16.世界一魅力的で、残酷な女性。
「イザベラ様、出会った時から、ずっとあなたが好きでした。これからもあなたを想い続けることをお許しください」
思っても寄らなかった告白をフィリップ様からされて私は固まってしまった。
「兄上に8歳の子と婚約するような突拍子もない助言をしたあなたが気になっていました。ビアンカ女王の結婚式でサイラス国王陛下の隣にいるあなたを見た時からあなたのことしか見えなくなりました。皆、僕の生まれを羨み妬みます、そんな中誰にも気づかれなかった僕の苦悩に気がついてくれたのが一目惚れしたあなたでした。その後も僕のことを考えて、色々アドバイスをくれたり気を回してくれましたね。僕の立場に立ってください。イザベラ様に恋をしないことなんてできませんよ。人の気持ちを後戻りできないところまで引き寄せた後、自分は最初から最後までサイラス国王陛下一筋などと死刑宣告のようなことを言うんです。イザベラ様は世界一魅力的で、世界一残酷な女性です」
「申し訳ございません。そのようにフィリップ様が思われているとは思っても見ませんでした」
「安心してください。僕はルブリス様とは違います。しっかり、ここで身を引きますよ」
私は彼の言葉に、自分がルブリス様にも彼と同じようなことをしてしまったのではないかと罪悪感が湧いた。
「ありがとうございます。私はサイラス様以外の方からのお気持ちは受け入れらません」
「受け入れられなくても、僕がこれから誰と結婚しようとあなたを想い続けることは知っておいてください」
私の首に顔をうずめていて彼の表情が見えないが、声色から怒っているのがわかる。
「はい、ごめんなさい。本当に怒っているのですね」
「そうですよ。本当にあなた怒っています。サム国でイザベラ様と一緒になって、あなたが側にいて僕の本音を受け止めてくれたらどれだけ心強いか想像するんです。母上への憎しみは無くなりましたが、それでも僕は彼女に不満があります。サム国の王族として生まれた以上、周囲の理想とする夫婦を演じるべきです。公務を子供に丸投げして夫の態度にむくれているなんて、もっての他です。僕は彼女の振る舞いに文句を言いたかったですが、手紙には労りの言葉を書きましたよ。イザベラ様褒めてくれますか? 誰も僕のことを羨むばかりで褒めてくれません。イザベラ様だけです」
「サイラス様もフィリップ様のことを褒めていましたよ」
私はサイラス様がフィリップ様の聡明さやララアを預けても良いくらいしっかりものだと褒めていたことを思い出した。
「イザベラ様、ここでサイラス国王陛下の名前を出すのは僕に対して残酷だとはわからないですか?」
フィリップ様が私の首筋にうめていた顔をあげ、私に目線を合わせてくる。
キスをされそうな角度で顔が近付いてきて、怖くて思わず目を瞑ってしまった。
「イザベラ様、怖がらなくてもそんなことはしませんよ。あなたは残酷だけれど、僕の救いの女神でもあります」
目を開けるとものすごい近くに、愛おしそうに私を見つめるフィリップ様の顔があって驚いてしまった。
女神という言葉に、以前ルブリス様も私をそう呼んでいたことを思い出した。
きっと、私はフィリップ様にしたのと同じようなことを彼にしてしまったのだ。
だからと言って、ルブリス様とフィリップ様は違う。
フィリップ様は身を引いてくれると言ってるが、ルブリス様は気持ちを押し付け私を一方的に押し倒してきた。
「私は女神ではありません。私が空気の読めないようなことばかりしてしまって、ご迷惑をおかけしました」
私がフィリップ様の為を思ってした行動は、彼を傷つけることにもつながっていたようで申し訳なくなった。
「迷惑ではありません。僕は自分が誰かを好きになることができる人間だとは思っていませんでした。だから、あなたは一生に一度の貴重な機会を与えてくれた大切な人です。僕はララア王女と婚約しようかと思っています。彼女はスパイになれるような方ではなさそうなので安全そうです。もちろん兄上が手をつけた相手でもありません。ルイ国の王女ならサム国の国民も納得するでしょう。僕はそうやって国のことを一番に考えてきた人間です。だから、結婚も政略的に考えてします。イザベラ様を無理やりサム国に連れて行っても、あなたは大好きなサイラス国王陛下を優先に動きそうですしね。サム国にとって危険なイザベラ様は諦めて、安全なララア王女を連れて帰るのは僕らしい選択です。サイラス国王陛下のようにあなたを誘拐することは僕の妄想の中だけに留めておきます。これで、僕の本音披露はおしまいです。お気をつけて部屋まで戻ってくださいね。寝巻き姿を誰にも見られないようにした方が良いですよ」
「はい、気をつけます。ララアのことを宜しくお願い致します」
彼が抱きしめる手を緩めてくれたので、私はお辞儀をして彼の部屋を出た。
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