6.失ってはじめて気が付く大切さ。
「フィリップ王太子殿下、どうぞ私のことは気にせずお眠りください。明日はホテルに宿泊するのですが、今日は馬車で眠らなくてはなりません」
フィリップ王太子殿下は私たちと一緒にルイ国に行くことになった。
私が10歳の時サイラス様に誘拐のように連れて行かれた感じではなく、彼はしっかりサム国のお付きの方にルイ国行きを伝言で伝えた。
馬車でアツ国からルイ国までは2週間はかかる。
くつろいでほしいのに、フィリップ王太子殿下は姿勢を崩そうとしない。
「僕にはお構いなく、ライト公爵令嬢はお眠りください。女性の寝顔を見るなど失礼な真似はしませんので、ご安心ください」
私とサイラス様とフィリップ王太子殿下の3人で乗っている馬車で、今、サイラス様が寝ている。
「サイラス様、本当に寝てますね。実は私、結婚式が素敵すぎてドキドキして眠れないのです。宜しければ、編み物をしてもよろしいでしょうか?」
そういえば、サイラス様の寝顔を見るのは初めてだ。
なんだか美しくて、見ることを禁じられているものを見ているようで緊張してしまう。
「もちろんです。編み物ができるのですか? ライト公爵令嬢は不思議な方ですね。兄上はあなたのアドバイス通り8歳の公女を婚約者として指名しました。しかし、彼が婚約者指名をしてすぐに、彼と不適切な関係だったことを告発する令嬢が続出したのです。サム国の男性は結婚したら、他の女性と関係を持ってはいけません。しかし、国民が王族に期待するものは、もっと厳しい貞操観念です。国民は王族に対しては一生に一人の異性だけを愛し抜くという理想を持っています。兄上は複数の貴族令嬢と関係を持っていました。貴族令嬢は結婚まで男性と関係することは許されません。だから自分の振る舞いが露見することはないと兄上は思っていたのでしょう。しかし、令嬢たちは皆自分が婚約者に指名されると期待していました。期待を裏切られて怒りが一気に噴出したのでしょう。国民から王族への不満が高まり、兄上を廃嫡する選択を父上はしました。兄上は自分の立場が守られなかった怒りを僕にぶつけました。王家の広報係の仕事をちゃんとしてない、こんな弟はいらなかった。生まれてくる国も間違った。そんなことを言って帝国に旅立ちました。僕はずっと自分は兄上を臣下として支えるつもりで、令嬢たちの怒りを鎮めようと謝罪行脚してました。兄上に広報係だの、いらないだの言われて僕の中で何かが切れてしまったのです⋯⋯」
ポツリ、ポツリとフィリップ王太子殿下がお気持ちを語ってくれた。
「王族に求める要件の厳しさを私も認識せず、いい加減な助言をレイモンド様にしてしまい申し訳ございませんでした」
「兄上は、ライト公爵令嬢には感謝してましたよ。8歳の婚約者を指名して、8年間女遊びをすることを助言するなど自分のことを考えてくれているのが分かると感動していました。ただ、兄上のサム国の王族としての自覚が甘かったのです。僕はそのような道徳的にはどうかと思う提案をしたあなたの事がずっと気になってました。会ってみて良い意味で不思議な方だと思いました。なんだかあなたの前では心の内を明かしてしまいます」
「私、不道徳な提案をしていたのですね。気がつきませんでした。フィリップ王太子殿下を作ったので受け取ってくださいませんか? お近づきの印です」
私はフィリップ王太子殿下に彼の編みぐるみを渡した。
「ライト公爵令嬢。凄すぎませんか? 精巧な職人のような技術をお持ちなのですね。とても可愛いです。大切にします。イザベラ様とお呼びしても宜しいですか?僕のことはフィリップとお呼びください」
「喜んでもらえて嬉しいです。実はルイ国のご家庭に挨拶に周りながら、編みぐるみをプレゼントしていく予定なのです」
「イザベラ様、自ら回るのですか? 4カ国の平和同盟もそうですが、イザベラ様は非凡な発想をなさるのですね」
非凡といわれると少し嬉しい気持ちになるのはなぜだろう。
前に「普通はしない言動」をするとレイラ王女から言われた時は傷ついた。
これからは「普通はしない言動」を「非凡な発想」と頭の中で書き換えれば傷つかずに済むかもしれない。
「サム国にはメリットがない同盟でしたよね。無理やり同盟に加わらせてしまって申し訳ございませんでした」
「私にとってはメリットがありますよ。あの同盟がなければ、国を空けられません。両親は僕の物心ついた時から、お互いを敵視するように仲が悪かったです。他国との争い以前の状態なのです。2人とも外で仲睦まじい演技をすることにも疲れてしまったのか、最近では公務も僕に丸投げでした。もう、うんざりしていたのです」
「失ってはじめて気がつく大切さがあると思います。会えない時が、愛を育てるそうですよ」
私は自分が死んだ後、優太がどのような気持ちで私の復讐を1人遂げてくれたかに思いを馳せて胸が苦しくなった。
私はこちらの世界に転生した後、前世の彼のことを側にいた時より心配したし、彼にどれだけ心を救ってもらったかに感謝した。
前世でたくさん彼に助けられていた時は、近くにいてくれることが当たり前で私の為に復讐するほど私を思ってくれてたことにも気がつけなかった。
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