4.私と離れるのが嫌だったのですか?
「レイモンド様が、あなたのことを男を手玉にとる不埒な女などと言ったのですね? あなたを侮辱するようなことを言った彼は牢屋にぶち込んでおくべきでした。イザベラに接したら皆、あなたを好きになると思いますよ。でも、私個人としましてはイザベラには私の近くにいて欲しいです。ルイ国は治安は悪くないですが、平民街で何かあったらと思うと心配です」
「覆面騎士のような方を連れて行っても良いですか?ライ国を回った時も私服の騎士を連れて回ったのです。人々の生活に触れて、今悩んでいることとか聞きたいのです。私が王妃としてできることを探したいのです」
流行を作るようなファッションリーダーには生まれ変わってもなれそうにない。
ならば、私が王妃としてできることを自分で探すしかない。
そしてサイラス様のお役に少しでもたてれば、これ以上嬉しいことはない。
「もちろんですよ。イザベラがやりたいのであれば応援したいです」
サイラス様が優しく私の頭を撫でてくれるので気持ちが良い。
「それにしても、エドワード王太子殿下はレイラ王女を連れてこなかったのですね。お会いできるのを楽しみにしていたのですが⋯⋯」
「レイラが愛されているか心配しているのですね。エドワード王子はレイラを大切にして信頼してくれているようですよ。そこに愛という感情があるかは分かりませんが、レイラはおそらく自分の愛する優秀な彼のために動くことに喜びを見出しているようです」
サイラス様が私の考えていることなどお見通しでドキッとした。
「すみません、お節介な心配をしているのがバレてしまいましたね」
「ちなみに私はイザベラと一緒に旅行したくてついてきました」
私がビアンカ様の結婚式に行くと行った時、国王であるサイラス様が国を空けて良いのかと心配した。
私の初めての友達の結婚式をお祝いしたいから行くと言って彼は同行してきたのだ。
「もしかして、私と離れるのが嫌だったのですか?」
つい聞いてしまった自分の言葉に思わず照れてしまう。
「嫌に決まってますよ。いつも一緒にいたいです。イザベラ」
サイラス様が頬に軽く口づけをすると耳元で囁いてきた。
「あの、フィリップ王太子殿下をルイ国のアカデミーに交換留学させることはできますか?」
あまりに良い雰囲気になり緊張していのか、声が裏返ってしまった。
本当は私も一緒にいたいと返すべきところで、思わず違う話を出してしまいまた空気を読めなかった気がする。
「イザベラ、今度は何を考えているのですか?イザベラはいつも思いもよらぬことを思い付きますね。実はあなたの考えが一番読めません。だから、私はどんどんあなたに夢中になってしまているのかもしれませんね。フィリップ王太子は優秀なので当然交換留学はできると思います。しかし、彼は現在サム国の王家の好感度と尊敬を保っている生命線です。彼もそのことを理解しています。そんな彼が国を2年留守にすることは考え難いです。我が国としては、世界一裕福なサム国の次期国王と強いパイプが作れるので留学してきてくれればメリットがあります。しかし、イザベラが考えているのはきっとそんなことではないのですよね」
「フィリップ王子殿下を見た時、転生者かと思うほど子供に見えませんでした。私はなぜかレイモンド様の苦悩しただろう話を聞いても、冷たいかもしれませんが何とも思いませんでした。それどころか自分の心に宿った怒りを、女性にぶつけるような彼の振る舞いに嫌悪感さえ湧きました。そういったレイモンド様の行動や、理不尽に非難された両親の陰で王家のためにひたすら11歳の子がその身を捧げてきたのですよね。サム国の国内では常に完璧な振る舞いを国民から求められて監視されているというのは辛くはないでしょうか?彼を見ていると前世の弟や今世の弟であるカール様を思い出すのです。きっと辛いことがあるのに表には出さないのです。ルイ国で2年間のびのびと過ごしたら、後で良い思い出になるのではないかと思ったのです」
「イザベラのいう通り、サム国で彼がアカデミーに入ると誰と会話するにも、会話内容も振る舞いも常に周囲から注目されます。揚げ足取りのようなことをされる恐れもある中で、のびのびとは生活できないでしょう」
サイラス様は私の無理な提案を真剣に聞いてくれて嬉しい。
「私はルイ国で留学した2年があったから、ライ国に戻り孤独を感じても心には拠り所がありました。私の考えは幼いとは分かっています。彼はそのような思い出作りなどしたいとも考えていないかもしれません。でも、彼に提案だけでもしても宜しいですか?」
私のような未熟な人間とフィリップ王太子殿下を一緒にしてはいけないとは分かっている。
「もちろんです。フィリップ王子殿下はイザベラのいう通り、私から見ても息が詰まるような生活をしているのは想像できます。世界一裕福だと言われるサム国の次期国王です。みんなが彼の生まれを羨むと思います。しかし、そんな彼が苦しいのではないかと考えるのがイザベラなのですね」
サイラス様はそういうと私を愛おしそうに撫でてくれた。
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