23.僕の本物の演技を見せてやることにした。
入学式を終えて、交流会まで時間があるので探検でもしようと外を回った。
人だかりができていると思ったら、ルブリス様がイザベラ様を問い詰めていた。
「イザベラ、どうして手紙の返事をくれないんだ? 演劇だって君に観て欲しくて作ったのに⋯⋯」
僕は演劇を観たから、彼がイザベラ様に愛を伝えたくて作品を作っていると分かっている。
でも、一方的な彼の想いは彼女にとって負担でしかない。
自分も彼女の心の負担になるような告白をしてしまったことをルブリス様を見て反省した。
彼女はサイラス国王陛下以外の男性から気持ちを寄せられるのを負担に思っている。
そのようなことは彼女と接していれば分かっていたはずだ。
「手紙の返事は、あんなことがあったので書こうとすると不安になって書けませんでした。2枚チケットが入ってましたが、誰と来て欲しかったのですか?」
周りに人がいるのに「あんなこと」などと何かを仄めかしてしまったイザベラ様に不安を感じた。
彼女は結構、必死になると周りが見えなくなることがある。
今の発言でルブリス様との関係を変に邪推されたら可哀想だ。
「1枚は無くした時のための予備に決まっているだろう!」
ルブリス様とはまともに話したことはなかったが、結構天然なのだろうか。
そして、話し方が演劇の主人公といった感じで芝居がかっている。
兄上の太々しい感じと違い、憎めない感じはするがイザベラ様を苦しめる彼は排除するべきだ。
僕は彼女の心に負担になると分かっていながら、告白をしてしまったという大きな借りがある。
僕は世間知らずで甘ったれた元王子のルブリス様に、生まれてからずっと演技してきた僕の本物の演技を見せてやることにした。
「僕とララア王女の為だと思いました。イザベラ姫はもうサイラス国王陛下のものなのです。今のあなたは間男ですよ」
「誰だお前は!」
ルブリス様に会うのは初めてではない。
彼は僕の名前を覚えていないのだろうか。
「廃嫡王子に名乗る名などありません。ただ、イザベラ姫の幸せを願う騎士の一人とだとでも言っておきましょう。これが姫を守る騎士として任命された証です。ここにいる皆様もお持ちですよ。あなたがこれを持っていないということは、姫から必要とされていないということなのです」
僕が先ほど配られたマスコットを掲げると、周りにいた生徒も慌ててマスコットを掲げ出した。
僕の武器はサム国を背負ってきたという自負と、大衆を導くことができるカリスマ性だ。
僕にかかれば、咄嗟に周囲を扇動することくらい造作もない。
「その可愛い人形は何なんだ? どうしてみんな持っているんだ?」
ルブリス様は純粋な人なのかも知れない、本当に驚いていてマスコットを掲げている皆を見回している。
「私の手作りです。ルブリス様には絶対あげません。もう、あなたは私の人生に必要ありません。仲良くなれると思った日もあったけれど、もう2度と関わりたくありません」
優しく器の大きいイザベラ様の強い拒絶の言葉を聞いて、ルブリス様がきっとイザベラ様にとって許せないことをしたことを理解した。
余程のことがないと、彼女は人に対してここまでのことは言わないだろう。
あまりのイザベラ様の強い言葉に、ルブリス様の翡翠色の瞳が潤み出している。
「君のことが好きなんだ。私が一番愛しているのに、どうしてそのような悲しいことを言うんだ。このように拒絶するなら、最初から私に手など差し伸べなければ良かったではないか。もう、君しか女性に見えないのに、これからどうやって生きていばいいんだ。君がいないと、私はどう息をして良いかも分からない」
涙をポロポロ流しながら訴えるルブリス様に、イザベラ様の心が揺れ動いているのが分かった。
どうしてこんな臭い芝居に心が動いてしまうのか、彼女が心配で仕方がない。
このような男に付き合って、一々傷ついていたら彼女の身が持たないだろう。
もう、これくらいでこの場は閉めてしまった方が良いだろう。
「皆様、お楽しみ頂けたでしょうか。現在、ルイ国ではルブリス様の演劇が好評です。彼にはこの後、サム国でも演じて頂こうと思います。その後はレオハード帝国に渡って頂き、広く演劇の素晴らしさを伝えてもらいましょう。さあルブリス様、まずはサム国までご案内します」
僕の言葉に周りから拍手が巻き起こる。
ルブリス様の演劇の紹介ということで、この場をおさめることに成功したようだ。
明らかにルブリス様は興奮してしまっていて、今の状況を理解していないようだった。
とりあえず、このまま彼をサム国に連れて行って演劇を少しさせたら、レオハード帝国行きの船に片道切符で乗せてしまおう。
サム国から海路を使えば1ヶ月で行ける帝国も、陸路で多くの国を通ると手続きも大変な上に半年以上は掛かる。
果たして彼は自分の力で帰って来れるだろうか。
今まで自分がどれだけ周りに助けられていたか思い知るが良い。
僕はイザベラ様に1ヶ月ほどアカデミーを休学をすることを告げると、ララア王女とルブリス様を連れてサム国に戻った。
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