、それで良いと思います。自分のことだけ考えて暮らしてください。あなたはそれくらい自由になって良い程、今まで人の為に尽くしてきていると思います」
私は前世で自分を人のストレス発散の道具だと思っていた。
道具である辛さは自分ではどうにもできなくて苦しいものだ。
「ストレスの的とは本当にその通りです。サム国は移民要件が非常に厳しいのです。それを超えてきた人間は当然国に期待します。期待通りのものが得られない不満は王家に行きます。母上に落ち度がないのはその通りです。僕が生まれる前3年も表舞台に出られないくらい心を壊しても叩かれ続けたそうです。それなのに世界一女性の権利が保障されている国の王妃だから、世界一幸せなふりをしなければならない。僕も幼いですね、そんなことにも気づかず母上を憎んでいたりしていました。一生独身は無理です。僕はサム国の次期国王ですよ。後継を作らなければなりません」
「サム国を王政から共和制にしてはどうでしょうか?フィリップ様が初代総督になるのです。後継を作らなくて良いですし、優秀な人材も活用できます」
「イザベラ様、僕はなぜ兄上があなたを信用し、ずっと尽くしてきたはずの僕を信用しなかったかが分かりました。今、あなたが僕のこととサム国民のことだけを考えていることが伝わってきます。サム国の次期国王に王政を廃止する話をするのは世界であなただけです。あなたを争って友好国が戦争になりそうになったのも頷けます」
「フィリップ様、私は最初から最後までサイラス様一筋です。戦争になりそうになっていたのですね。その時私はずっとサイラス様に守られて、そんな危機的状況を知らずにいました。本当はそんな有事にも彼の支えになりたいです。守られているばかりではなく守れるような自分になりたいです」
「最後までだなんて17歳なのに言い切りすぎですよ。そのような方に出会える奇跡があるのですね。僕はイザベラ様はサイラス国王陛下の心を守っていたと思いますよ。あなたのその一途な気持ちは他人の僕にも伝わってきます。正直、あなたのような方から思われる陛下が羨ましいです。イザベラ様に言われて、僕は自分がいかにサム国を愛しているかに気がつきました。正直、王政を廃止する提案をされた時、心がざわめきました。僕の一生を共にするパートナーはサム国なのかも知れません」
フィリップ様が心の内を話してくれそうなので、私は続けて欲しくて黙って話を聞いた。
「今、過去最高に王家への批判が高まっています。兄上の行いのせいもありますが、母上が湖のような大きさの風呂にバラの花びらを浮かせて毎日入っているような噂が流れたのです。そのようなことをするのは年に一回です。しかし、噂は毎日のように贅沢をしているように流れました。湖のような広い風呂が王宮にあるのは真実です。サム国の富を示すために100年も前に作られたもので、今では1年に1度母上が使うくらいです。それを誇張して毎日のようにバラを無駄遣いし、水を無駄遣いする王家のように言われ母はまた塞ぎ込んでしまいました。そのような母上を置いて他国で息抜きをしようとしている僕も酷いですね⋯⋯」
「全く酷くないです。そのお風呂を使ってない証拠として、皆さんに解放したらどうでしょうか? きっと、国民の皆さんも裸の付き合いができるはずです」
私は前世の銭湯を想像して言ったつもりだった。
しかし、その発言は馬車にいる2人には衝撃的だったようだ。
「イザベラ、それは流石に開放的すぎます!」
寝ていたはずのサイラス様は驚きの声をあげて私に訴えた。
「サム国の貞操観念を根底から覆して、価値観を変えろということですね⋯⋯」
フィリップ様はなぜだか深刻な顔をして考え始めてしまった。
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