15.本当に罪深い人ですね。
「エリス様、ライアン様、おめでとうございます。エリス様、お身体を休めてくださいね。エリス様と可愛い赤ちゃんへの贈り物です」
私が贈り物を出すと、エリス様が嬉しそうに笑ってくれた。
エリス様が可愛い銀髪の女の子の赤ちゃんを抱っこしている。
緑色の瞳はエリス様そっくりだ。
「イザベラ様、心のこもったプレゼントありがとうございます。赤ちゃんの帽子とカーディガンと靴下のセット可愛すぎです。アツ国では赤ちゃんに編んだ靴下をプレゼントする風習がありますよね。ルイ国もそのような風習をイザベラ様が作ってみてはどうでしょうか?このような可愛い赤ちゃんセットは絶対に流行します」
エリス様が流行について語ってくれているのは、流行を作り出すのが王妃の仕事だからだろう。
このような時まで私のことを考えたアドバイスをくれようとする彼女の優しさに胸が温かくなった。
「エリス、あなたはそのような事ばかり言っていないで、もう寝た方が良いですよ。30時間以上寝てないですよね。赤ちゃんとは一度離れましょう。休んでください、まずは自分を大切にしてくださいね」
「ライアン、最近あなたが優しくて実は慣れません。ところで、赤ちゃんの顔を見たら考えると言ってた名前は決まりましたか?」
「顔を見たら決まるような名前なら、顔を見なくても決まってます。一生使う名前ですよ、焦って決めるものではありません」
昔、ライアン様がエリス様の弱点を探るよう私に言ってきた時からは想像も出来ないほど仲良くなった2人を見て私は微笑ましい気持ちになった。
「ライアン、エリス様、改めておめでとうございます。私達もそろそろ休みましょうか」
サイラス様に促されて、私は自分の部屋に戻り床についた。
♢♢♢
ベットに横になっても、赤ちゃんを見た興奮でなかなか寝付けなかった。
私とサイラス様の赤ちゃんに会える日も来るのだと思うと胸がドキドキしてしまった。
その時、廊下に人の気配があるような気がして私は廊下に出た。
「フィリップ様、どうかしました? もしかして、フィリップ様も赤ちゃんを見た興奮で眠れないのですか? 宜しければ、お部屋までお送りします。お話をしたいことがあるのです」
彼の部屋から私の部屋の前までは離れているので、何故彼がここにいるのか不思議に思った。
「ありがとうございます。ちょうど僕もイザベラ様と話したいと思っていたところなので甘えさせてもらいます」
フィリップ様が微笑んでくれるので、私は彼の部屋に向かいながら話をすることにした。
「アカデミーの件サイラス様に相談したのですが、3年生の授業を受けて卒業資格をとる形での入学で大丈夫だとのことでした」
「そうですか、僕や母上のことまで気にして頂きありがとうございます。イザベラ様と話してから母上に手紙を書きました。母上に僕の気持ちが伝わって、少しでも彼女の心が軽くなれば良いですが⋯⋯」
フィリップ様が孤独に苦しんでいるだろうサム国の王妃様に手紙を書いたと聞きホッとする。
「きっと、お母様に気持ちは伝わりますよ。それとルブリス様の演劇に興味がおありと聞きました。とても良い席のチケットを頂いたので、ララアと観劇に行きませんか? 彼女は物語を読むのが大好きなので、きっと喜ぶと思います」
「イザベラ様も僕とララア王女をくっつけたいのですね。あなたが望むならその通りにしますよ」
私とサイラス様の思惑がバレてしまっているようで、私は少し気まずくなってしまった。
「到着しましたね、今日は街歩きの中でも助けて頂いてありがとうございます。よく休んでくださいね。お休みなさい」
私がお辞儀をして立ち去ろうとしたら、フィリップ様に手を引かれて部屋に連れ込まれた。
「あのフィリップ様、何かまだお話がありましたか?」
「ルイ国の王宮の警備は緩いですね。サム国ならここまで来るのに夜間警備の騎士に10人は出会します。イザベラ様もそんな寝巻き姿で廊下を歩いてはいけませんよ。今、この状況を誰かがみたら、あなたが僕の部屋に夜這いに来たと思われてしまいます」
「フィリップ様はまだ12歳ですよ」
彼はこの間12歳になったばかりだ。
そのような子供に夜這いなどするはずもない。
いつも微笑んでいるフィリップ様が真顔で怖い。
廊下を寝巻きで歩いてしまったのは迂闊だった。
前も1度ライアン様に注意をされたのに、油断していた。
「12歳だからなんですか? 僕はずっと大人扱いされてきたので年なんて気にしても無意味だと思っています。僕は今まで誰にも本心を明かしたことも、本当の姿も見せたことがありません。でも、今だけはイザベラ様に本当の僕で接します。イザベラ様はショックを受けると思いますが、自分のしたことの結果が生んだことだと思って反省してください」
なんだかフィリップ様が怒っている気がして、私は緊張してしまった。
「はい、どんなフィリップ様も受け止めます。反省もします」
とにかく彼を不快にさせるような言動をしたのであれば、受け止めるべきだと思った。
「本当に罪深い人ですね。イザベラ様。」
彼はそういうと私をギュッと抱きしめて首筋に顔をうずめた。
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