14.全ては赤ちゃんのお心次第です。
「出産は来月ではなかったでしたっけ?」
確か予定日は来月だった気がしたので驚いてしまった。
1ヶ月も早く生まれてきて、私は赤ちゃんのことが心配になった。
「予定は予定ですよ。いつ生まれてくるのか分からないのが赤ちゃんです。少ししてから行きましょうか。今はパパ、ママと赤ちゃんの再会タイムです」
サイラス様が嬉しそうにしているので、私も嬉しい気持ちになってくる。
彼は兄弟が多い分、赤ちゃんの誕生に慣れていそうだ。
「そうなんですね、知りませんでした。てっきりレイモンド様が早く生まれたことで疑いがかかったと聞いたので予定日に生まれるものなのかと思ってました」
「予定日に生まれてくる子なんてほとんどいませんよ。全ては赤ちゃんのお心次第です。サム国のレイモンド様の出生月が攻撃のターゲットになったのは、国民が自分のストレスが溜まっている時の発散先として、王妃様に責め所を見つけた完全な悪意によるものです」
私は彼の言葉にショックを受けた。
王子の誕生という国としては喜ばしい出来事のはずだ。
きっとみんなは喜んでくれると思っていただろう王妃様は、予想外に責められてどれだけ苦しい目にあったことか。
「サム国は気候も温暖な上に裕福で、女性を大切にする国として有名で移民も多いです。しかし、生まれた土地を離れてきてまで移民してきた優秀な方が皆思ったような生活ができる訳ではありません。その上、移民の方が結婚相手を見つけるのは大変だったりします。そして、元から住んでいる人間もポジションを移民の優秀な人間に取られないかとストレスを持っています。優秀な女性が来る分、ポジション争いや求められ強い貞操観念に疲れて他国に出ていく男性もいたりします。国民の抱えるストレス数値が自然と高くなりやすいのです」
「そうなのですね。確かに人の出入りがあるとそれなりにストレスがあるのかも知れません。ルイ国は割と温和な人が多いですね」
私は前世で虐められた地元から逃げたくて東京に出たが、東京の人がピリッとしていたのを思い出した。
「ルイ国の国民は幸いにも国を気に入って住んでいる人が多いです。そして、このような豪雪地帯にあえて移民してくる方は少ないですね。環境的には住み慣れてないとキツイものがありますから。でも、人々は雪国マインドを持っている人が多いのでおおらかで優しい方が多いです。イザベラはルイ国を気に入ってくれていそうで何よりです」
「はい、ルイ国の方たちも大好きですし、サイラス様の側にいられることが私にとって何よりの幸せです。」
「イザベラが可愛いことばかり言いますね。これ以上、私を夢中にさせてどうする気なのでしょうか」
サイラス様が両ほっぺにキスをしてくるので、私はこれ以上にないくらい照れてしまった。
「フィリップ王太子殿下はサム国の王族らしい警戒心を持ってますね。やはり兄であるレイモンド様が弾けすぎたせいで、自分がしっかりしなければいけなかったからでしょう。私が兄弟を他国に送って周辺諸国の侵略を試みていると疑ってきた時は、彼はいつも気が張っているのだろうと少し心配になりました。ルイ国は実は雪や山といった自然に守られたりもしています。それに比べてサム国は周辺諸国だけでなく、帝国など海路でやり取りのある国からの侵略の危機にも常に直面しています」
「そうなのですね。では、サイラス様の壮大な侵略計画はなかったのですね。私の不用意な発言がサイラス様の計画を邪魔してしまったのではないかと思って申し訳なく思っていました」
私が争いが怖いと言ったことで気を遣って、侵略計画はないと言ってくれているのかも知れない。
それでも私は彼がそう言うのならば信じようと思った。
「イザベラの心を侵略する計画はありましたよ」
私は前にサイラス様に私の心を征服したいようなことを言われたことを思い出し、恥ずかしくて思わず話を逸らした。
「ふふっ、そうですね。エリス様のところに行く前に私の部屋に寄っても良いですか? 赤ちゃんとエリス様へのプレゼントを作ったのです」
「何を作ったのですか? イザベラはすごく忙しくしているのに、いつの間にか何かを作ってて本当にすごいですね」
サイラス様は私が嬉しい言葉をたくさんくれる。
褒められても裏をとってネガティブに捉えてしまう私が、彼の言葉は素直に受け入れられるのだ。
「赤ちゃんのニット帽と、カーディガンと、靴下です。エリス様には膝掛けを作りました」
「とても喜ばれると思います。私にくれた編みぐるみが着ているお洋服のデザインも可愛いですよね。黄色と青を合わせたり色彩を選ぶセンスがありますね」
サイラス様が褒めてくれるので、実は前世の北欧雑貨を参考にして色を選定していることは秘密にしておこうと思った。
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