22.そう簡単に忘れられるような相手ではない。(フィリップ視点)
今日はアカデミーの入学式だ。
僕は3年次として入学して、1年間で卒業資格を取る予定だ。
入学式の王家代表の挨拶はイザベラ様がすることになっている。
僕は噂の彼女の素晴らしい演説が聞けると思うと、楽しみで仕方がない。
彼女を想う気持ちを僕は完璧に隠せている。
しかし、彼女はそう簡単に忘れられるような相手ではない。
彼女はサイラス国王陛下の役に少しでも立ちたいと、陛下が直接接することのできない平民の話を聞いて街を回っていた。
人々の悩みを直接聞きながら、街のボランティアを募って雪かき問題を解決したり頑張っていた。
手作りの編みぐるみをプレゼントして、一人でも多くの人と仲良くできないかと努めていた。
自然体でいじらしい彼女をどんどん好きになったけれど、同時に王妃になれば彼女は演技をしなくてはならないだろうと思った。
意外にも僕からの告白を受けたイザベラ様は動揺していないようだった。
サイラス国王陛下に僕から告白を受けたことを悟られないように動揺していない演技をしているのかもしれない。
いつだって彼女の行動の原点はサイラス国王陛下なのだ。
いつも自然体のように見えた彼女に、演技をさせてしまっているのは忍びない。
街を一緒に回った時も思ったが、彼女は自然体でルイ国の国民から好かれている。
優しくて、温かくて、控えめな彼女は親しみやすいのだろう。
でも王妃になる以上、他国の要人とも関わらなければならない。
揚げ足を取られないよう細心の注意を払い、舐められないよう気位の高い高貴な感じの演技も求められる。
僕はララア王女と婚約したいという旨をサイラス国王陛下に伝えた。
国王陛下はとても喜んでくれた。
僕がルイ国を離れる1年後に、サム国に一緒にララア王女を連れて行こうと思った。
もしかしたらその前に一度少しサム国の王家の現状を、彼女に見せに行ったほうが良いかも知れない。
彼女は家族のような国民と仲の良い家族しか知らない。
彼女と話せば話すほど、彼女のサム国への現状認識が甘さが露呈してくるのだ。
イザベラ様が壇上に上がり優雅に挨拶をすると、歓声が上がった。
彼女はアカデミーにいるような貴族にも人気があるようだ。
「皆様、本日はご入学おめでとうございます。私がアカデミーに入学した時は不安な気持ちでいっぱいでした。私は友達を作るのが苦手で2年間のルイ国のアカデミー生活でも友達はできませんでした。しかし、アカデミーは勉強するところと割り切り何とか頑張りました。ライ国に戻ったら、孤立してしまい孤独に打ちひしがれました。私はその時になって、ルイ国にいた際に周囲の方にどれだけ助けられていたかを知りました。サイラス国王陛下やルイ国の皆さんに会いたい気持ちを胸に今ルイ国に戻ってくることができました。皆さんもアカデミー生活に期待と不安があると思います。友達ができなくて寂しい時は、アカデミーは勉強するところと割り切りましょう。別に休んでも家で自習しても構わないと思います。虐めにあったり、辛くなった時は私に手紙をください。ここが合わないと思ったら、他の国のアカデミーに留学する方法もあります」
イザベラ様の演説が予想外のもので聞き入ってしまった。
彼女はとても人気者に見えたが孤独で友達がいなかったらしい。
「ライ国には交換留学の実績がありますし、私の唯一の友人であるビアンカ女王陛下がアツ国も留学希望者がいたら受け入れてくれるとおっしゃっていました。今日皆さんと一緒に入学するサム国のフィリップ王太子殿下も親切な方なので、サム国のアカデミーに行きたいという方がいたら受け入れてくれると思います。殿下は本日から3年生の授業を受けます。3年生の授業は他の学年と違い議論する形式です。サム国の次期国王になられる殿下と是非話したいという方は、3年生の授業にお邪魔してみてください」
突然名指しされて、注目が集まり微笑みを返す。
確かに僕が留学生として受け入れてもらったのだから、ルイ国から希望者がいればサム国のアカデミーも受け入れるべきだろう。
自分もイザベラ様の話に聞き入ってしまっているが、それまで退屈していた生徒も皆聞き入っている。
儀礼的なものもカッコつけたものでもなく真心がこもった演説に心が温かくなる。
「最後になりますが、改めてご入学おめでとうございます。お祝いに私からささやかながらプレゼントがあります。肖像画を見ながら作ったので似ているかは分かりませんが、皆さんのマスコットを作ってみました。私は3ヶ月後この国の王妃になります。私がどういう人間なのか、皆さんも不安だと思います。私は皆さんと仲良くなりたいと思っていて、サイラス国王陛下を皆さんと支えていきたいと思っている人間です。よろしくお願いします」
イザベラ様の言葉に歓声と拍手が鳴り止まなくなる。
マスコットと言って配られたのは入学した生徒1人1人の拳の大きさくらいの編みぐるみだった。
彼女は200人近くの編みぐるみをいつの間にか作っていたのだ。
その編みぐるみには、ルイ国の人に自分を受け入れて欲しいという彼女の想いが篭っている気がした。
そして、僕は思わぬ初恋の人からのプレゼントに胸が熱くなった。
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